What Do We Pay for Civilized Society?

税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。概ね1回/月の更新を目標としています。

イートイン脱税が(ほとんどの場合)脱税ではない4つの理由

はじめに

 この記事は,いわゆる「イートイン脱税」がほとんどの場合は「脱税」には当たらないことを説明するための記事です。
 「イートイン脱税」は,10月1日から始まった軽減税率制度の導入によって新しく生じた問題です。例えば,下記記事を参照。
www.zeiri4.com

 なお,「ほとんどの場合」と書いたのは,「イートイン脱税」という言葉自体が新しい言葉であり,フワッとした意味しか持たないので,脱税に当たる場合も(あまり考えられないけれど)ありえないことはないかな,と言わざるを得ないからです。ただ,「イートイン脱税」を「コンビニなどにおいて,店に対しては持ち帰ると申告した客が,実際にはイートインで商品を食べること」と定義する場合には,「イートイン脱税」は「脱税」には当たりません。仮に「イートイン脱税」という言葉が既に定着している状況を前提とすれば,「脱税」とは別ジャンルの,独自の言葉として考えるべきです。その理由を,以下では述べていきます。
 また,この点については,私の兄弟子筋に当たる広島修道大学の奥谷健先生が,既にブログ記事を書かれています。予め紹介しておきます。
okuyatakeshi.wixsite.com

 本記事の構成を書きます。まず,軽減税率制度に関する規定の適用関係を整理します。次に,イートイン脱税が脱税ではない理由を4点述べます。

軽減税率制度に関する規定

 本記事は,外食に係る軽減税率制度について生じた問題について論じるものです。そこで,まずは,外食に係る軽減税率制度についてまとめておきます。理由だけ知りたい人は理由の項に飛んでください。
 まず,お酒を除く飲食料品を売った場合,原則として軽減税率の適用対象となります。正確には,「飲食料品(食品表示法(平成二十五年法律第七十号)第二条第一項に規定する食品(酒税法(昭和二十八年法律第六号)第二条第一項に規定する酒類を除く。以下この号において単に「食品」という。)をいい,食品と食品以外の資産が一の資産を形成し,又は構成しているもののうち政令で定める資産を含む。以下この号において同じ。)の譲渡」は,軽減税率制度の対象です(平成28年法律第15号附則34条1項1号)。
 ただし,外食は軽減税率の対象外です。外食とは,正確には,「飲食店業その他の政令で定める事業を営む者が行う食事の提供(テーブル,椅子,カウンターその他の飲食に用いられる設備のある場所において飲食料品を飲食させる役務の提供をいい,当該飲食料品を持帰りのための容器に入れ,又は包装を施して行う譲渡は,含まないものとする。)」をいいます(同号イ)。なお,上記のとおり,「飲食料品を持帰りのための容器に入れ,又は包装を施して行う譲渡」については,外食のように見えるものであっても,外食には含まれません。
 以上が,軽減税率制度のうち,「イートイン脱税」に関連する規定になります*1。図としてまとめると,以下のようになります。

【軽減税率の図】
 以上の制度を悪用するものとして「イートイン脱税」がある(ものとされている)わけですが,以下に述べるように,これは脱税の一つではありません。

「イートイン脱税」は以下の理由から脱税ではない

消費者(=お客さん)は消費税を脱税できないから

 「イートイン脱税」をしているのは,お客さんです。しかし,客は消費税を払う義務が無いので,脱税をしたくてもできません。これが,理由の1つめです。
 ここで,用語の整理をしておきましょう。消費税制度においては,国,事業者,消費者の3人の人物または3つの団体が登場します。

【消費税制度における登場人物】

 このうち,消費税の納税義務を国に対して負うのは【事業者】です。消費税法にも,下記のとおり定められています(消費税法5条1項)。

 事業者は、国内において行つた課税資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三十条第二項及び第三十二条を除き、以下同じ。)及び特定課税仕入れ(課税仕入れのうち特定仕入れに該当するものをいう。以下同じ。)につき、この法律により、消費税を納める義務がある。

 え,じゃあ僕らが払っている「消費税」って何なんだ,という話ですが,これは,納税義務者である事業者が,自分が負担したくないから価格に上乗せしているものにすぎません。消費税は,消費者に負担を転嫁することが予定されている間接税である,とよく言われますが*2,制度としては,事業者が支払義務を負うものとして設計されています*3
 したがって,まず,消費者は消費税の納税義務が無いので,脱税をしようと思ってもできないわけです。これが理由の1点目になります。

事業者(=店)は嘘をついていないから

 では,事業者が脱税をしていると考えることはできないのでしょうか。
 この点,まず理解しておくべきなのは,税金を安く済ますことの全てが脱税ではない,ということです。例えば,「節税」という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。「租税回避」という言葉を聞いたことがある人もいるでしょう。「脱税」とは,これら2つに比べて悪質な,違法な課税逃れのことをいいます。
 悪質とはどういうことか,と言うと,具体的には,「課税要件の充足の事実を全部または一部秘匿する行為」*4が,「脱税」と言われます。脱税をした人(逋脱犯*5)には刑罰が科されますが,その要件は,「偽りその他不正の行為により、消費税を免れ、又は保税地域から引き取られる課税貨物に対する消費税を免れようとした」*6こと,です(消費税法64条1項1号)。
 ほとんどの場合,イートイン脱税をした/された事業者は嘘をついたり不正な行為をしていないでしょうから,罪に問われることはおそらく無いのではないか,と思います。したがって,事業者も脱税はしていないものと評価すべきではないかと思われます。この点が,理由の2点目です。

