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税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。概ね1回/月の更新を目標としています。

倉敷青果荷受組合事件第二次上告審判決を傍聴しました。

 本日,倉敷青果荷受組合事件の第二次上告審判決が下されましたので,最高裁判所まで傍聴しに行って来ました。
 当該事件は,人格なき社団等がその理事長に供与した債務免除益につき,給与所得(所税28条1項)に該当して源泉徴収義務(所税183条)が発生するか否かが争われた事案です。第一審では,当該債務免除益には資力喪失時の債務免除益の非課税を定める旧所基通36-17が適用され源泉徴収義務は発生しない旨の判決が下され*1,控訴審では,当該債務免除益は給与所得に該当しないので源泉徴収義務は発生しない旨の判決が下されました*2。その後,第一次上告審では,当該債務免除益は給与所得に該当する旨の判示がされた後,旧所基通36-17の適用の可否を判断させるため原審に差し戻す判決が下されました*3。差戻控訴審では,旧所基通36-17の適用額について主に資産の評価額を検討し,一部額については源泉所得税の納税告知処分等は適法であったとの判決が下されています*4。当該差戻控訴審判決については,以下の(間の悪い)記事を以前書きました。
taxfujima.hatenablog.com

 以上書いたように,この事件では,従来,①債務免除益の額(所税36条やその解釈通達である旧所基通36-17の問題)および②所得分類(所税28条1項や所税183条1項の問題)の問題が主に争われてきました。ただ,今回の第二次上告審判決では,税負担の錯誤と処分の無効の問題について判示されました。
 税負担の錯誤と処分の無効の問題とは,単純に言えば,「こんなに税金がかかるならこんな取引はしなかった,だから取引を無効にするので,税金はかけないでくれ」という問題です。まずは,税負担の錯誤によって民法上の錯誤無効(民法95条)が認められるのか,という点が問題となります。この点については,例えば,最高最判決において,税負担の錯誤による財産分与契約の無効が認められた事案があるなど*5,私人間の取引の効力については,税負担の錯誤による無効が認められる余地があるとされています。次に,税負担の錯誤による法律行為の無効を理由として,当該法律行為によって生じた税負担の無効を主張することができるか,という点が問題となります。この点については,議論が盛んにされているところです*6。本判決も,このような議論の中で出された判決となります。

 この事件における税負担の錯誤の主張とは,「旧所基通36-17が適用されず源泉所得税が生じてしまうならば,債務免除はしなかった。したがって,債務免除は無効であり,納税告知処分も無効である」という主張となります。
 この点については,第一審の段階より,主張がされていました。第一審を審理した岡山地裁がまとめたX(原告,納税者)の主張を以下に書きます。

 源泉徴収義務者であるXは,源泉徴収義務に基づき被告に対し源泉所得税を負担するのであるから,税負担の有無につき錯誤が生じ得る。
 Xは,Aからすれば本件債務の支払を受けることが著しく困難であったところ,倉敷税務署長が,以前にAが受けた債務免除益につき,本件通達に該当する旨の判断をしていたことから,その判断を前提として,本件債務免除をした。Xは,本件債務免除をすることにより源泉徴収義務を負うことを想定しておらず,源泉徴収義務に基づく税負担がないことが本件債務免除の重要な要素となっていた。
 したがって,仮に本件債務免除益に本件通達の適用がないのであれば,本件債務免除は,錯誤により無効である。
 なお,錯誤無効を主張する時期は,法律によって制限されておらず,Xによる本件債務免除の錯誤無効の主張は,源泉所得税の法定納期限後であっても妨げられるものではない。

