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What Do We Pay for Civilized Society?

税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。

Trump次期大統領とDES

New York Timesこの記事
経営するカジノの再建にあたって問題となった債務免除益課税について,Trump次期米国大統領が"Stock-for-Debt Swap",日本でいう「デットエクイティスワップ(DES)」の手法を用いてこれを回避した旨が伝えられている。
DESとは,読んで字のごとく,債務の返済に苦しむ法人等が,債務と出資を交換してもらう取引である。一般的な法形式としては,債権者が債権を現物出資し,それに対して債務者が株式を発行する形式で行われる。債務者の事業再生が果たされる一方,債権者にも債務者の経営再建後に株式の売却益が得られるというメリットがあるとされる*1
DESにより債務を免れたことから課税所得(債務免除益)が生じるか否か,ということは,日米共に議論が盛んに行われて来た。ほとんど無価値の株式を発行して債務から免れたのだから利益が生じるとも考えられるし,ただ債務と株式を等価交換しただけであり利益は生じないとも考えうる。
この記事にも記載があるが,米国では,1993年まで,DESを受けた法人に課税所得(債務免除益)が生じるものとは取り扱われてこなかった*2。Trump氏が用いたpartnershipのDESは,更に2004年まで債務免除益が生じるとは考えられていなかったようである。Trump氏は,この仕組みを上手く利用したと言える。これをずるいと評するかどうかは,人により異なるだろう。
日本では,適格現物出資にあたる現物出資型DESにつき,混同(民法520条)から益金(法人税法22条2項)である債務免除益が生じる旨判示された裁判例がある*3。現在では,税制改正により,適格現物出資にあたるDESからは益金が生じる旨が明らかにされている(法人税法8条1項8号)。最近の事例として,DESから益金が生じる旨の説明義務を果たさなかったとして税理士への損害賠償請求が認容された裁判例がある*4

*1:「私的整理に関するガイドライン」Q&A(https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/bunshokaito/hojin/050511/guideline.pdf(pdfにつき注意))のQ38参照。

*2:高橋祐介「企業再生と債務免除益課税」総合税制研究12号(2004年)169頁参照。

*3:東京地判平成21年4月28日税資259号順号11191。控訴は棄却され(東京高判平成22年9月15日税資260号順号11511),上告は不受理(最決平成23年3月29日税資261号順号11656)。

*4:東京地判平成28年5月30日(未公刊,LEX/DB文献番号25543800)。

1000アクセス突破しました!(このブログの目的とか)

題名の通り,1000アクセスを突破しました!
一介の大学院生がただやったことをまとめているだけに等しいこのブログにのべ1000人の方が訪れてくださって(そのうち50人くらいはたぶん私ですが),最低でも題名は1000回見ていただいたということ,とてもありがたいと思っております。
もっともっとたくさん見ていただけるよう,今後とも精進して参ります!コンテンツの拡大,とかはあまり考えていないのですが(あ,でも,こんなこと書いて欲しいとかあったら検討します),興味あることをなるべく頻度高く書いていきたいです。

これだけだと何にもならないので,このブログを始めた目的について,書いてみたいと思います。
このブログを始めた目的は,①今まで自分が発表したものをまとめておいてかつ発信する場が欲しかった,というのがまず一番にあります。researchmapもあるんですが,あまりコメントを付したりできませんし,味気ないし,たぶん研究者の方しか見ないですよね。このブログに来れば,藤間大順という税法を研究しているらしい人が何を考えているか朧気ながらわかる,みたいな場を目指したいです。
上記目的と重なるのですが,②インプットのためのアウトプットをしたいな,という動機もあったりします。博士前期課程の間は発表に継ぐ発表という感じで,その発表のために勉強をして知識を蓄えたことが今の糧になっています。博士後期課程になると,なかなか発表の機会は自分から作りに行かないと無くて,正直,勉強が足りていないんじゃないかという恐怖心があります。ブログに何か書いて色々な人からコメントやお叱りを受けたりして,そこで自分を鍛える場としても使いたいな,という動機はありました。
①に重なる部分は,業績だったり研究活動だったり色々書いています。②は今のところ判例研究しか無いのですが,ゆるゆる色々と書いていきたいと思います。今後ともどうぞ宜しくお願いいたします!

