What Do We Pay for Civilized Society?

税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。

eスポーツ大会の賞金と源泉徴収義務

0.はじめに
 このブログ記事は,ゲーム提供者からプレイヤーへの高額賞金の支払いに伴う源泉徴収義務の有無の問題点を考察したものです。
 まず,私の立場を述べておきます。私は,税法学(税金に関する法律についての学問)を研究している博士課程の大学院生です(ただし,専門分野は源泉徴収制度ではありません)。大学の先生や実務家がする議論からはレベルが劣る議論をしているかと思いますが,これは論文ではなくブログ記事ですし,大学院生であるということも含め,ご容赦ください。また,eスポーツの試合を動画等で観ることは好きですが,自分ではあまりプレイはしません(むしろ,一人用のゲームが好きです)。
 次に,このブログ記事を書く意図や目的という点ですが,単純に言えば,「問題が生じうるのではないか」という自分の疑念を何となく明らかにしておきたい,というだけのものにすぎません。したがって,実際に問題が生じているのかどうかは知りませんし,それを解決する目的で書いているわけではありません。当事者から相談を受けて書いているわけでも当然ありませんので,税理士の独占業務である税務相談(税理士法(昭和26年法律第237号)2条1項3号)にも当たらないものと考えています。素人が法解釈上の可能性を提示しているだけですので,この記事を信頼して実際の税務処理を行うべきではないと思います。また,この問題について,積極的に解決を望んでいるわけでもありません。このブログ記事を根拠に,読まれた方が何らかのアクションを起こされても,私は何ら責任を負いません。プロライセンス制度自体に対する賛否を(景表法上の問題を含め)積極的に述べる意図もありません。

 私の文章は「長くてわかりづらい」と良く言われるので,最初にこの記事の要約を書いておきます。この記事で私が言いたいことは,「景表法を回避するために作った仕組みで,課税問題,具体的には源泉徴収義務についても回避することができちゃう可能性があるんじゃないの?」ということです。
 もう少し詳しく論理を展開しておくと,「①広告宣伝のための賞金にはどんなものでも源泉徴収が必要だが,スポーツ選手に対する報酬については一定のものしか源泉徴収は必要とされておらず,eスポーツの選手への賞金は一定のものに含まれていない,②プロライセンスを持った選手への賞金は,『顧客を誘導するための手段』ではなく『報酬』なのだ,という説明がされることがある,③②の論理が『広告宣伝のための賞金ではなく報酬なのだ』という意味なのであれば,源泉徴収をする必要がなくなってしまいうるのではないか」というものになります。

1.景表法についての議論の概況
 eスポーツの賞金制大会について,景品表示法の規制がかかり,高額の賞金が出る大会を開くことを阻害しているのではないか,との議論が一昨年頃より存在します*1
 この問題に関し,2017年11月,白石教授が論稿を発表されています*2。白石教授は,「仕事の報酬等」は景品類に該当しない,との定義告示運用基準等を参照しながら,一般ユーザーが参加せず観戦することを中心とする大会の賞金については,「仕事の報酬等」に該当し,景品類に該当しないのではないか,と述べています。また,その根拠としては,定義告示運用基準の見出しから推測される「仕事の報酬等は経済上の利益に該当しない」という論理よりも*3,景品類の定義規定(景品表示法(昭和37年法律第134号)2条3項)における「『顧客を誘引するための手段として』に該当しない,とするほうが説明として据わりが良い。仕事をするプレイヤーがビデオゲームを購入するよう誘引することに賞金の目的があるのではなく,観戦する一般ユーザーという顧客に対して広告を行い誘引することが目的なのであって,賞金が提供される相手方であるプレイヤーも形式的にはビデオゲームを購入した顧客であるとしても,そのような『顧客を誘引するための手段として』賞金を提供しているのではない,と説明するのが,最も据わりが良いように思われる」*4と述べています。つまり,eスポーツのプレイヤーにゲームを購入させることに目的がない賞金については,「仕事の報酬」であり,「顧客を誘引するための手段として」の景品類には該当しないのではないか,と白石教授は議論しています。
 また,2018年2月,JeSU一般社団法人日本eスポーツ連合)という組織が結成され,プロライセンスというものをeスポーツの選手に発行することが決まりました*5。このプロライセンスが発行された選手に対して支払われる大会の賞金については,プロの高度なパフォーマンスに対する報酬であることが明確になっている,とJeSUの関係者から説明されています*6。近日発行されたゲーム雑誌においても,eスポーツの選手が観客を魅了するプレイをしたことに対して支払われる報酬は「景品類」に該当しないことが消費者庁関係者より説明され,プロライセンスは仕事の報酬と認められる可能性を高めるための仕組みであると弁護士により説明されています*7
 白石教授の議論と現在のeスポーツ業界の流れの関係性については,必ずしも明らかではありません。ただ,「仕事の報酬等」と「景品類」を区別し,eスポーツの選手に対して支払われる賞金を「仕事の報酬等」と考える,という大きな流れは,軌を一にしていると言って良いでしょう。それでは,仮に,「eスポーツ選手に対する賞金の支払いは,仕事の報酬であるから,顧客を誘引するための手段ではなく,したがって景品類にも該当しない」という白石教授の議論が現在の流れの根拠となっているとした場合に,課税関係が影響を受けることはありうるのでしょうか?2.では,この点について考察していきたいと思います。

