What Do We Pay for Civilized Society?

税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。概ね1回/月の更新を目標としています。

租税法学会第50回記念総会

記事の概要

 10/16(土)~17(日),租税法学会の第50回記念総会が行われました。プログラムは下記参照。
sites.google.com

 昨年参加した際の記事として,下記参照。
taxfujima.hatenablog.com

 今回は,第50回の記念総会として,2日間にわたり,さらに2日目には分科会形式も取り入れて,盛りだくさんのプログラムで行われました。後述するとおり分科会報告を任せていただいてかなり緊張しっぱなしで参加していたので,記述が不十分な点があってもどうかご容赦いただければと思います。

1日目

 1日目は,東京大学の会場における対面形式と,ZoomやYoutubeによるオンラインでの配信形式の併用(いわゆるハイフレックス方式)で学会が行われました。私はZoomからオンラインで参加したのですが,画質が非常に綺麗かつカメラワークなど丁寧で,まるで会場にいるかのように参加することができました。主催校である東京大学の皆さまのご尽力の賜物だと思います。ありがとうございます。
 1日目の最初のプログラムとして,前最高裁判事であり著名なタックスロイヤーである宮崎裕子先生が「弁護士の専門家と最高裁」と題する記念講演をされました。租税法学会では,以前,藤田宙靖先生が講演をされたことがありますが(講演録はこれ(本文はインターネット上にはありません)),藤田先生の話と基本的に状況は変わらないと話しつつ,コロナ禍によるものをふくめ藤田先生の時代からの変化を論じられていました。
 次に,記念報告として,神戸大学の渕圭吾先生が「国際課税の地殻変動」と題する報告をされました。国際課税については,近時,「地殻変動」と呼ぶにふさわしい様々なダイナミックな動きが起きています*1。この動きからどのような示唆があるのか,という点について,幅広く,かつ未来を見通した議論をされていました。個人的には,居住地と国籍につき,税法が他の法分野に対して影響を与えられるのではないか,と論じている点が印象に残りました。
 その後,今年から新設された租税法学会賞の授与式および受賞記念報告がありました。今回の受賞作品は,京都大学の住永佳奈先生が書いた『課税の契機としての財産移転』と立命館大学の本部勝大先生が書いた『租税回避と法』です。それぞれをいただいた際に紹介した記事として,下記を参照。

taxfujima.hatenablog.com

taxfujima.hatenablog.com

 上記の記事もありますので,記念報告の内容は割愛させてください。私にとっては,お2人とも大学院が違うとはいえ学年が1つ上の同年代の研究者で,背中を追いかけながらここまで研究を進めてきた人たちです。そんな2人が賞を受賞して報告されているのを聴いて,私も頑張らなくてはならないな,と背筋が伸びる思いがしました。改めて,お2人とも本当におめでとうございます!

2日目

 2日目は,完全オンライン(Zoom)かつ分科会形式で学会が開催されました。3つの分科会が午前と午後の2つの部に分かれ,それぞれの部に2人の報告者がいたので,合計で12人が報告をしました。分科会は,それぞれ「租税法の過去」「租税法の現在」「租税法の未来」というテーマで設置されました。
 私も報告枠の1つを割り当てていただきました。「租税法の未来」分科会の午前の部で,名古屋経済大学の山田麻未先生と一緒に報告を担当しました。与えられた論題は「資金調達チャンネルの多様化と租税法の未来」というもので,おそらくクラファンについてこれまで論じてきたことから割り当てていただいたのだろうと思います*2。この論題にもとづき,ICOやIEOという新たな資金調達方法を例にとりながら法人税の課税ベースについて論じました。山田先生は金融所得課税について論じられていて,山田先生が資金の出し手の議論,私が資金の受け手の議論,というようなイメージです。
 租税法学会は本来なら私のような未熟者が報告の機会をいただけるような場所ではないので,かなり緊張しながら準備を進めてきました。少しでも人前で話す機会を得ながら準備をしようということで,この記事で述べた東アジア租税法研究会やこの記事で述べたアメリカ税法研究会ミニ研究会で報告の機会をいただきながら少しずつ準備を進めてきました。報告の度に論旨があっちこっちに行ってしまってどうなるか不安だったのですが,分科会司会の吉村政穂先生のご指導もあり,何とか形にして報告をすることができました。
 ただ,私の報告内容がフワッとしすぎていたこともあり,報告内容をしっかりと固められていた山田先生に質問が集中してしまったのは,私の議論の吟味という意味でも山田先生のご負担という意味でも望ましくなかったかもしれない,とも感じています。方向性を提示するにとどまる報告だったので,今後よりしっかりとした議論ができるように研究を進めていきたいです。まずは,租税法研究への論文の掲載まで,議論を詰めていきたいと思います。もっとも,個人的な体験という意味では,新たな研究の方向性に出会えたので報告して良かった,とも感じています。私の議論の拙さにもかかわらずご質問いただいた先生方,誠にありがとうございました。
 午前は以上のように自分が報告した分科会に参加しましたが,午後も,同じ「租税法の未来」分科会に参加しました。岡山大学の小塚真啓先生と一橋大学の藤岡祐治先生が報告をされていたのですが,ものすごく自由で野心的な議論をされていて,これこそが未来を語る態度なのだな,と感銘を受けました。いつか未来を描く野心的な議論ができるよう,まずは過去や現在についてしっかりと学んで,自分の視座をより固めていきたいと思います。
 いずれの分科会の議論も,次号の租税法研究に掲載される予定です。他の分科会も参加したいものばかりだったので,今から租税法研究を読むのがとても楽しみです。私の論文も載せていただけると思うので,ぜひご笑覧を賜れますと幸いです。また掲載いただいた段階で記事にすると思います。

おわりに

 今回の租税法学会第50回記念総会は,若手を中心とした多様な論者が多様な論点について論じる,非常にバラエティに富む機会でした。戦後から本格的に議論が始まった租税法の世界が大きく広がり,そしてこれからも広がりを見せていくであろうという希望に満ちた場であったように感じます。そんな場の一端を担うことができ,第50回の記念総会であったこともあわせ,とても光栄でした。報告を任せていただきありがとうございました。今後とも,学界に少しでも貢献できるように,遅々とした歩みかもしれませんが研鑽を積んでいきたいと思います。

*1:余談ですが,神奈川大学の2年生ゼミでは,国際課税に関する新書の輪読をしています。国内課税のことすらまだ学んでいない学生とやるにはチャレンジングなテーマかもしれませんが,でも,ダイナミックな動きを楽しみながらゼミができているように今のところは感じています。

*2:これこれ参照。