 これに対し,Y(被告,国)は,以下のように主張をしていました。源泉所得税であることを重く見た主張と言うことができるかと思います。

 源泉所得税は,最終的にはAが負担すべきものであり,最終的な税負担を負う立場にない源泉徴収義務者であるXに,税負担を原因とする錯誤が生じることはあり得ない。
 また,本件債務免除は,AのXに対する強い影響力を背景として,Xが債務免除をすることを強いられたものにすぎず,Aが資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であったことを理由として行われたものではないから,Xが,本件債務免除をするに当たって,本件通達の要件に該当すると誤信した事実はない。仮に,Xにとって非課税となることが本件債務免除の重要な要素となっていたとしても,かかる動機は,本件債務免除に当たり明示的に表示されておらず,AのXに対する強い影響力を背景とした本件債務免除の実質からすれば,黙示的に表示されていたと評価することもできない。
 さらに,源泉徴収義務の発生原因となる法律行為の錯誤無効を安易に認めて,源泉徴収義務を免れさせることは,源泉徴収義務者間の公平を害するとともに,租税法律関係を不安定にし,ひいては源泉徴収制度の破壊につながるものであるから,法定納期限後においては,Yに対して,源泉徴収義務の発生原因となる法律行為の錯誤無効を主張することはできないと解すべきである。Xが本件債務免除の錯誤無効の主張をしたのは源泉所得税の法定納期限後であるから,XはYに対し本件債務免除の錯誤無効を主張することはできない。

 ただ,この点については,第一審から第一次上告審までの審級では積極的な判示はされませんでした。一方,差戻控訴審判決では,以下のような判示がされています*7。法定納期限後は納税者は錯誤無効を主張できない,と一律に区切る議論と言えるかと思います。

 申告納税方式の下では,申告納税方式における納税義務の成立後に,安易に納税義務の発生の原因となる法律行為の錯誤無効を認めて納税義務を免れさせることは,納税者間の公平を害し,租税法律関係を不安定にすることからすれば,法定申告期間を経過した後に当該法律行為の錯誤無効を主張することは許されないと解されるところ…,源泉徴収制度の下においても,源泉徴収義務者が自主的に法定納期限までに源泉所得税を納付する点では申告納税方式と異なるところはなく,かえって,源泉徴収制度は他の租税債権債務関係よりも早期の安定が予定された制度といえることからすれば…,法定納期限経過後の錯誤無効の主張は許されないと解すべきである。
 …そうすると,本件でも,Xが法定納期限経過後に上記のような錯誤を主張することは,許されないというべきである。

 今日出された第二次上告審判決は,法定納期限によって一律に主張の可否を区切る原判決は誤りとしたうえで,錯誤無効によって経済的成果が失われたことをXが主張していないことをもって,債務免除の錯誤無効によって処分が無効になったとは言えない,として,Xの上告を棄却する判決でした。いずれ裁判所のウェブサイトに判決文が掲載されるかと思いますので,詳しくはそちらをお読みください。
 税負担の錯誤と処分の効力について,経済的成果が失われたか否かという議論を最高裁判所がしたのは,これが初めてではありません。譲渡所得に係る更正処分等が争われた事件において,以下のような判示をしています*8

 個人がその有する資産の譲渡による譲渡所得について所定の申告をしなかったとしても,当該譲渡行為が無効であり,その行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われたときは,右所得は,格別の手続を要せず遡及的に消滅することになるのであって,税務署長は,その後に右所得の存在を前提として決定又は更正をすることはできないものと解される。

 今回の判決は,ここで挙げた平成2年最判のような法理の射程が申告所得税のみならず源泉所得税にも及ぶ旨を確認した判決と言うことができるのではないか,と思います。

 もっとも,当該判決について個人的に疑問に感じたのは,「債務免除益について,経済的成果が失われたと言えるのはどのような場合なのか」という点でした。
 債務免除益は,何か金銭や資産を取得することによって得られる収入ではありません。所税36条の分け方でいえば,金銭でも物でも権利でもなく,経済的利益によって収入するものです。このようなものの経済的成果を失わせる,例えば,返還したり原状に回復するということは,どのように為されるのだろうな,ということを疑問に思いました。例えば,債権者と債務者の間で債権の存在を確認する訴訟を起こす,ということになったりするのでしょうか(そうすると,なれ合い訴訟と課税関係というまた別の問題とも隣接しそうです)。この点については,今後研究を更に進めて参りたいと思います。