第01回租税実務Lightning Talk

昨日,この企画に参加いたしました。
主催の小塚先生と奥さま,場所を提供してくださった田辺総合法律事務所の皆さま(特に主催の吉峯先生),誠にありがとうございました。
当日の流れについては,ぱうぜ先生が実況してくださいました。吉峯先生がとぅぎゃってくださっています。ありがとうございます!↓
togetter.com


当日はとても興味深い話ばかりでした。第一線で活躍されている先生方のお話は,今後の研究に資するものばかりでした。今やっている研究会のテーマに直結する発表もありました。また,小塚先生の発表は処女作で扱った裁判例について論じているものでした(資料をこちらにアップロードしてくださっています)。
それらに比べとても拙いものではありましたが,私も発表をいたしました。修論で書いたことの一部について,「論理的に考えたらこうなるよな」ということを述べました。
資料はこちらにアップロードしております。個人的には,オチがしっかりウケて良かったです。後輩たちに聞いてもらった時はダダ滑りだったので…↓
docs.com


発表後,参加者の方々からコメントをいただくことができました。
若手法学研究者フォーラムでお世話になっているぱうぜ先生からとても有益なコメントをいただけました。法学部出身ではないので,正直税法以外の分野の知見は完全に足りていないのですが,しっかりとそれを踏まえつつ,でも今の方向性を信じて頑張りたいと思います。ありがとうございます!
また,なんと修論加筆修正版の上を読んでくださっている方がいて,かつ僕には無い視点から指摘をしてくださり,とても参考になりました(ありがとうございます!)。

7月の若手法学研究者フォーラムに続きライトニングトークは2回目なのですが,正直まだまだ慣れません。ただ,自分の関心のエッセンスを抜き出してそれを5分間で伝わるように説明するというのは,恐らく研究者として(たぶん実務家としても)とても重要なスキルなのだと思います。エッセンスが上手く詰まっていれば,とても有益なコメントをいただけるのだな,と思いました。
今後とも機会があればぜひやっていきたいです。学内とかでもやってみたいなー。あと,この企画についても,ぜひ第02回も参加したいです!重ね重ね,ありがとうございました。

ディベート大会

先週末(11/5(土),6(日)),四大学税法ゼミディベート大会(以下「四大戦」といいます)に参加してまいりました。参加といっても私自身がディベート自体に参加した訳ではなく,Teaching Assistant先のゼミ*1の学部生について行く形でした。

四大戦は,20年以上続いているイベントのようです。参加大学に変遷があり,現在は,関西大学名城大学立命館大学および弊学の税法ゼミが参加しています。主催は持ち回りで,今回は名城大学の伊川先生のゼミが主催してくださいました(とても快適に参加できました。伊川先生はじめ名城大学の皆さま,ありがとうございました!)。

下記の通り勝敗が決まるのですが,今回は立命館大学が優勝,弊学は2位でした。弊学のゼミ生達はとても良い議論をしていて,多少なりとも指導をお手伝いした者としてとても嬉しかったです。他大学の皆さんも,素晴らしい議論をしていました。

 

四大戦が恐らく発祥なのですが,弊学の学内のイベントとしても,同じ形式でのディベートが行われています。5月に大学院生同士(M1対M2)でのディベートがあったり,10月に税理士の先生方を招いて四大戦に向けた学部生との練習試合をしていただいたり,あとは税法ゼミ同士での対抗戦があったり(TA先のゼミと指導教官のゼミの対決になるので,どちらを応援するか非常に困ったりはするのですが)。私自身も,修士(博士前期課程在籍)時代にディベートで得たものがとても大きかったと感じています。

ディベートは,以下の形式で行われます。

  1. 立論(5分)×2

  2. 作戦タイム(2分)

  3. 質問(8分)×2

  4. 作戦タイム(1分)

