What Do We Pay for Civilized Society?

税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。概ね1回/月の更新を目標としています。

大人のための国語ゼミ

 昨日(8/8)まで,国語の勉強をしていました。
 とはいっても,高校の頃までの国語の復習をしていた訳ではなく,先月出版された下記書籍を読んでいました。

www.yamakawa.co.jp

 野矢先生は,ヴィトゲンシュタインを中心とした分析哲学の研究を専門にされている哲学者の先生です。専門とされている分析哲学に関する文献はもちろん,哲学の入門書も数多く執筆されています(『哲学の謎』が個人的にオススメです)。
 また,哲学と非常に近しいというか(アリストテレス等)重なり合う分野ですが,野矢先生は論理学の本もたくさん書かれています。『入門!論理学』を読まれたことがある方も多いのではないかと思います。『論理トレーニング101題』は,ビジネスマン向けのブックガイドでも紹介されています

 『大人のための国語ゼミ』も,系統としては論理学の概説書に近いものかと思います。ただ,内容としてはおカタい論理学の本ではなくて(論理式も出てこないです),本当に「大人のための国語の本」という言い方がしっくりきます。論理を用いるとはどういうことなのか,実践的にそれを展開した本と言えるかと思います。
 上記出版社のサイトに行けば目次が見られますが,内容も非常に実用的です。どのような場面で使う考え方なのか,明確にしながら書かれています。
実用性や明確さのカギとなっているのは,ところどころに挟まれている問題かと思います。野矢先生が書かれた具体的な文章を題材にしながら,テーマとなっていることをどのように実践するのか,演習形式で解説されています。また,可愛らしいイラストが内容に関連して描かれていて(近く漫画としても出版されるようです),非常に楽しみながら読むことができます。

 内容を理解できるのはもちろんのこと,この本は自分と向き合うこともできる本だと思います。
 章ごとのテーマがしっかりしているので,自分が得意なことや苦手なことが理解できます。私は「3.言いたいことを整理する」や「5.文章の幹を捉える」でテーマになっていた文章を腑分けする作業がとても苦手でした。
 楽しくかつわかりやすいのでじっくり理解しながら読めますし*1,苦手な部分については繰り返し読んで自分の中になじませていくこともできる本かと思います。

 楽しい,わかりやすい,実用的だ,為になる等々書いてきましたが,内容が浅薄という訳では当然ありません。
 ところどころ,野矢先生だから書けるのだろうな,という記述は散見されます。例えば,「2.事実なのか考えなのか」の部分では,事実と意見の区別を重要だとしつつも,しかしその区別は相対的であり,事実の多面性にむしろ気を付けねばならないと指摘されています。他にも,野矢先生が第一線で研究されてきたからこそ書けるのであろう記述は数多くあります。

 先日の記事と異なり,普通に買って読んだ本なのですが,とても感動したので書いてみました*2。こういうものって勝手に書いて良いのかわかりませんが,大丈夫ですよね,たぶん…
 とりあえず法学をやられている方には非常におススメの本ですし,ビジネスマンの方にも,どんな人にもおススメです。読むにしろ書くにしろ話すにしろ聞くにしろ,何か言葉を使おうと思ったらぜひ参照すべき本だと思います。

*1:著者としては,「せめて一週間,できれば一箇月はかけてもらいたい」と書かれている(5頁)。

*2:『教養のための「税法」入門』を読んで感動しなかったことを意味しない。念のため。

教養としての「税法」入門

 弊学法学部教授の木山泰嗣先生より,昨日出版された『教養のための「税法」入門』(日本実業出版社,2017年)をご恵贈いただきました。木山先生,ありがとうございます。

 詳細はこちら↓から。
www.njg.co.jp

 この本で個人的に面白かったのは,税法の歴史がしっかりと整理されている点でした。第1章で体系的に論じられているのですが,イギリスのマグナ・カルタから,日本の明治時代の税法を含む法律の整備,シャウプ勧告に基づく戦後の税制の構築を経て現在に至るまで,コンパクトかつ詳細に書かれています。歴史については他の部分でも触れられていて,租税法律主義(憲法84条)の文言の意義(146~147頁)や申告納税制度の導入過程(220~226頁)などの部分で,歴史的な経緯が論じられています。
 弁護士として携わられてきたものを含め具体的な事件を縦糸として,研究者として整理されてきた税法の歴史を横糸として,まさしく木山先生だから書ける税法の入門書かな,と読んでいて思います。税務に携わっている方はもちろんのこと,税金をなんだか納得できずに払っている経営者の方,給与から引かれている税金に少し興味がある社会人の方,これから社会に出ようとしている学生の方にもオススメです。少しニッチな宣伝かもしれませんが,租税教育に携わっている税理士の方にも,色々な視点から税法を捉えられるのでオススメかもしれません。

