一昨日から昨日にかけて(11/21~22),日本税法学会の大会がオンラインにて行われました。
昨年の大会については下記の記事を参照。
例年は6月中旬に各地区持ち回りで対面で大会が行われているのですが,今回の大会は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大の影響により,時期をずらして,オンラインにて行われました。異例の事態ではありましたが,本来の開催地区であった中部地区所属の先生方が,研究委員長の高橋祐介先生を中心に,開催にあたりご尽力くださいました。誠にありがとうございました。
今回の大会でも,例年と同じく,2件の個別報告および3件のシンポジウム報告が行われました。いずれの報告についても,税法学583号に掲載されている論説をもとに行われています。
まず,1日目の個別報告として,弁護士の馬場陽先生が,「固定資産の価格をめぐる攻撃防御の構造」という報告をされました。固定資産税の課税価格の決定について,どのような争い方がありうるのかという点を議論されていました。そもそも租税行政において裁量というものはありうるのか,またありうるとしたらどういったものがありうるのかという点から議論がされていました。
2日目の個別報告としては,弁護士の金谷比呂史先生が「NPO法人が行う障害福祉サービスを『請負業』として課税することの問題点」という報告をされました。いわゆるペット葬祭業事件上告審判決に関する検討も交えながら*1,収益事業課税に関する法令を批判的に検討していました。
シンポジウムは,「地方税をめぐる法的諸問題」という統一論題にもとづき行われました。
まず,同志社大学の田中治先生が,「地方税の法原則」として,地方税に関する総論的な報告をされました。課税自主権や租税条例主義,応益負担原則など,地方税において一般的にいわれる原則について,具体的な裁判例を交えて検討していました。
次に,大阪産業大学の横山直子先生が,「住民税の特徴をめぐる諸問題と今後の方向性」という報告をされました。税法学においては議論の対象になることが多くない個人住民税について,納税意識や納税協力費という概念を鍵に考察したうえで今後の方向性を議論していました。
シンポジウム報告の最後としては,名城大学の伊川正樹先生が,「固定資産税をめぐる紛争」として,固定資産税に関する近時の判例や裁判例について報告されました。特に,固定資産税の課税の根拠と課税除外・減免について中心的に議論されていました。
今回の大会は,馬場先生の個別報告やシンポジウムを通して,地方税のあり方についてメインで取り上げるものでした*2。地方税についてはあまり明るくないのですが,神奈川大学および青山学院大学の講義で近く扱う予定であり,大変勉強になりました。特に,応益負担原則について何度も議論の対象となり,論者によるスタンスの違いがあるのだとわかったことは大きな収穫でした。
このあと,日本租税理論学会の大会が11/29(日)にあるのですが,そちらには残念ながら参加することができませんので,今年の学会はこれで終わりということになろうかと思います。所属している3つの学会(租税法学会,日本税法学会,日本租税理論学会)はいずれもオンラインで大会を開催していただいていて,とてもありがたいことだと思っています。学会を通じて勉強したことを活かして,今後とも研究や教育に励みたいと思います。
*2:金谷先生のご報告についても,公益目的の活動と課税という観点からいえば,固定資産税の議論とも関わりをもつものだと思います。