  5. 最終弁論(1分)×2

を1セットとし,立場を入れ替えて2セット。

立論とは,事前に作成してきた自分たちの主張を読む時間です。質問とは,自分たちの立論や相手の立論を元に質問を行う時間です。最終弁論とは,立論および質問を経て再び自分たちの主張を行う時間です。

基本的に判例や裁判例を用いて原告側被告側に分かれてディベートは行われるのですが*2,立場を替えて2セット行うことで,有利不利が生じないようになっています。また,最終的に,審査員(基本的には3人)の評定により勝敗が決します。

 

上記の通り,私自身がその恩恵に与ってきたのですが,ディベートはとても高い教育効果を持っていると思います。

副次的に得られるものはたくさんあります。立論の作成を通して,法学の方法(法的三段論法)に基づいた説得的な文章の作成を学ぶことができます。また,そのディベートについての基本的かつ(原告被告いずれも担当する以上)偏りのない知識を身に着けることができます。同じチームの仲間と仲良くなれることも,重要な効果と言えましょう。しかし,やはり本質的には,議論をする力それ自体が育まれることが,ディベートの最大のメリットだと思います。

議論をする力を得ることには,大きなメリットがあります。議論とは,相手の主張を無視して自分の主張を押し通すことではありません。議論とは,どんな種類のものであれ,他者を理解することと自分を理解してもらうこと無くしては成り立ちません。議論とは,他者を理解する一つの営みである,とすら,言っても良いのではないかと思います*3

例えば,「哲学の父」ソクラテスは,自らが行う哲学的議論のことを「産婆術」といいました*4。相手が産もうとして苦しんでいる知識を,助産師さんのごとく取り上げてあげること,それが議論なのである,ということです。哲学以外の議論も,私は同様の側面があるように思います。議論を行う過程で,相手の考え方を理解し,同時に自分の考え方もクリアになっていく。その上で,是非を話し合う。議論とは,そのように,相互理解とそれによる深化を伴って為されなければならないと思います。

そんな,議論をすることの本質を得る力を,ディベートは培ってくれます。私自身がディベートを行う機会はもうあまり無さそうなのですが,ディベートに向けた指導のお手伝いなど,今後とも何らかの形で関わっていきたいな,と思っています。

*1:青山学院大学 木山ゼミ (@kiyamaseminar) | Twitter

*2:最近では,租税政策(立法政策)についてのディベートも行われています。

*3:この点,契約理論における,交渉による条項の追加を繰り返して契約全体のパイを増やすという発想には,非常に共感を覚えます(ハウェル・ジャクソンほか(神田秀樹=草野耕一訳)『数理法務概論』(有斐閣,2014年)103~104頁参照)。ちょっと違う話かもしれませんが。

*4:プラトン(田中美知太郎訳)『テアイテトス[改版]』(岩波文庫,2014年)38~42頁参照。

地方税についての詐害行為取消権の行使の可否(名古屋地岡崎支判H27.2.16,名古屋高判H28.4.27)

判例研究的な記事も書いていきたいと思っています。
もっとも,Blogに書くのは恐らく自分の手には余る裁判例ばかりです。しっかりとした研究というより,少しラフな形になろうかと思います。ご容赦いただけたらと思います。

名古屋地岡崎支判平成27年2月16日(未公刊,LEX/DB文献番号2554313132),名古屋高判平成28年4月27日(未公刊,LEX/DB文献番号25543133)

1.事案について
(1)概要
 本件は,Y(被告・控訴人)に対して地方税法上の租税債権を有するX(原告・被控訴人)が,Yの行った送金をいずれも詐害行為(民法424条,地方税法20条の7)であるとして,Yおよび送金を受けた者(C・D)に対し,法律行為(YおよびCについては贈与,YおよびDについては債務の弁済)の取消しを求めた事案である。

(2)時系列
・平成18年
10月,Yが訴外Aに簿外の不動産を売却。売却益(30億円弱)について益金に算入せずに法人税の申告。
12月,Yが事実上倒産。
・平成20年
12月,Yの債務整理手続開始。Yから代表者Cに対する送金を2年間行う(計3,100万円強)。また,Yから元取締役で当時従業員のD(Cの婿)に対して送金(4,000万円)。
平成23年
1月,売却益の申告漏れにつき,所轄税務署長が法人税の更正処分。
4月,上記法人税の更正処分に基づき,所轄県税事務所長が法人事業税等の更正処分。