税務署も,客に聞けばそれで良いと言っているから

 「脱税の定義は良くわからんけど,でも店側は税金を安くすませてるんでしょ?それっておかしくない?」という意見もあるかもしれません。
 でも,イートイン脱税をした/された店は,本当に「安くすませてる」,つまり,本来払うべき税金から逃れているんでしょうか?この点には,外食かどうか(正確に言えば,「飲食店業その他の政令で定める事業を営む者が行う食事の提供」に該当するかどうか)をどう判断すべきか,という解釈論が関わって来ます。 
 この点は,まだ裁判例も無いですし,あまり確たることをいうことはできません。ただし,実務上の取扱いとしては,以下のように判断すればよいものと,課税庁(税務署)が通達(実務上のマニュアルのようなもの)を公表しています(消費税の軽減税率制度に関する取扱通達11,下線は藤間)。

 事業者が行う飲食料品の提供等に係る課税資産の譲渡等が、食事の提供(改正法附則第34条第1項第1号イ《31年軽減対象資産の譲渡等に係る税率等に関する経過措置》に規定する「食事の提供」をいう。以下この項において同じ。)に該当し標準税率の適用対象となるのか、又は持ち帰りのための容器に入れ、若しくは包装を施して行う飲食料品の譲渡に該当し軽減税率の適用対象となるのかは、当該飲食料品の提供等を行う時において、例えば、当該飲食料品について店内設備等を利用して飲食するのか又は持ち帰るのかを適宜の方法で相手方に意思確認するなどにより判定することとなる。
 なお、課税資産の譲渡等の相手方が、店内設備等を利用して食事の提供を受ける旨の意思表示を行っているにもかかわらず、事業者が「持ち帰り」の際に利用している容器に入れて提供したとしても、当該課税資産の譲渡等は飲食料品の譲渡に該当しないのであるから、軽減税率の適用対象とならないことに留意する。

 
 この取扱いは合理的でしょう。というか,「持ち帰る」と消費者に言われたにも関わらず,本当に持ち帰っているか事業者にチェックさせるのはあまりに酷だろうと思います。
 したがって,税務署も「相手に確認してね」と言っているのだから,イートイン脱税をされた事業者に10%で課税される事態はそもそも想定しがたいわけです。もっとも,事業者と消費者が共謀している場合(例えば,レジの横にデカデカと「食べて行く場合でも持ち帰りとレジで言ってください」などと書いてあった場合)には,事実認定の問題として「意思の確認ができていない」とされる可能性もあるのではないか,と思います。

容器に入れたり包装していれば,そもそも外食には当たらないから

 図にも書いたとおり,容器に入れたり包装した飲食料品は,外食には該当せず,軽減税率の対象になります。正確には,「飲食料品を持帰りのための容器に入れ,又は包装を施して行う譲渡」は軽減税率の対象です。これは,実務上の取扱いではなくて,法律に書いてあることです*7
 したがって,仮にその場で開けて食べたとしても,店として容器に入れたり包装して渡していたら,それは軽減税率の対象で良いわけです。「イートイン脱税」の中にはそのようなものも含まれるように思いますが(例えば,ファミチキを袋に入れてもらって買う場合とかでしょうか),それについては,そもそも問題にすらすべきではないことだ,ということになります。

おわりに

 以上述べてきたように,イートイン脱税は脱税には当たりません。なぜなら,消費者は消費税を支払う義務が無いので脱税をしようがないし(1.),事業者は脱税の罪に問われるような悪質なことをしていないし(2.),ほとんどの場合はそもそも8%課税で良いんじゃないかと思えるからです(3.,4.)。
 最後に言っておきたいことがあります。私は,9月までは軽減税率制度の導入には反対でしたし,現在では,廃止すべきだ,と思っています。ただ,導入されてしまった以上,それがどう働くべきか考えることも必要だろうと思って,この記事を書きました。軽減税率制度を擁護する意図の記事ではないことを述べて,筆を置きたいと思います。

*1:このほか,「課税資産の譲渡等の相手方が指定した場所において行う加熱,調理又は給仕等の役務を伴う飲食料品の提供」も,軽減税率の対象外です(平成28年法律第15号附則34条1項1号ロ)。

*2:なお,消費税転嫁対策特別措置法(平成25年法律第41号)という法律がありますが,これは,大企業が取引相手からの消費税の転嫁を拒むことを防ぐための(租税政策以外の立法目的を持った)法律であり,消費税の建付けとどこまで整合的な法律かは不明確です。田中治「消費税法と消費税転嫁対策法との関係」同志社法学69巻7号(2018年)61頁参照。

*3:三木義一編著『よくわかる税法入門[第13版]』(有斐閣選書,2019年)232~236頁[望月爾執筆部分]参照。

*4:金子宏『租税法[第23版]』(弘文堂,2019年)135頁。また,佐藤教授は,「自らに課せられた租税を違法な手段によって免れる行為のうち,国に対する何らかの欺罔手段を伴うもの」(佐藤英明『脱税と制裁[増補版]』(弘文堂,2018年)7頁)と定義しています。

*5:なお,厳密に言うと,逋脱犯として起訴され罰を科された者のみが脱税者ではない(金子教授や佐藤教授の定義は逋脱犯の構成要件よりも広い)ものとされていますが,わかりやすさのために,ここでは脱税者=逋脱犯という前提で話を進めたいと思います。

*6:この言葉の解釈について,最高裁判所は,「逋脱の意図をもつて,その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作を行なうことをいう」もの,としています(最判昭和42年11月8日刑集21巻9号1197頁)。

*7:この点,上記の通達のなお書きは若干ひっかかります。相手方への確認,という通達上の話を,容器や包装という法律上定められた除外要件よりも優先しているようにも読めるからです。