2.eスポーツ大会の賞金と源泉徴収義務
①報酬等に対する源泉徴収義務の概要
 この記事は,タイトルにもあるとおり,源泉徴収義務の問題について議論するものです。源泉徴収というと,一般的には給料に対するもの,正確に言えば給与所得(所得税法(昭和40年法律第33号,以下「所税」)28条1項)に対する源泉徴収義務(所税183条)を思い浮かべる人が多いかと思います。しかし,給料に対するもの以外にも,所得税法には多くの源泉徴収義務が定められています。
 eスポーツの賞金について問題になりうるのは,報酬,料金等に対する源泉徴収義務(所税204条)です*8。以下に1項のみ条文を挙げておきましょう。

源泉徴収義務)
第二百四条 居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
一 原稿、さし絵、作曲、レコード吹込み又はデザインの報酬、放送謝金、著作権著作隣接権を含む。)又は工業所有権の使用料及び講演料並びにこれらに類するもので政令で定める報酬又は料金
二 弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、司法書士土地家屋調査士公認会計士、税理士、社会保険労務士弁理士海事代理士測量士建築士不動産鑑定士技術士その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金
三 社会保険診療報酬支払基金法(昭和二十三年法律第百二十九号)の規定により支払われる診療報酬
四 職業野球の選手、職業拳けん闘家、競馬の騎手、モデル、外交員、集金人、電力量計の検針人その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金
五 映画、演劇その他政令で定める芸能又はラジオ放送若しくはテレビジョン放送に係る出演若しくは演出(指揮、監督その他政令で定めるものを含む。)又は企画の報酬又は料金その他政令で定める芸能人の役務の提供を内容とする事業に係る当該役務の提供に関する報酬又は料金(これらのうち不特定多数の者から受けるものを除く。)
六 キャバレー、ナイトクラブ、バーその他これらに類する施設でフロアにおいて客にダンスをさせ又は客に接待をして遊興若しくは飲食をさせるものにおいて客に侍してその接待をすることを業務とするホステスその他の者(以下この条において「ホステス等」という。)のその業務に関する報酬又は料金
七 役務の提供を約することにより一時に取得する契約金で政令で定めるもの
八 広告宣伝のための賞金又は馬主が受ける競馬の賞金で政令で定めるもの
(2項以降略)

 ここで列挙されている報酬等を支払う場合には,(2項に定められた除外事由に該当しない場合には,)支払者は,一定の源泉徴収税額を徴収した(いわゆる天引きした)上で報酬等を支払い,税額を税務署に納める必要があります*9。それでは,eスポーツ大会の賞金がこれらのいずれかに該当しうるのか,以下で検討してみたいと思います。

②一般的なゲーム大会における賞金と源泉徴収義務
 eスポーツ選手に対する賞金の支払いとの比較のために,まずは一般的なゲーム大会においてゲーム提供者から支払われる賞金について,上記の条文がどのように関わるのか考察してみましょう
 結論から言えば,一般的なゲーム大会においてゲーム提供者から支払われる賞金は「広告宣伝のための賞金」(所税204条1項8号)として,所税204条が定める源泉徴収義務の対象となるものと考えられます。「広告宣伝のための賞金」は,委任を受けた政令において,「事業の広告宣伝のために賞として支払う金品その他の経済上の利益(旅行その他役務の提供を内容とするもので、金品との選択をすることができないものとされているものを除く。)」をいうもの,と定められています(所得税法施行令(昭和40年政令第96号,以下「所税令」)320条7項)。
 これだけだと良くわかりませんが,国税庁のタックスアンサーでは,その具体例として,「事業を営む個人や法人が製品や事業の内容を広告宣伝するための賞金や賞品 例えば、懸賞クイズや大売出しの抽選の賞金や賞品」「素人のクイズ番組や素人のど自慢の賞金や賞品」が挙げられています*10。また,法令解釈通達においても,「『事業の広告宣伝のために賞として支払う金品その他の経済上の利益』とは、事業を営む者が商品又は事業の内容等を広く一般に知らせ顧客を誘引するために支払う賞金品等をい」う,と述べられています(所得税基本通達204-31。下線は筆者)*11
 1.で整理したように,ゲーム提供者からプレイヤーに対して支払われる賞金は,「顧客を誘引するための手段」として,原則的には景表法上の「景品類」に該当する,とされていました。このタックスアンサーで挙げられている具体例等を参照しても,当該賞金は「広告宣伝のための賞金」に該当する可能性が高いのではないか,と思われます。
 
