What Do We Pay for Civilized Society?

税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。概ね1回/月の更新を目標としています。

租税法学会総会

 昨日(10/1),租税法学会の研究総会を傍聴して参りました。
 本来ならば多いだろうとは思うのですが,実は東京で開催される学会に参加したのはこれが初めてでした。いつも利用している池袋の,時々図書館を利用している立教大学*1で学会が行われているというのは,何だか不思議な気分でした。

 今回の研究総会は,「イノベーションと税制」と題し,5件の研究報告が行われました。
 まず,神山先生は,「研究開発と税制」と題して報告をされました。イノベーション促進をめざす税制のうち研究開発税制について,租税政策以外の政策オプション(知的財産権制度等)も視野に入れながら,そのあるべき姿を議論されていました。
 次に,漆先生は,「特区と税制」と題して報告をされました。以前関西租税法若手研究会で報告してくださった内容です。イノベーションを促進するものとして産業の集積があり,産業の集積という観点から特区制度がどのように評価できるか議論されていました。
 3番目の報告は,片山先生による,「地方環境税をめぐる法的諸問題」と題した報告でした。法定外目的税のうち地方環境税とされるいくつかの地方税について,各地で生じている問題点を議論されていました。
 4番目の報告は,高橋先生による,「技術革新による税務行政の課題」と題した報告でした。技術革新によって生じた新たな取引に現行の税制がどのように関わるのか,また,技術革新によって生じた変化により,税制上新たな制度が可能となるのではないか,と論じられていました。
 最後に,増島先生により,「イノベーション法務の最先端と税制」と題する報告が行われました。イノベーションがどのようなプレイヤーのどのような目的によりどのように生じてきたのか解説くださったうえで,税制がどのように対応すべきか議論されていました。

 技術革新によって,税制は確実に影響を受けるだろうと思います。もっとも,その影響の仕方は様々だろうと思います。技術革新が行われることが恒常化した社会において,社会の一部である税制も変化するのか。技術革新によって,税制上可能となる政策オプションが増えるのか。技術革新によって生じた変化に対応するために,税制も変化せざるを得なくなるのか。様々なレベルでの影響について,綺麗に整理されたうえで,刺激的な議論が行われていました。学んだことを活かして,今後とも研究を頑張って参りたいと思います。

*1:立教大学および弊学を含む山手線沿線のいくつかの私立大学は,山手線コンソーシアムという,互いの大学の図書館を利用しあえる協定を結んでいます。

アコード租税総合研究所租税判例研究会

 昨日,弊学の木山先生アコード租税総合研究所租税判例研究会で報告されるということで,拝聴して参りました。
 木山先生は,非居住者への不動産所得の支払いに係る源泉徴収義務の有無が争われた事件(第一審判決の東京地判平成28年5月19日および控訴審判決の東京高判平成28年12月1日)について,判例評釈を報告されました。質問も相まって,この問題について実務的にも研究としても興味深い議論が展開されていました。
 木山先生のご関心としては,源泉徴収制度全般に通じる問題について報告されていて,債務免除益課税と給与等に対する源泉徴収制度が交錯した事案である倉敷青果荷受組合事件(最判平成27年10月8日等)との関係性も議論されました。
 源泉徴収制度については,それが正当化されうる根拠が常に問題とされねばならないのではないか,と個人的には考えています。言わば,手数料の支払い無しでの徴税業務代行ですから,課税権者である国民が法律を通して支払者にその業務を代行させる正当性を何らかの形で常に立証しなければならない,ということです。最判平成23年3月22日等,極限的な事例が様々に出てきている中で,果たして源泉徴収制度を正当化する一貫した根拠が定立されうるのか,今一度問われるべきなのではないか,と考えています。
 今後の研究を通して,この問題についても少しずつ考えを深めて参りたいと思います。そのきっかけになるとても貴重な機会でした。アコード租税総合研究所の皆さま,木山先生,ありがとうございました。

『現代租税法講座』輪読会

 昨日(9/13)まで,今年出版された『現代租税法講座』(日本評論社)のうち第2巻 家族・社会および第3巻 企業・市場の輪読会を学内で行っておりました。
 8月中旬から昨日までの5週間,週1回の全5回で行いました。1回につき2本の論文を取り上げ,計10本の論文を抜粋して取り扱いました。

 輪読は,学部時代にはゼミ等で良くやっていたのですが,大学院に入ってからは初めて行いました。したがって,税法分野について行うのは初めてでした。また,学部時代は1つの書籍について行っていたので,論文集について行うのも初めてでした。
 やるきっかけになったのは,『現代租税法講座』が出版されたことはもちろんですが,以下のブログ記事を見たことも大きかったです。

chickenribs.hatenablog.com

 このブログ記事に書いてあるとおり,様々なメリットがありました。1人で読むのとは比べものにならないほど理解が深まりましたし,あまり話したことがなかった人とも仲良くなれたような気がします。

 書籍についても書いておきます。
 全体として,『現代租税法講座』は,最新の議論を追いつつ,伝統的な議論との接合を目指す質の高い論文が網羅的に収録されているように感じました。
税法分野の論文集としては,他に,有斐閣から出版されている『租税法の基本問題』『租税法の発展』『租税法と市場』があります。こちらは,網羅性というよりもどちらかと言えば専門性を重視した論文集であろうかと思います。
 もちろん,いずれもすばらしい論文集であり,『現代租税法講座』とこれら3巻本のどちらが優れているといったようなものではないかと思います。ただ,少し毛色が違うものだと感じました。