 倉敷青果荷受組合事件は,おそらくこれで全ての争いが終わったということになるのではないかと思います。これまでの訴訟で提示されてきた論点については,全て結論が出ました*9
 この事件でXの源泉徴収義務の有無が争われたのは,当時の理事長であるAの平成19年分の所得税ですから,10年以上経ってようやく課税関係が最終的に確定したということになります。処分および不服申立てがされたのは平成22年ですから,争った期間に限っても9年に及びます。租税訴訟は比較的長期に争われることが多いと言われますが*10,その中でもかなり長く争われた事案ということができるのではないかと思います。
 事案自体は(Aの資産等の評価を除き)そこまで複雑ではなかったように思うのですが,具体的な課税関係に当てはめると,給与所得の範囲をめぐっても,債務免除益の課税問題としても,非常に限界的な事例と言えるのではないかと思います。金子宏『租税法』が明確に第一次上告審判決を批判していることが,このことを表しているのではないかと思います*11
 個人的にも,債務免除益の課税問題を研究テーマとして選んだ後に,修士論文執筆中に(確か租税法学会傍聴中に)第一次上告審判決が出て,テーマを選ぶ契機になったわけではないのですが,ずっとこの事件を意識しながら研究を進めてきた,非常に思い入れのある事件です。博士後期課程の研究をまとめる段階にあるこの時期に判決が出て,勝手に感慨深く感じています。

 以上,長くなりましたが,判決を傍聴してきたということと,若干の検討を書きました。

(2018/9/25 14:45追記)
 判決文が裁判所のウェブサイトにアップロードされました。下記リンクよりご覧ください。
裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan

 なお,山崎裁判長による補足意見が付されています。法廷意見は,Xが錯誤無効による経済的成果の喪失を処分時点までに主張していなかったことを重視したものです。一方,補足意見は,仮に主張がされたとしても,要素の錯誤があったと言えるのか,という点を主に論じています。
 また,法廷申告期限後の錯誤無効の主張を一律に退ける(原審のような)考え方を批判する学説として,ブログ執筆後,渋谷雅弘「課税リスクへの対処方法を巡る一考察」金子宏ほか編『租税法と市場』(有斐閣,2014年)128~135頁に触れました。

*1:岡山地判平成25年3月27日税資263号順号12184。

*2:広島高岡山支判平成26年1月30日税資264号順号12402。

*3:最判平成27年10月8日判タ1419号72頁。

*4:広島高判平成29年2月8日(判例集未登載,LEX/DB文献番号25545867)。

*5:最判平成元年9月14日判時1336号93頁。

*6:金子宏『租税法[第22版]』(弘文堂,2017年)123~124頁参照。

*7:前掲注(4)。

*8:最判平成2年5月11日訟月37巻6号1080頁。

*9:なお,当該事件における不納付加算税の賦課決定処分について争う余地があると指摘する文献として,木山泰嗣「債務免除益事件の差戻審判決に含まれる諸問題」青山法学論集59巻3号(2017年)118頁参照。

*10:中里実ほか編『租税法概説[第2版]』(有斐閣,2015年)72~73頁[宮塚久執筆部分]参照。

*11:金子・前掲注(6)232頁参照。

『教養としての所得税法入門』をご恵贈いただきました。

 弊学法学部の木山先生より,本日発売された『教養としての所得税法入門』をご恵贈いただきました。詳細は下記リンクをご覧ください。

www.njg.co.jp

 前著『教養としての税法入門』(2017年)も昨年いただきました。このブログにも書いています↓

taxfujima.hatenablog.com

 前著に続き,入門書と称しながら,非常に骨太な記述がされています。「はじめに」において,税金百科のような書籍ではなく,ある程度読み応えのある書籍を目指したことが述べられています(3~4頁)。実際,なかなか難解な倉敷青果荷受組合事件(最判平成27年10月8日)が序章の主たる素材とされています(34~44頁)。著名かつ所得概念を考える出発点としやすい事例とはいえ,米国のMacomber判決*1についても論じられています(96~98頁)。
 私の関わり方としては,前著についてはある程度事前に読んでコメントしたのですが,今回は,お気遣いいただき,1頁だけ原稿を拝見するに留まりました。ただ,「はじめに」で名前を挙げていただき(4頁),拙稿も引用していただきました(113頁)。書籍をいただいたことも含め,木山先生,ありがとうございました。
 簡単ですが,こんなところで。

