What Do We Pay for Civilized Society?

税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。概ね1回/月の更新を目標としています。

租税理論研究叢書30と税法学584号に論文が掲載されました。

 タイトルどおり,11月末に発行された2冊の学会誌にそれぞれ1本ずつ論文が掲載されました。
 まず,日本租税理論学会の学会誌である『租税理論研究叢書30 租税上の先端課題への挑戦』(財経詳報社)に,「クラウドファンディング(Crowdfunding, CF)と課税―資金調達者に贈与税を課すべきか,所得税を課すべきか―」が掲載されました(77頁)。

zaik.jp

 昨年の日本租税理論学会大会における報告内容を原稿化したものです*1。昨年の報告については,下記の記事を参照。

taxfujima.hatenablog.com

 また,日本税法学会の学会誌である税法学584号に,「個人間の贈与(みなし贈与を含む)と所得税法9条1項16号」が掲載されました(187頁)。

www.skattsei.co.jp

 いずれの論文も,学会誌に掲載された,ある程度頑張って書いたものですので,本来ならば別の記事で書くべきかもしれません。ただ,テーマとしては関連しているので,刊行時期が重なったことを良い機会として,関連付けながら書いてみたいと思います。

 これらの論文を書くきっかけになったのは,上述のとおり,日本租税理論学会においてシンポジウム報告の機会をいただいたことでした。上述の租税理論研究叢書の論文をお読みいただければわかりますが,当該報告では,寄附型CF*2によって個人から資金を調達した個人に対して,所得税を課すべきか贈与税を課すべきかという検討をしました。普通に考えれば贈与税の課税対象だということになるのですが(実際,先行研究ではそう論じられています),贈与税の課税対象だと考えると困った事態が生じてしまうので*3,所得税の課税対象と解することはできないか,と米国の先行する議論を参照して論じています。
 もっとも,日本租税理論学会における議論では,その背後にある「なぜ贈与税と所得税の課税対象は分けられているのか,どのようにその区別をすべきか」という抽象的な点についての議論は十分にできませんでした。そこで,税法学584号では,この点について,gift(内国歳入法典§102(a))の意義をめぐる米国の判例理論や学説を参照しながら,日本法において得られる示唆を論じました。
 以上のように,検討の出発点はクラウドファンディングの課税関係という具体的な問題だったのですが*4,一連の検討を通して贈与をめぐる課税関係というより深い問題にたどり着くことができました。税法学の論文の末尾に書きましたが,今後の課題も山盛りです。日本租税理論学会および日本税法学会の先生方,執筆の機会を賜り,誠にありがとうございました。
 今月は,もう少し業績が世に出ることになりそうです。お楽しみに。

(2021年2月24日追記)
 税法学584号の論文ですが,条文番号に誤記があったのでこの場で訂正しておきたいと思います。193頁右側21行目および200頁右側(2)6行目の「§1014」は,§1015の誤りです。
 また,注75で触れたAndrewsおよびWarrenの論争については,阿部雪子『資産の交換・買換えの課税理論』(中央経済社,2017年)13~23頁でも論じられていました。

(2021年11月30日追記)
 税法学584号の論文ですが,2021年学界回顧で引用していただいていました*5。ありがとうございます。

(2024年1月25日追記)
 いずれの論文も,学会のウェブサイトにpdfファイルで掲載されました。

zeihogakkai.com

j-ast.sakura.ne.jp

 ご笑覧を賜れますと幸いです。

*1:シンポジウムにおける質疑応答も,同署の中におさめられています。

*2:金銭を受領した者(資金調達者)が,金銭を支出した者(資金提供者)に対して何らモノを渡したりサービスをしたりしない,寄附に類似したクラウドファンディングのことを指します。

*3:拙稿「クラウドファンディング(Crowdfunding, CF)と課税」日本租税理論学会編『租税理論研究叢書30 租税上の先端課題への挑戦』(財経詳報社,2020年)82~83頁参照。

*4:なお,租税理論研究叢書の論文でも引用していますが,クラウドファンディングと消費税の課税問題については,吉村政穂先生が『租税法と民法』において既にEU法との比較法的検討をされています。

*5:神山弘行「特集・学界回顧2021 租税法」法律時報93巻13号(2021年)39頁参照。