What Do We Pay for Civilized Society?

税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。概ね1回/月の更新を目標としています。

『租税回避と法』をご恵贈いただきました。

 立命館大学の本部勝大先生より,執筆された『租税回避と法』をご恵贈いただきました。本部先生,ありがとうございます。

www.unp.or.jp

 この書籍は,本部先生が執筆された博士論文をもとに加筆修正を行った書籍です。
 本部先生は,租税回避の包括的否認規定(GAAR)を研究テーマの1つにされています。既に,アメリカおよびカナダの包括的租税回避否認規定(GAAR)について論文を発表されていますし*1,その成果を日本税法学会の大会でも報告されています*2。税法学会で報告された際の記事として,下記を参照。

taxfujima.hatenablog.com

 この書籍は,上記の研究成果をもとにして,大幅に加筆したうえで執筆されたものです。日本法について論じた第Ⅲ部があることにくわえ,序章では,租税回避についての丁寧な説明もされています。非常に難解なイメージがある租税回避否認の議論へと平易な言葉で導いてくれる序章に始まり,第Ⅰ部および第Ⅱ部における外国法についての緻密な分析へと,深い議論へ自然と進んでいける構成になっています。さらに,第Ⅲ部では,バランスがとれた,説得的な意見が提示されています。
 租税回避の議論は,「租税回避を規制すべきだ」という意見と「納税者の権利を守るべきだ」という意見がぶつかる主戦場であり,GAARの導入はまさにその中心にある論点の1つです。この書籍は,それらの対立を踏まえたうえで,緻密な外国法の分析に基づき,新たなステージへと日本の議論を進めるもののように思いました。理解しやすい導入に始まり,バランスのとれた説得的な意見が述べられていることもあり,今後の日本の租税回避否認に関する立法論に大きな影響を与えうる書籍なのではないかと思いました。
 租税回避やその否認に少しでも興味がある人なら,予備知識がなくとも,とても興味深く読める本だと思います。

 個人的な話もしたいと思います。
 本部先生は,他大学ではありますが1学年上の先輩であり,博士後期課程在学時から仲良くさせていただいています。いつも学会の度に色々と他愛もない話をしていただいて,元気づけていただきながら研究を続けてきました。もちろん,私なんかよりも断然優秀な方ではあるのですが,「自分も本部さんのように頑張らなければならない」と常に目標にしながらこれまで研究をしてきたように思っています。
 書籍を拝読して,自分はまだまだこんなすごいものは書けないな,と思ったりもしたのですが,目標になる存在が近い年齢にいることを幸運に思いつつ,精進を重ねて学界に貢献していきたい,と思いました。この記事をお読みいただいているかはわからないですが,仮にお読みいただいていたならば,今後とも色々とご指導いただけると大変嬉しく思います。

*1:アメリカ法につき,「経済的実質主義の制定法化に関する一考察(1)(2・完)」名古屋大学法政論集263号(2015年)401頁同264号(2015年)229頁参照。カナダ法につき,「カナダにおけるGeneral Anti-Avoidance Rule (GAAR)の生成と展開(1)~(4・完)」名古屋大学法政論集274号(2017年)111頁同275号(2017年)291頁同276号(2018年)327頁同278号(2018年)239頁参照。

*2:「アメリカ及びカナダにおける租税回避へのアプローチ」税法学577号(2017年)141頁参照。