*1:Eisner対Macomber事件連邦最高裁判所判決(252 U.S. 189 (1920))。

アメリカ税法研究会

 一昨日(8/27),弊学法学研究科アメリカ税法研究会が開催されました。
 前回の研究会についてはこちらをご参照ください↓
taxfujima.hatenablog.com

 今回の研究会では,私が,米国の事業再生税制(内国歳入法典§§108, 1017)について報告しました。
 米国の事業再生税制に関する比較法的検討は,髙橋祐介先生が「企業再生と債務免除益課税」という先駆的な業績を残されています。また,近時の書籍として,長戸貴之先生の『事業再生と課税』は,倒産処理法制を含めた非常に幅広い観点と,法人税の創設から現代までの長い時間的幅を兼ね備えた非常に優れた分析をされています。
 これらの先行研究を参照しつつ私も報告したのですが,これらの優れた先行研究に書いていないことを探して新規性を生み出すのはなかなかに難しいなぁ,というのが正直な感想でした。新たなこともいくつか述べてはみたのですが,本質的な議論だったのか,正直なところあまり自信はありません。

 研究会では,様々な視点から質問をいただきました。自分の研究に足りない点がわかったのはもちろん,今後の研究に資するような,新たな議論もしていただきました。研究会の議論を活かして,今後とも頑張りたいと思います。
 今月はもう1記事書く予定です。お楽しみに!

日本税法学会大会&第08回関西租税法若手研究会@那覇市

 先週(8/10~11),日本税法学会の大会に参加して参りました。また,8/12(日)には,関西租税法若手研究会にも参加して参りました。
 当該大会は,日本税法学会の長い歴史の中で初めて沖縄地区で開催された大会でした。沖縄地区の先生方,お骨折りくださり,ありがとうございました。また,関西租税法若手研究会も沖縄県那覇市で開催されました。主催の小塚先生および奥さま,企画してくださり,ありがとうございました。
 8/9に東京から出発,8/12に沖縄から帰京したのですが,いずれも台風が迫る中,何とか無事に飛行機が飛び,安心しました。

 日本税法学会の今回の大会のシンポジウムは,「近時の所得税等をめぐる法的諸問題」と題し,所得税をめぐる様々な問題について報告および議論が行われました。
 酒井先生は,「所得税法上の所得区分の在り方」と題し,所得税法上の所得区分のあり方について立法的提言をされていました。酒井先生は,所得区分の問題について,既に数多くの論文を執筆されています。その業績を活かした,非常に重厚なご報告でした。所得区分(私は「所得分類」と呼称しています)の問題については,個人的に関心を持っている分野の1つであり,非常に興味深く拝聴しました。
 野口先生は,「扶養控除のあり方」と題し,扶養控除のあり方について,近時の人的控除制度の改正と絡めて議論をされていました。人的控除については,平成29年度税制改正で配偶者控除および配偶者特別控除,平成30年度税制改正で基礎控除について改正が行われるなど,活発に改正が行われています。扶養控除制度について改正を行うべきか,行うならばどのような見地から検討すべきかという点について議論されていました。
 八ツ尾先生は,「高齢社会と税のあり方」と題し,年金課税等の点について,様々な見地から議論をされていました。高齢化社会と税のあり方については,日税研論集72号で特集が組まれるなど,議論が今後とも行われていくべき分野です(広く見れば,世代間公平と税の関係,という問題になるのでしょうか)。多角的な検討で,大変勉強になりました。