2.争点
 YがCおよびDに対して行った送金が,租税債権者に対する詐害行為として取消しの対象となるか。その前提として,送金が行われた時点で,地方税の租税債権が発生していたか。

3.裁判所の判断
(1)第一審 請求認容(納税者敗訴)
 「租税債権は,法律の規定する課税要件事実の存在によって当然に発生するものであり,課税処分は,単にその税額を具体的に明確にするものにすぎないと解すべきである…本件租税債権のうち,平成19年8月期の法人県民税,法人事業税,法人事業税重加算金については,既に発生していたことが認められる」。
 Cは,自らの受けた送金につき,私的整理手続の一環として,Yの債務をCが弁済するために行った負担付贈与行為であり,Yの債務整理手続の一環として債権者に不利益をもたらすための詐害行為ではないと主張した。しかし,当該行為は負担付贈与ではなく「無償譲渡であり贈与というべきであって,Yの積極財産を減少させる行為といえる。」また,「任意整理の一環として行われた債務者の財産を減少させる行為が詐害性を有しないとして許容されるのは,総債権者の同意のもとに,公平かつ公正な任意整理が行われたような例外的な場合に限られる」。これを本件について見るに,「Yの任意整理が,総債権者の同意のもとに,公平かつ公正な任意整理が行われていたとは到底いえず,Cの上記主張は採用することができない」。したがって,Cに行われた「本件贈与は,詐害行為として取消しの対象となる」。
 Dは,Yが破綻状態にあったことは認識しておらず,自らの受けた送金はYに対して有する債務の弁済であると認識しており,詐害行為を行う意思はなかったと主張した。しかし,本件における事実関係を見れば,Dに対してのみ債務の弁済をする必要性はない。Dに対する債務の弁済はDを通してその妻(=Cの娘)に対して資金を移転する目的で行われたものである。従って,Dに対して行われた「本件弁済は,…詐害性を有する行為といえる」。
 したがって,YからCおよびDへの送金はいずれも詐害行為である,として,Xの請求を認容した。

(2)控訴審 原判決取消し,請求棄却(納税者勝訴)
 租税債権の存否については,原判決を引用し判断を維持したが,「そもそも本件国税更正処分が正当なものであったか否かは,後記の通り疑問があ」るとして一定の留保を加えた。
 CまたはDが受けた送金が詐害行為に該当するためには,送金当時においてYに対する租税債権の発生(資産の売却益およびそれに基づく課税所得の発生)をCまたはDが認識していたことが前提となる。Aに対する資産の売却の代金は,「YがAに対して負担していた買掛金の債権と相殺することにより支払うものとされていた」。同時に,YがAに対して有する売掛金等の債権も減少しているが,これは「弁済による減少ではなく,実質的な貸倒処理がされたものと認められる」。このことは,Yの貸借対照表からも明らかである。つまり,Yの平成19年8月期の法人税の申告は「実質的な債務免除益(法形式に合致させると,資産売却益)と実施的な貸倒損失とを含むもの」である。
 しかし,本件国税更正処分においては,Yの負う買掛金の額が増額されており,相殺は無かったものとしている。そうすると,資産の売却金については未収金等の形で計上されねばならないが,それもされていない。したがって,本件の「国税更正処分は,既に実質的に債務免除益として計上されているものについて,資産売却益として重複して計上している点で,処分の内容それ自体に全体として整合性があるのか相当な疑問がある上,取引の実態を無視した不当な処分であったといわざるを得ない」。Yにおいて資産の売却益が発生しないことは「取引の実態を反映した整合的な経理処理に基づくものであったと認められる」。したがって,「Cとしては,適正な申告を行ったとの認識を有していたと認められ,平成19年8月期国税更正処分がされることを予見することは不可能であったといわざるを得ない」。Dも同様に,租税債権の存在を認識していたとはいえない。
 したがって,YからCおよびDへの送金はいずれも詐害行為に該当しない,として,Xの請求を棄却した。