 本書を読んで個別税法の仕組みにも興味を持たれた方は,税法の入門書・基本書に進まれるとより深い学習ができるのではないか,と愚考します(もちろん,個別税法の仕組みについては注で補足してくださっているので,前提知識が必要な本であるというわけではありません。むしろ,前提知識が無くとも税法の基礎を身に着けられる本だと思います)。
 以上,長々と書いてしまいましたが,お礼がてら宣伝でした。木山先生,誠にありがとうございました。読んでしっかり勉強したいと思います。

第5回若手法学研究者フォーラムの集い

 昨日,ぱうぜ先生主催の第5回若手法学研究者フォーラムの集いに参加して参りました。若手法学研究者フォーラムについては,ぱうぜ先生の下記ブログ記事をご参照ください。↓

kaffeepause-mit-ihnen.hatenablog.jp

 若手法学研究者フォーラムは,若手の法学研究者を中心に様々な方が集まっている非常に面白い集まりです。いわゆる研究者の方々だけでなく実務家を含め様々な方がいらっしゃいます。興味があったり専攻している法分野も全員バラバラです。
 法学部出身ではなく,他の法分野にあまり明るくない私には非常に勉強になることが多い集まりです。普段はFacebookグループを中心に情報交換をしているのですが,夏に「集い」として集まっています。

 若手法学研究者フォーラムの集いでは,研究発表を行う機会をいただけます。今回,私は「債務免除益課税をめぐる法的諸問題」と題して,博士後期課程での研究の基礎となるアイデアについて概説的な研究発表を行いました。
 本当はもっと具体的なテーマで発表したかったのですが,なかなか思いつかず,結局このような形になりました。概説的な発表ということで,聞いていただく方にとっては「で,今後は何を研究したいの?」となってしまうような気がしておりました。しかし,そんなことはなく,様々な角度から色々なご意見をいただき,大変参考になりました。研究者としてのスタンスという根本的な問題についても問うていただきました。
 いただいたご意見を参照しながら(今後の課題がたくさん見つかりました),しっかり研究を頑張ってまいりたいと思っております。参加者の皆さま,大変ありがとうございました!

 また,同時に研究ハックフォーラムの集いも開催され,研究生活における時間管理の方法について議論が行われました(時間管理の方法については,ぱうぜ先生のこちらのブログ記事もご参照いただければと思います。)。
 私はあまり計画的に研究等が行えるタイプではないのですが,それではやはりダメだなぁと再認識しました。今はとても恵まれた環境で研究できていて,行き当たりばったりでも何とか研究できているのですが,自律することを覚えよう,と決心しました。
 昨年WorkFlowyを教えていただいたことに続き,研究を行っていく上で不可欠なことをたくさん教えていただいている気がします。ありがとうございました。

 以上のような知的な刺激を受けつつ,会の終了後は懇親会もあって発散もしつつ,大変有意義な集まりでした。
 何度か書いている関西租税法若手研究会もそうですが,いつも貴重な機会をいただいていることに感謝しなければならないな,と思っております。主催のぱうぜ先生や開催を主導してくださったYさん,大変ありがとうございました。

木山ゼミゲストスピーカー

 今日は,木山ゼミにゲストスピーカーがいらすということで,わがままを言ってお邪魔いたしました。木山先生はじめ木山ゼミの皆さん,ありがとうございました。

 4限は「弁護士という職業の魅力」と題し,木山先生が上智大のロースクールで教えられていた飯田先生小林先生寺澤先生が,学部生時代から現在行っている業務まで幅広くお話ししてくださいました。
 木山ゼミには法曹志望の人も多いと聞いているので,非常に参考になったのではないかと思います。
 個人的に参考になったのは,人によってロースクールでの勉強法が全然違う(実際先生方は三者三様であった),ということでした。博士前期課程2年で修論を書いている頃,「論文の書き方」のような本を息抜きに読んでいた時期がありました。色々と参考になる点がある一方,「自分にはこのように書けないな」と思う点もあり,そういう点があると落ち込んでいたように記憶しています。今では,結局自分のスタイルを見つけるしかないので,何というかあまり生産的な行動ではなかったな,と思っています。努力の仕方については,色々と人の話を参考にしつつ,模索しつつ,最後は自分なりのやり方を見つけるしかないのだろう,と思います。
 飯田先生,小林先生,寺澤先生,ありがとうございました。
(なお,関係がないですが,法学の論文の書き方としては,この本が個人的にはおススメです。法学の論文とは何か,を知る上で読み物としてとても優れていますし,読んだ後もマニュアルとして使えるので,何か法学についての論文を書く際は1冊買って横に置いておくべき本だと思います。)