 日本税法学会では,個別報告も行われます。
 まず,1日目(8/10)は,田中先生が「所得の年度帰属」と題し,所得の年度帰属についての権利確定主義の考え方をどのように解すべきか報告されました。田中先生は,以前も所得の年度帰属について論文を発表されていて(「収入実現の蓋然性と収入金額の年度帰属」),それから続く報告でした。権利確定主義の意義内容,というのは,私法との関係を含め個人的に良くわかっていないところもあり,非常に勉強になりました。
 また,2日目(8/11)は,木村先生が「源泉置換規定についての一考察」と題し,所得税法上の源泉置換規定の解釈上の問題について報告されました。木村先生は,『租税条約入門』を執筆されている,国際税務のスペシャリストの弁護士の先生です。租税条約に定められたソースルールと日本法上のソースルールの優先適用の問題について,非常に緻密に解釈論を検討されていて,大変勉強になりました。

 税法学会終了後,8/12に行われた関西租税法若手研究会では,3本の報告が行われました。
 まず,安井先生が,大阪経大論集に発表された論稿(「非居住者から国内不動産を購入した者の源泉徴収義務 」)について報告されました。この問題については,以前木山先生の報告を拝聴したことがあります(このブログにも書きました)。個人的には,立法の欠缺の問題なのかな,と考えているのですが,改正が行われる気配もないので,今後とも議論が行われていくであろう分野です。当該規定の趣旨目的(所得の把握が主目的なのか,所得税の徴収が主目的なのか)という点から立法論を視野に入れた議論をすべき分野だと個人的には考えています。
 その後,税法学会の個別報告に続き,田中先生が報告されました。税法学会の報告から連続する問題で,非常に勉強になりました。
 最後に,私が,9月に発表予定の論稿について報告しました。未発表の論稿ですので,詳細は省きます。報告の機会を賜り,誠にありがとうございました。今後の研究の進め方について示唆をいただく,大変勉強になる機会でした。

 研究はもちろん,様々な諸先生方,諸先輩方とお話しする機会にも恵まれた,大変充実した出張でした。お構いいただいた皆さま,本当にありがとうございました。D3の切羽詰まった状況で頑張る勇気と元気をいただきました。
 短いのですが,こんなところで。

『租税法入門[第2版]』をご恵贈いただきました。

 東京大学の増井先生より,『租税法入門[第2版]』をご恵贈いただきました。増井先生,私のようなしがない大学院生にご著書をくださり,本当にありがとうございます。とても光栄です。


(以前も書きましたが,私は写真を撮るのが下手なようです。あまり見栄えが良く見えない場合,申し訳ありません。)

 出版社のページはこちら↓
www.yuhikaku.co.jp

 増井先生は,言わずと知れた税法学の大家の先生です。この本は,有斐閣が発行している法学教室という雑誌に連載された原稿をもとに加筆修正してできた書籍です。初版の出版時に「所得税(個人所得税と法人所得税の両者を含む講学上の意味での所得税)の理論は,将来,この著書以前とこの著書以後との2つに分類されることになるであろう」*1と述べられているなど,一般的に高い評価がされていると思います。
 個人的にも,増井先生のご論稿を引用する機会は(所得課税を専門分野としている以上当たり前ですが)とても多いです。この本の初版は私が博士前期課程に入学した頃に発行されて,繰り返し読んで勉強しています。論文でも,何度も引用しています。基礎的かつ素朴な理論的基底から先端的な議論までとても丁寧に繋いでまとめてくださっていて,読む度に非常に勉強になります。
 また,研究科のM1の後輩たちには,毎年,夏休みに入門書から少し進んだレベルの(修士論文での検討に繋がるような)本を読むことを勧めています。その際,この本を毎回挙げています。

 今回の改訂は,税法学の最新の業績(例えば,昨年発刊された『現代租税法講座』(日本評論社))や最新の裁判例(例えば,馬券札幌事件上告審判決(最判平成29年12月15日))を反映しつつ,「Part 04 展開」に3つの章を追加しています。このことにより,「一歩先の学習にも役立つものに進化」*2した書籍となっています。
 いただいた本を読んで今後の研究に活かしたいと思います。また,後輩たちにも,ぜひこの夏に読むことを勧めたいと思います。増井先生,繰り返しになりますが,本当にありがとうございました。

*1:志賀櫻『タックス・オブザーバー』(エヌピー新書,2015年)210頁。

*2:増井良啓『租税法入門[第2版]』(有斐閣,2018年)i頁。