③「仕事の報酬等」としての賞金と源泉徴収義務
 これに対して,景表法上「仕事の報酬等」として支払われる,例えばプロライセンス保持者に対して支払われる賞金はどうでしょうか。
 ②で論じた「広告宣伝のための賞金」への該当性を考察する前に,他の条文の適用可能性を探ってみましょう。そうすると,「職業野球の選手、職業拳けん闘家、競馬の騎手、モデル、外交員、集金人、電力量計の検針人その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金」(所税204条1項4号)にも該当しうるように一見考えられます。野球選手のようなスポーツ選手に対する報酬と同じように源泉徴収が求められるのではないか,ということです。
 しかしながら,結論から言えば,これには該当しません。報酬についてこの条文を根拠に源泉徴収をすべきスポーツ選手については,政令で限定列挙されており,「プロサッカーの選手、プロテニスの選手、プロレスラー、プロゴルファー、プロボウラー、自動車のレーサー、自転車競技の選手、小型自動車競走の選手又はモーターボート競走の選手」をいうもの,とされています(所税令320条3項)。したがって,eスポーツ選手に対する賞金のように,この政令で挙げられていない報酬については,この条文によっては源泉徴収は求められないことになります。
 また,「役務の提供を約することにより一時に取得する契約金」(所税204条1項7号)についても,「職業野球の選手その他一定の者に専属して役務の提供をする者で、当該一定の者のために役務を提供し、又はそれ以外の者のために役務を提供しないことを約することにより一時に受ける契約金」(所税令320条6項)とされていますが,大会の賞金は契約時に受け取る契約金でありませんから,これには該当しないでしょう。
 そうすると,景表法上「仕事の報酬等」に該当する賞金についても,②で論じた通常のゲーム大会の賞金と同じく,源泉徴収義務の有無は「広告宣伝のための賞金」に該当するかどうかにより判断されることになります。ここで,1.でまとめた景表法の議論が関係してきます。1.で論じたとおり,「仕事の報酬等」が景品類に該当しない理由は「顧客を誘引するための手段」ではないからだ,という議論が存在しています。この理由付けが課税関係を論じるにあたっても有効なのであれば,「仕事の報酬等」は「顧客を誘引するために支払う商金品等」ではなく,したがって「広告宣伝のための賞金」ではない,といった議論も可能なのではないか,と思われます。このような議論が可能なのであれば,「仕事の報酬等」であることが明確な(例えば,プロライセンス保持者に対して支払われる)eスポーツ大会の賞金については,一般的なゲーム大会の賞金と異なり,源泉徴収義務が発生しない可能性もあるのではないか,と思われます。
 ただし,ここではあくまで可能性を提示しているのみであり,私自身が自信をもってこう主張しているわけではない,ということは書いておきたいと思います。少し専門的な議論ですが,景表法のような規制法については,税法が準拠すべき私法とされうるのか,という議論が(医療費控除等の論点について)存在しています。景表法を回避するための仕組みによって課税関係が影響を受ける,というのは,個人的には違和感があります。

3.おわりに
 以上,長くなりましたが,景表法の議論を参照したうえで,eスポーツ大会の賞金と源泉徴収義務の問題について考察してみました。結論としては,「高額賞金の支払いを可能にする景表法上の根拠づけによっては,源泉徴収義務の有無に影響を及ぼしうるのではないか」という可能性を提示しました。
 「0.はじめに」でも書きましたが,ここに書いてあることはあくまで素人が考えてみたことであり,専門家の知見ではありません。実際に課税処理を行うにあたっては,税理士等の専門家に必ず相談してください。この記事を信頼して何か行動を起こされても私は何ら責任は負わない,ということを繰り返し強調しておきます。

*1:2017年7月19日付日本経済新聞電子版「隆盛『eスポーツ』に法の壁 賞金たった10万円」参照。

*2:白石忠志「eスポーツと景品表示法東京大学法科大学院ローレビュー12号(2017年)86頁。

*3:なお,大元慎二編著『景品表示法[第5版]』(商事法務,2017年)181頁においては,仕事の報酬等は「経済上の利益に該当しない」との説明がされています。

*4:白石・前掲注(2)101頁。

*5:詳細については,こちらJeSUウェブサイトを参照。

*6:2018年2月19日付ITmedia NEWS「プロライセンス制度、『消費者庁と相談して決めた』 eスポーツ団体の見解とプロゲーマーの思い」参照。なお,当該座談会については,こちらYoutubeにも投稿されています。法律的な建付けについての議論は,1時間5分頃よりされています。

*7:「esports大会に関わる法律を専門家に聞いた」週刊ファミ通1527号(2018年)126~127頁参照。

*8:なお,上記座談会(前掲注(6))では,大会の賞金は「労務契約」に基づくものなのか,という議論もされています。仮にこの「労務契約」が「労働契約」という意味ならば,賞金が給与所得に該当する可能性もありますが,少し考えにくいので,ここでは省略します。

*9:なお,この制度の趣旨については,「報酬,料金等に係る源泉徴収は種々雑多なものを含んでおり,その統一的な把握や考察をすることは難しい」(水野忠恒「給与等以外の源泉徴収制度」日税研論集15号(1991年)135頁)と指摘されています。

*10:こちら国税庁ウェブサイト参照。

*11:なお,タックスアンサーや法令解釈通達は,あくまで国税庁が示している見解であり,上記で挙げた法律や政令とは異なり,納税者を拘束するものではありません(租税法律主義,憲法30,84条)。しかし,一般的に,実務はこれに沿って行われています。