4.検討
(1)概要
 地方税についての詐害行為取消権の行使の是非が争われた事案である。
 租税法律主義(憲法30条・84条)の下,国等の租税債権者は,法律の認める範囲でのみ債権者としての権利を行使することができる。債権者代位権民法423条)および詐害行為取消権(民法424条)については,国税通則法42条および地方税法20条の7により,租税債権についても行使可能となっている。
 租税債権についての詐害行為取消権については,第二次納税義務制度(国税徴収法32条ないし41条,地方税法11条ないし11条の9)との異同がしばしば問題となる*1。本件においては,Dに対する送金が(第二次納税義務の規定の適用対象となる行為ではない)債務の弁済であったために,詐害行為取消権の行使という手段が取られたものと思われる。
 詐害行為とは,「債務者が債権者を害することを知ってした法律行為」であり,「その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない」とされる(民法424条)。租税債権債務関係においてこれが認められるには,①租税債権が発生していたこと,②納税者の財産がその法律行為により減少し,租税の全額を徴収できなくなったこと(客観的要件),③納税者および法律行為の相手方(以下「受益者」という)が租税債権を害する意思を持っていたこと(主観的要件)が要件となる*2。本件においても,①租税債権が発生していたか,③Y,CおよびDに租税債権を害する意思があったかが争点となっている。①②については本件では基本的に充足していたと考えられることから,以下,③Y,CおよびDの詐害の意思に絞って判決を見ていく。

(2)私的整理手続と詐害行為
 本件において,Cは自らの受けた贈与は単純贈与(民法549条)ではなく負担付贈与(民法553条)であったと主張している。Cは,Yから贈与された金銭をもって自らの債務を弁済している。そして,債務の弁済によって根抵当権を消滅させた所有不動産の処分代金をもって,CはYの債務を肩代わりするつもりであったと主張している。すなわち,YからCへの金銭の贈与はYの財産を単純に減少させる行為ではなく,CがYの債務を弁済するために必要な行為であった(Cはその負担を負うつもりであった)と主張している。
 倒産状態にある債務者が私的整理手続を行う場合,「私的整理に反対する債権者による個別執行や法的倒産手続開始の申立から隔離するために,債務者の財産を、債権者委員長や特定の債権者委員に移付することがあ」*3る。Cは,このように,Yの私的整理のために必要な手続として(結果として債権者を利するために)贈与を受けたのだと主張していると思われる。しかし,私的整理に関する準則の整備等により,「今日では、債務者財産の移付は,必ずしも常に私的整理に必要な手順ではなくなっている」*4との指摘がある。また,YからCへの贈与は私的整理の一環として行われたものではあるとしても,執行等からの隔離のように私的整理に必要不可欠な行為であったとまでは言えないであろう。したがって,Cの主張は妥当とはいえないと考えられる。
 ただし,第一審判決で示された「任意整理の一環として行われた債務者の財産を減少させる行為が詐害性を有しないとして許容されるのは,総債権者の同意のもとに,公平かつ公正な任意整理が行われたような例外的な場合に限られる」とする規範は,法的根拠が非常に曖昧である。この点は私的整理手続の法的位置づけが不明確であることに起因すると考えられる。

(3)弁済と詐害行為
 第一審においては,DがYから受けた送金は債務の弁済であって,詐害行為に該当すると判示されている。
 そもそも,弁済により②債務者(=租税債権については納税者)の財産が減少したと言えるのか,まず問題となりうる。弁済は債務者の積極財産(金銭等)を減少させるが,同時に消極財産である債務も同額減少させるので,債務者の財産は何ら減少しないとも考えうる*5。しかし,資力を喪失した債務者が一部の者にのみ弁済をするような場合(偏頗弁済)を許容してしまうと,債権者平等の原則に著しく反する結果を招く。そこで,判例上は,「弁済は,原則として詐害行為とならず,唯,債務者が一債権者と通謀し,他の債権者を害する意思をもつて弁済したような場合にのみ詐害行為となるにすぎない」とされている*6。従って,③債権者を害する意思という点に,弁済の詐害行為該当性は左右されることとなる。
 本件においては,DはCの婿であったこと,Yの元取締役であったこと,弁済を受けた金銭を弁済直後に妻(=Cの娘)に貸している(判決における事実認定を見るに,贈与しているに近い)こと等を考慮すれば,DはYの破綻を知っており,債権者を詐害するために債務の弁済を受けたものと思われる。