 5限は「人生で成功する方法」と題し,鳥飼総合法律事務所の鳥飼先生がお話ししてくださいました。
鳥飼先生はタックスローヤーとして,言わずと知れた有名な方です。税法を勉強していれば,鳥飼事務所が扱った事案に必ず触れることになろうかと思います。木山先生は元々鳥飼事務所に弁護士として勤務されて,その後弊学に着任されました。現在でも客員弁護士として在籍されています
 鳥飼先生のお話は,多岐に渡る,とても充実した,非常に興味深いものでした。なかなか一言でまとめることは難しいです。ただ,繰り返し強調されていたのは,自分の強みを必ず作らねばならない,オンリーワンにならねばならないということでした。最近,個人的に,自分には汎用性が足りないのではないかと少し悩んでいたので,とても勇気づけられました。
 鳥飼先生,ありがとうございました。

 木山ゼミは,発足以来2年間(昨年度まで)TAを勤めて参りましたが,毎年すばらしいゲストスピーカーを呼ばれて,本当に貴重な体験を木山先生にさせていただいているな,と思っています。今年はTAから離れたのに,結局また便乗してしまいました。いただいた体験を活かして,今後とも頑張りたいと思います。

6月振り返り

 1ヶ月ほど空いてしまいました。論文の締切間近でして,それにかかりきりでした。気づいたら3,000アクセスを突破していました。ありがとうございます。
 6月に2つ研究関連の用事がありましたので,それを振り返っていきたいと思います。

1.ディベート審査員
 6/3(土)に,学内のディベート大会の審査員を担当しました。
 授業等では審査員を担当することはあるのですが,正式に審査員を担当したのは今回が初めてでした。他人が何ヶ月も努力して準備してきたものを評価する責任の重さについて大会が近づくにつれ気づいていき,とても緊張しました。自分の発表と同じくらい,色々な文献を読んで準備しました。
 以前の投稿にも書きましたが,ディベートでは,特定の裁判例を題材にとって議論を行います。今回私が審査員を担当したのは,武富士事件(最判平成23年2月18日訟月59巻3号864頁)でした。税法と私法の関係や租税回避否認の問題について重要な判示をしているこの事件につき,学部生(荒井先生のゼミと木山先生のゼミ)が行ったディベートを審査しました。

 勉強し直して発見したのは,この判決では単純な議論が行われたのではない,ということでした。
 税法の条文の中には,他の法分野の概念を用いているものがあります。この場合,他の法分野における意義と同様に解すべきか,あるいは税法上独自の定義を用いるべきか,というのが,借用概念の解釈の議論です。他の法分野と同様に解すべきだという考え方を統一説,税法独自の定義を用いるべきだという考え方を独立説と言います*1
通常,武富士事件上告審判決というと,借用概念の解釈について統一説を取った判決,という風に整理されることが多いと思います。相続税法上の「住所」概念について,「生活の本拠」という民法上の定義(民法22条)を用いるべきだとした,ということです。したがって,個人的には,何となく,納税者側=統一説,課税庁側=独立説,といった風に単純化して理解していたような気がします。
 しかし,本件では,必ずしもこのように単純化された議論がされていた訳ではありません。もちろん,租税回避目的を持ち出していたり,居住意思を問うていたりする点については,課税庁の主張は独立説と親和性が高いでしょう。また,納税者側の主張は明確に統一説に位置づけられると思います。ただ,課税庁側の議論は民法上の「住所」概念を必ずしも無視して行っていたわけではありませんでした。一方の納税者側の主張も,租税回避と言える行為であったか,という,税法上の評価の問題についても議論しています。また,原告側で意見書を書いた田中先生は,贈与税の課税対象の範囲がなぜ住所によって画されているのか,という,税法上の観点についても議論しています*2。したがって,納税者=統一説=民法と課税庁=独立説=税法で戦った,という単純なものではなかった,ということを再認識しました。

