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税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。

6月振り返り

1ヶ月ほど空いてしまいました。論文の締切間近でして,それにかかりきりでした。気づいたら3,000アクセスを突破していました。ありがとうございます。
6月に2つ研究関連の用事がありましたので,それを振り返っていきたいと思います。

1.ディベート審査員
6/3(土)に,学内のディベート大会の審査員を担当しました。
授業等では審査員を担当することはあるのですが,正式に審査員を担当したのは今回が初めてでした。他人が何ヶ月も努力して準備してきたものを評価する責任の重さについて大会が近づくにつれ気づいていき,とても緊張しました。自分の発表と同じくらい,色々な文献を読んで準備しました。
以前の投稿にも書きましたが,ディベートでは,特定の裁判例を題材にとって議論を行います。今回私が審査員を担当したのは,武富士事件(最判平成23年2月18日訟月59巻3号864頁)でした。税法と私法の関係や租税回避否認の問題について重要な判示をしているこの事件につき,学部生(荒井先生のゼミと木山先生のゼミ)が行ったディベートを審査しました。

勉強し直して発見したのは,この判決では単純な議論が行われたのではない,ということでした。
税法の条文の中には,他の法分野の概念を用いているものがあります。この場合,他の法分野における意義と同様に解すべきか,あるいは税法上独自の定義を用いるべきか,というのが,借用概念の解釈の議論です。他の法分野と同様に解すべきだという考え方を統一説,税法独自の定義を用いるべきだという考え方を独立説と言います*1
通常,武富士事件上告審判決というと,借用概念の解釈について統一説を取った判決,という風に整理されることが多いと思います。相続税法上の「住所」概念について,「生活の本拠」という民法上の定義(民法22条)を用いるべきだとした,ということです。したがって,個人的には,何となく,納税者側=統一説,課税庁側=独立説,といった風に単純化して理解していたような気がします。
しかし,本件では,必ずしもこのように単純化された議論がされていた訳ではありません。もちろん,租税回避目的を持ち出していたり,居住意思を問うていたりする点については,課税庁の主張は独立説と親和性が高いでしょう。また,納税者側の主張は明確に統一説に位置づけられると思います。ただ,課税庁側の議論は民法上の「住所」概念を必ずしも無視して行っていたわけではありませんでした。一方の納税者側の主張も,租税回避と言える行為であったか,という,税法上の評価の問題についても議論しています。また,原告側で意見書を書いた田中先生は,贈与税の課税対象の範囲がなぜ住所によって画されているのか,という,税法上の観点についても議論しています*2。したがって,納税者=統一説=民法と課税庁=独立説=税法で戦った,という単純なものではなかった,ということを再認識しました。

ディベートの内容は,非常に充実したものでした。結果としては木山ゼミの勝利でしたが,荒井ゼミも非常に充実した議論を行っていました。
荒井ゼミの皆さんは恐らく初めてのディベートだったはずで,それでしっかり質問の応酬ができていたのは素晴らしいことでした。また,内容についても,面白い質問が多くありました。特に,本件では納税者が職場に勤務した日数が1つの重要な要素だったのですが,「職場に行かずとも在宅勤務が可能なのではないか」というのは,今だから出てくる議論かもしれないと思いました。いわゆるテレワークというやつですが,給与所得の定義等,税法上の議論にも大きく関わってくるもののはずで,色々と新たな発見がありました。ありがとうございました。
木山ゼミについても,良く勉強されていました。流石に良く練られた立論を展開されていて,ディベート大会全体で見ても相当レベルの高いものだったと思います。勉強になりました。ありがとうございました。

この他,遡及立法事件(最判平成23年9月22日民集65巻6号2756頁),ノンリコース債務免除益事件(東京高判平成28年2月17日裁判所ウェブサイト),神鋼商事事件(東京高判平成28年3月24日裁判所ウェブサイト)についても,ディベートが行われました。
いずれのディベートも,非常に興味深い議論が行われていました。特に,ノンリコース債務免除益事件は判例研究を書いた事案ですので,とても楽しく観戦いたしました。

2.日本税法学会第107回大会
6/10(土)から6/11(日)にかけて,日本税法学会の第107回大会がございました。
毎回,大会ではテーマに沿った基調報告が3本,それとは別の個別報告が2本行われます。今回はテーマを「租税回避をめぐる法的諸問題」として基調報告が行われたほか,個別報告についても,租税回避の一般的否認規定(GAAR)について,アメリカおよびカナダのものならびにオーストラリアのものを論じる報告が行われました*3

初日は,まず,アメリカおよびカナダのGAARについて,名古屋大学大学院博士後期課程3年の本部勝大さんが報告されました。本部さんは既にアメリカのGAARの導入について「経済的実質主義の制定法化に関する一考察」と題する論稿を発表されています*4。今回の報告は,この内容に加え,カナダにおけるGAARの制定法化およびその運用について論じられていました。同じGAARと言っても,アメリカとカナダでは非常に対照的な導入過程を辿っていることがわかりました。
その後,谷口先生今村先生倉見先生による基調報告がありました。
谷口先生のご報告は,先生の『租税回避論』を前提にした,格調高い報告でした。特に,租税回避行為として指すものが次第に変化してきている,という指摘には納得させられました。
今村先生のご報告は,具体的な紛争事例を通して,同族会社の行為計算否認規定(法税132条)等の適用要件の解釈論を検討するものでした。ヤフー事件(最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁)で議論になったところですが,同じ文言でも規定によって全く異なる解釈がされていることに気づかされました。
倉見先生のご報告は,租税回避の規制と情報収集について検討するものでした。関連した報道もされているところであり,今後注目されていくべき分野かと思います。

2日目は,まず,酒井先生が,オーストラリアにおけるGAARについて報告されました。GAARを導入したからといって租税回避行為が有効に規制できるとは必ずしも限らない,ということがわかりました。
その後,初日の基調報告を踏まえたシンポジウムが行われました。また,大会終了後,韓国税法学会の方々と,大会の内容を踏まえた国際シンポジウムが行われました。韓国の租税回避否認についても知ることができ,非常に有益でした。

今回の学会は,統一したテーマの下で行われ,非常に有意義でした。特に,基調報告の議論が個別報告で展開された外国の議論と関連する場面があるなど,「租税回避」というテーマに浸れた2日間でした。
武富士事件の勉強から通して,6月の前半は租税回避の問題に様々な角度から触れられた期間でした。正直なところ,租税回避の問題というと,とても複雑なスキームや高度に概念的な議論が繰り広げられている気がして,あまり興味が持てない分野でした。しかし,実際の議論としては,税法と私法の関わりの議論であったり,あるいはtax benefitの議論であったり,私が現在研究している債務免除益課税の議論とも重なり合う部分があったように思います。実際の事例としても,ノンリコース債務免除益事件は,組合課税の仕組みを用いたタックスシェルターと債務免除益課税の問題が交差した事案です。
6月前半に学んだことを活かして,今後とも研究を頑張っていきたいと思います。

*1:金子宏『租税法[第22版]』(弘文堂,2017年)118~121頁参照。このほか,「目的適合説」も挙げられています。

*2:田中治「税法の解釈方法と武富士判決の意義」同志社法学64巻7号(2013年)210~212頁参照。

*3:いずれの報告についても,税法学577号に掲載されている論文を元に行われました。詳細はそちらをご覧ください。

*4: (1)はこちら,(2・完)はこちらになります。