(4)会計処理と租税債権の認識
 以上のように,Y,CおよびDには租税債権を詐害する意思があったという第一審判決は妥当であったようにも思われる。しかし,③納税者および受益者に租税債権を害する意思があったというには,(a)両者が租税債権の発生を認識しており,(b)その発生した租税債権を法律行為により害しようとした,と考える必要がある。この点,第一審判決においては,(a)租税債権の(主観的な)認識の充足如何については,①租税債権の(客観的な)発生をもって足りる,と考えられているように思われる。一方,控訴審判決においては,(a)租税債権の認識の点を重視し,Y,CおよびDは租税債権の発生を予測しえず,従って③詐害の意思も存在しないと判断されている。それでは,いずれの検討構造が妥当なのであろうか。
 詐害行為とは,債務者および受益者が債権者を害することを知ってした法律行為であり,まさにこの下線部分から,主観的な要件として詐害の意思という要件が導かれる。従って,③(a)租税債権の認識についても,既に発生している租税債権を主観的に認識しているかという,①租税債権の発生とは別個の要件と解するのが相当であろう。
 このような要件の理解は,控訴審判決の検討構造と整合的である。控訴審判決では,既に貸倒損失と相殺されたはずの資産の売却益が再び計上されている点を本件国税更正処分の問題点として挙げている。仮に③(a)租税債権の認識が①租税債権の存在に還元されると前提した上で控訴審判決の結論を導くならば,本件において地方税債権は存在しないと考えざるを得ない。従って,国税についての更正処分の誤りがそれに伴ってなされた地方税の更正処分の適法性にも影響を与えるか,本件において貸倒損失は損金に算入されるものであったか*7等の論点の検討を行う必要があったであろう。しかし,本件においてはこのような検討は行われていない。控訴審においては,Yが債権を減額しており,会計処理として貸倒損失を行っていること,従って,租税債権を認識しえなかったことをもって,詐害意思の要件を充足しないと判示している。これは,③(a)租税債権の認識という要件を主観的なものと構成している一つの現れである。
 以上のように,本件においては控訴審判決の判示が妥当であると考えられる。一方,控訴審判決の射程については(規範が明示されていないこともあり)不明確である。控訴審判決の射程を広く捉えるならば,法人所得課税において会計処理が租税債権が発生しないように為されていた場合には,租税債権を詐害する納税者等の意思は認められないというものとなろう。しかし,このように考えた場合,納税者が恣意的な会計処理を行うことで詐害行為取消権の対象から免れ得ることとなってしまい,債務者の行為によって債権者が害されることを防ぐ詐害行為取消権の趣旨を没却するように考えられる。③(a)租税債権の認識はあくまで主観的な要件であるから,これは(特定の事実に還元するのではなく)事実関係の総合考慮によって判断されるべきであろう。法人所得課税において,会計処理は納税者等の租税債権の認識の有無を推認させる一つの(しかし租税債権の存否に直結すること(法人税法22条4項参照)から非常に重要な)要素と考えるべきである*8

(5)おわりに
 以上論じたように,本件においては,第一審判決ではなく控訴審判決の判示が妥当である。何故ならば,詐害行為取消権における主観的要件につき,その判断要素の一部(租税債権の認識)を租税債権の存在という客観的な事実に還元することなく,納税者の主観的意思を(会計処理等から)読み取っているから,である。第一審判決は,Y,CおよびDが租税債権を認識していたという前提に立てば妥当であるが,本件においてはそうではない。