 ディベートの内容は,非常に充実したものでした。結果としては木山ゼミの勝利でしたが,荒井ゼミも非常に充実した議論を行っていました。
 荒井ゼミの皆さんは恐らく初めてのディベートだったはずで,それでしっかり質問の応酬ができていたのは素晴らしいことでした。また,内容についても,面白い質問が多くありました。特に,本件では納税者が職場に勤務した日数が1つの重要な要素だったのですが,「職場に行かずとも在宅勤務が可能なのではないか」というのは,今だから出てくる議論かもしれないと思いました。いわゆるテレワークというやつですが,給与所得の定義等,税法上の議論にも大きく関わってくるもののはずで,色々と新たな発見がありました。ありがとうございました。
 木山ゼミについても,良く勉強されていました。流石に良く練られた立論を展開されていて,ディベート大会全体で見ても相当レベルの高いものだったと思います。勉強になりました。ありがとうございました。

 この他,遡及立法事件(最判平成23年9月22日民集65巻6号2756頁),ノンリコース債務免除益事件(東京高判平成28年2月17日裁判所ウェブサイト),神鋼商事事件(東京高判平成28年3月24日裁判所ウェブサイト)についても,ディベートが行われました。
 いずれのディベートも,非常に興味深い議論が行われていました。特に,ノンリコース債務免除益事件は判例研究を書いた事案ですので,とても楽しく観戦いたしました。

2.日本税法学会第107回大会
 6/10(土)から6/11(日)にかけて,日本税法学会の第107回大会がございました。
 毎回,大会ではテーマに沿った基調報告が3本,それとは別の個別報告が2本行われます。今回はテーマを「租税回避をめぐる法的諸問題」として基調報告が行われたほか,個別報告についても,租税回避の一般的否認規定(GAAR)について,アメリカおよびカナダのものならびにオーストラリアのものを論じる報告が行われました*3

 初日は,まず,アメリカおよびカナダのGAARについて,名古屋大学大学院博士後期課程3年の本部勝大さんが報告されました。本部さんは既にアメリカのGAARの導入について「経済的実質主義の制定法化に関する一考察」と題する論稿を発表されています*4。今回の報告は,この内容に加え,カナダにおけるGAARの制定法化およびその運用について論じられていました。同じGAARと言っても,アメリカとカナダでは非常に対照的な導入過程を辿っていることがわかりました。
 その後,谷口先生今村先生倉見先生による基調報告がありました。
 谷口先生のご報告は,先生の『租税回避論』を前提にした,格調高い報告でした。特に,租税回避行為として指すものが次第に変化してきている,という指摘には納得させられました。
 今村先生のご報告は,具体的な紛争事例を通して,同族会社の行為計算否認規定(法税132条)等の適用要件の解釈論を検討するものでした。ヤフー事件(最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁)で議論になったところですが,同じ文言でも規定によって全く異なる解釈がされていることに気づかされました。
倉見先生のご報告は,租税回避の規制と情報収集について検討するものでした。関連した報道もされているところであり,今後注目されていくべき分野かと思います。

 2日目は,まず,酒井先生が,オーストラリアにおけるGAARについて報告されました。GAARを導入したからといって租税回避行為が有効に規制できるとは必ずしも限らない,ということがわかりました。
 その後,初日の基調報告を踏まえたシンポジウムが行われました。また,大会終了後,韓国税法学会の方々と,大会の内容を踏まえた国際シンポジウムが行われました。韓国の租税回避否認についても知ることができ,非常に有益でした。

 今回の学会は,統一したテーマの下で行われ,非常に有意義でした。特に,基調報告の議論が個別報告で展開された外国の議論と関連する場面があるなど,「租税回避」というテーマに浸れた2日間でした。
 武富士事件の勉強から通して,6月の前半は租税回避の問題に様々な角度から触れられた期間でした。正直なところ,租税回避の問題というと,とても複雑なスキームや高度に概念的な議論が繰り広げられている気がして,あまり興味が持てない分野でした。しかし,実際の議論としては,税法と私法の関わりの議論であったり,あるいはtax benefitの議論であったり,私が現在研究している債務免除益課税の議論とも重なり合う部分があったように思います。実際の事例としても,ノンリコース債務免除益事件は,組合課税の仕組みを用いたタックスシェルターと債務免除益課税の問題が交差した事案です。
 6月前半に学んだことを活かして,今後とも研究を頑張っていきたいと思います。

*1:金子宏『租税法[第22版]』(弘文堂,2017年)118~121頁参照。このほか,「目的適合説」も挙げられています。

*2:田中治「税法の解釈方法と武富士判決の意義」同志社法学64巻7号(2013年)210~212頁参照。

*3:いずれの報告についても,税法学577号に掲載されている論文を元に行われました。詳細はそちらをご覧ください。

*4: (1)はこちら,(2・完)はこちらになります。