What Do We Pay for Civilized Society?

税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。

現金を「販売」した場合の譲渡所得課税について

この話。
togetter.com
この場合,譲渡所得課税(所税33条)についてはどのように考えれば良いのだろう。

まず,原則として,金銭は譲渡所得の起因となる「資産」に含まれないものとされている。これは,譲渡所得課税が「資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のもの」*1とされていることに起因する。金銭は価値が増減しないため,値上がり益(キャピタル・ゲイン)が発生せず,したがってこれを清算する趣旨である譲渡所得も発生しない,ということである*2
この論理を裏から述べるならば,金銭であっても値上がり益が生じうるものであれば,その譲渡からは譲渡所得が生じうる。したがって,金銭的価値以外の価値がある金銭,例えば古銭等の収集用の金銭の譲渡からは譲渡所得が生じるものと解される。
この事案でも,上記サービスにおいて金銭の出品が可能となっている理由としては,収集用の金銭との区別が困難であることが挙げられている。したがって,当該金銭は原則とは異なる取扱いをされる可能性がある。実際に譲渡益が生じているという事情も,このような議論を支持するであろう。

譲渡所得が発生するとされた場合,次に検討すべきは非課税所得(所税9条)への該当性である。
まず検討すべきは,生活に通常必要な動産の譲渡(所税9条1項9号,所税令25条)への該当性であろう。納税者やその親族が有する資産のうち生活に通常必要な動産については,その譲渡により譲渡益が生じても,その譲渡益は原則として非課税所得に該当するものとされている。
金銭の動産該当性については,問題なく該当するものであろう*3。次に,金銭が「生活に通常必要」であるかが問題となる。例えば,この規定への該当性が争われたサラリーマン・マイカー税金訴訟第一審判決においては*4,サラリーマンが有する自動車は「日常生活に必要なものとして密接に関連しているので、生活に通常必要な動産…に該当するものと解するのが相当である」と判示されている。上記サービスで出品されている金銭も同様に日常生活に必要なものとして密接に関連しており*5,同様な論理で生活に通常必要な動産と言うことができよう。
したがって,上記サービスにおける現金の譲渡によって譲渡所得が発生すると解したとしても,それは非課税所得に該当し,所得税は課されないものと考えられる。

以上のように,上記サービスによる現金の譲渡には(仮に譲渡所得が発生するとしても)所得税は課されないものと考えられる。
以下,何点か補足する。
・上記togetterで述べられるとおり,現金の出品をしている理由が生活の困窮にある場合には,資力喪失者が得る譲渡所得の非課税規定(所税9条1項10号,所税令26条)の適用もありうる。
・当該譲渡が適法か否かは,所得税の課税には関係しない*6
・消費税の課税についても,古銭と同じく,上記サービスによる資産の譲渡は課税対象ともなりうる。しかし,上記サービスを利用しているのは多くが事業者ではなく消費者であろうから,「事業として対価を得て行われる」ものではないため資産の譲渡等に該当せず(消税2条1項8号),課税対象外と解すべきであろう(消税4条1項)。

*1:榎本家事件上告審判決(最判昭和43年10月31日集民92号797頁)。

*2:三木義一編著『よくわかる税法入門[第11版]』(ゆうひかく選書,2017年)129頁[伊川正樹執筆部分]参照。

*3:民法上,動産は不動産以外のすべての物とされている(民法86条2項)。

*4:神戸地判昭和61年9月24日判時1213号34頁。なお,同控訴審判決(大阪高判昭和63年9月27日高民集41巻3号117頁)も参照。

*5:なお,収集用の金銭はこれに該当しないものと考えられる。

*6:制限超過利息事件上告審判決(最判昭和46年11月9日民集25巻8号1120頁)参照。