*1:第二次納税義務には詐害の意思は不要と判示した判例として,最判平成21年12月10日民集63巻10号2516頁参照。また,債権法改正案との関連から租税債権についての詐害行為取消権の適用範囲が減少すると予測されること,それに伴い新たな第二次納税義務制度を創設すべきとする見解として,栗谷桂一「詐害行為取消権の見直し論について」税大論叢68号(2011年)149頁参照。このように,第二次納税義務制度と詐害行為取消権は密接に関連する領域である。

*2:金子宏『租税法[第21版]』(弘文堂,2016年)903頁参照。

*3:四宮章夫「私的整理の研究4」産大法学49巻4号(2016年)104頁。

*4:四宮・前掲注(3)104頁。

*5:税法においても,同様の理由から,債務の弁済は何ら納税者に損失をもたらさないと考えられている。増井良啓「債務免除益をめぐる所得税法上のいくつかの解釈問題(上)」ジュリスト1315号(2006年)196頁参照。

*6:最判昭和33年9月26日民集12巻13号3022頁。なお,倒産法における偏頗行為否認には詐害意思が要件とされないことに注意。破産法162条1項,民事再生法127条の3参照。

*7:貸倒損失の損金算入の可否については,興銀事件(最判平成16年12月24日民集58巻9号2637頁)参照。なお,興銀事件第一審判決(東京地判平成13年3月2日民集58巻9号2666頁)の裁判長は本件控訴審判決と同じ藤山雅行裁判官である。

*8:なお,このような法人所得課税における会計処理と租税債権の認識の有無という議論が詐害行為取消権以外の分野にも応用可能なものであるかについては良く解らない。租税債権を認識していたか否か,という納税者等の主観的な事情が影響を及ぼす課税問題は(実体法,手続法等の区別に関わらず)あまりないように思われる。が,勉強不足なだけな気がする…

アメリカ税法研究会

昨日は,TA先のゼミの指導の後(近日行われるディベート大会の後,ゼミのことも書くと思います),弊学法学研究科のプロジェクトであるアメリカ税法研究会に参加いたしました。

アメリカ税法研究会は,弊学名誉教授の中村芳昭先生を中心に,アメリカ税法を研究するために開催している研究会です。発足年である今年度は,連邦所得税における寄付金控除(内国歳入法典§170)について,判例をベースに研究を行っています。私は正式なメンバーではないのですが,勉強のためお邪魔しております。

研究を通して,日本とアメリカには,やはり寄付文化の根付き方に相当な差があるように感じています。そんな寄付アリなのか,という事例がたくさん出てきます。今日取り上げた裁判例も,血液の寄付について寄付金控除が認められるか,という,日本ではちょっと考えられないような事例でした(Lary v. U.S. (787 F.2d 1538 (11th Cir. 1986)))。

課税問題を通して,アメリカという国全体を研究しているような,そんな気がします。

日本租税理論学会に入会しました。

一昨日,昨日と,日本租税理論学会の大会に参加いたしました。また,昨日の総会でご承認いただき,入会もいたしました。
日本租税理論学会は,

租税に関する諸課題について、財政学、税務会計学、税法学など多分野の研究者や実務家が民主的な見地から学際的に研究交流を行うフォーラム

日本租税理論学会

です。
大会においても,税務会計学の権威である富岡幸雄先生(富岡幸雄 - Wikipedia)の税界70周年記念講演,弊学法学部教授(税法学)の木山泰嗣先生(青山学院大学 教員情報)の記念講演をはじめとして,興味深い講演,発表ばかりでした。特に,財政学分野については,実際の生きている研究を聞いて,その研究手法を朧げながら理解できたような気がします。興味があって教科書等で勉強はしているのですが,そもそもミクロ経済学マクロ経済学の基礎を理解しているのか怪しい自分にはなかなか理解するのが難しいです。租税理論学会で発表を拝聴することなどを通して,実践的に身に付けていきたいと思っております。
税法学は,他の法分野はもちろん,財政学等の経済学,税務会計学等の経営学との関わりが深いところが魅力的な分野です。そんな税法学のダイナミズムを味わえる学会の一つだろうと思います。

租税理論学会は会員を大募集中です。研究者の先生方はもちろん,税に関心のある実務家の先生方も多数入会していらっしゃいます。ぜひご検討くださいますと幸いです。