 今回取り上げなかった第1巻および第4巻にも,すばらしい論文が収録されているのだろうと思います。また,第2巻や第3巻の論文で今回取り上げなかったものの中にも,すばらしい論文がたくさんありました。
 また輪読会を開いてみたいなー,と思っています。今回参加いただいた皆さま,ありがとうございました。インプットしたものを活かして,今後とも研究を頑張って参りたいと思います。

関西租税法若手研究会

 昨日(8/19),関西若手租税法研究会に参加して参りました。
 主催の小塚先生,今回も誠にありがとうございました。

 今回は,お三方報告してくださいました。
 山田先生は,(今後発表予定のご論稿だそうですので詳細は控えますが)判例評釈をしてくださいました。個人的に興味がある判例であり,とても興味深く拝聴いたしました。
 漆先生は,租税法学会の次回研究総会での報告内容につき発表してくださいました。イノベーション,特区ともに個人的には良くわかっていない分野なのですが,様々な議論を交えながらわかりやすく解説していただきました。「質を含めた論文発表率」という記述で,少し心が痛くなりました。
 谷口先生は,以前発表された論稿(こちらこちら)に近年の判例の分析を加えた論稿を発表してくださいました。今年の税法学会のテーマだったことからもわかるように,租税回避は税法学において非常に重要な(一番大事だと言っても過言ではない)テーマとなっています。とても勉強になりました。

 最近,少し研究のモチベーションが下がってしまっていました。とはいえ,サボっているわけにもいかないので,少し視野を広げて(『大人のための国語ゼミ』など)色々な本を読んでいましたが,本筋の研究がおろそかになってしまっていました。今回の先生方の報告を聞いて,ガッツをいただいたような気がします。今後とも頑張って参りたいと思います。

大人のための国語ゼミ

 昨日(8/8)まで,国語の勉強をしていました。
 とはいっても,高校の頃までの国語の復習をしていた訳ではなく,先月出版された下記書籍を読んでいました。

www.yamakawa.co.jp

 野矢先生は,ヴィトゲンシュタインを中心とした分析哲学の研究を専門にされている哲学者の先生です。専門とされている分析哲学に関する文献はもちろん,哲学の入門書も数多く執筆されています(『哲学の謎』が個人的にオススメです)。
 また,哲学と非常に近しいというか(アリストテレス等)重なり合う分野ですが,野矢先生は論理学の本もたくさん書かれています。『入門!論理学』を読まれたことがある方も多いのではないかと思います。『論理トレーニング101題』は,ビジネスマン向けのブックガイドでも紹介されています

 『大人のための国語ゼミ』も,系統としては論理学の概説書に近いものかと思います。ただ,内容としてはおカタい論理学の本ではなくて(論理式も出てこないです),本当に「大人のための国語の本」という言い方がしっくりきます。論理を用いるとはどういうことなのか,実践的にそれを展開した本と言えるかと思います。
 上記出版社のサイトに行けば目次が見られますが,内容も非常に実用的です。どのような場面で使う考え方なのか,明確にしながら書かれています。
実用性や明確さのカギとなっているのは,ところどころに挟まれている問題かと思います。野矢先生が書かれた具体的な文章を題材にしながら,テーマとなっていることをどのように実践するのか,演習形式で解説されています。また,可愛らしいイラストが内容に関連して描かれていて(近く漫画としても出版されるようです),非常に楽しみながら読むことができます。

 内容を理解できるのはもちろんのこと,この本は自分と向き合うこともできる本だと思います。
 章ごとのテーマがしっかりしているので,自分が得意なことや苦手なことが理解できます。私は「3.言いたいことを整理する」や「5.文章の幹を捉える」でテーマになっていた文章を腑分けする作業がとても苦手でした。
 楽しくかつわかりやすいのでじっくり理解しながら読めますし*1,苦手な部分については繰り返し読んで自分の中になじませていくこともできる本かと思います。

 楽しい,わかりやすい,実用的だ,為になる等々書いてきましたが,内容が浅薄という訳では当然ありません。
 ところどころ,野矢先生だから書けるのだろうな,という記述は散見されます。例えば,「2.事実なのか考えなのか」の部分では,事実と意見の区別を重要だとしつつも,しかしその区別は相対的であり,事実の多面性にむしろ気を付けねばならないと指摘されています。他にも,野矢先生が第一線で研究されてきたからこそ書けるのであろう記述は数多くあります。

 先日の記事と異なり,普通に買って読んだ本なのですが,とても感動したので書いてみました*2。こういうものって勝手に書いて良いのかわかりませんが,大丈夫ですよね,たぶん…
 とりあえず法学をやられている方には非常におススメの本ですし,ビジネスマンの方にも,どんな人にもおススメです。読むにしろ書くにしろ話すにしろ聞くにしろ,何か言葉を使おうと思ったらぜひ参照すべき本だと思います。

*1:著者としては,「せめて一週間,できれば一箇月はかけてもらいたい」と書かれている(5頁)。

*2:『教養のための「税法」入門』を読んで感動しなかったことを意味しない。念のため。