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税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。概ね1回/月の更新を目標としています。

日本租税理論学会研究大会

 一昨日および昨日(10/30,31),日本租税理論学会の研究大会に参加しました。オンライン(Zoomミーティング)にて,名城大学の伊川正樹先生を幹事として行われました。
 一昨年参加した際の記事として,下記参照。昨年は学務との関係で参加できなかったので,2年ぶりの参加でした。

taxfujima.hatenablog.com

 今回の大会では,1件の講演と1件の一般報告,それに7件のシンポジウム報告が行われました。
 まず,1日目の初めに,西南学院大学の倉見智亮先生が「課税所得計算調整制度の日米比較」と題する報告をされました。昨年公刊された『課税所得計算調整制度の研究』の内容を前提とした報告でした。当該書籍をいただいた際の記事として,下記を参照。

taxfujima.hatenablog.com

 日本の判例を出発点として*1,米国の議論との比較法的見地から,日本法において採用すべき方策を議論されていました。私も,自分の研究分野との関わりから,期間計算主義について質問しました。ご回答いただき,ありがとうございました。

 その後,名城大学名誉教授の谷江武士先生による「コロナ禍における内部留保と課税」と題する講演が行われました。統計データをもとにして,コロナ禍のなかで企業に対する課税がどのようにあるべきか,という点を議論されていました。
 一般報告および講演の後,シンポジウム報告が行われました。1件目として,岩手県立大学の桒田但馬先生による「東日本大震災被災自治体の復興格差とポスト復興の財政課題―地方税からのアプローチ」と題する報告が行われました。東日本大震災から10年が経過した現在において地方自治体が直面している課題について,税制面から議論されていました。
 次に,シンポジウム報告の2件目として,千葉商科大学の泉絢也先生による「AI・ロボット税の導入論議」 と題する報告が行われました。AIやロボットにそもそも課税すべきなのか,また,課税するとしたらどのような正当化根拠がありうるのか,具体的にはどういった制度がありうるのか,という点を議論されていました。2日目の質疑応答において,私も質問しました。少し曖昧な質問になってしまったかもしれないのですが,ご回答いただき,ありがとうございました。
 その後,シンポジウム報告の3件目として,専修大学の谷口智紀先生による「デジタル課税における知的財産権の評価」と題する報告が行われました。近時のデジタル課税の流れについて,谷口先生のご専門である知的財産権と課税という観点から議論をされていました。
 1日目の最後に,シンポジウム報告の4件目として,税理士の山元俊一先生による「適格請求書等保存方式への移行と電子インボイスの課題」と題する報告が行われました。電子インボイスについては,実務上の関心が非常に高いところだと認識しています。諸外国との比較検討を含めた,充実した議論をされていました。

 2日目も,引続きシンポジウム報告が行われました。
 まず,シンポジウム報告の5件目として,税理士の松井吉三先生による「格差拡大を加速させるインボイス制度」と題する報告が行われました。いわゆる日本型インボイス方式(適格請求書等保存方式)の導入の是非を論じられていました。
 次に,シンポジウム報告の6件目として,青山学院大学の道下知子先生による「アメリカEITCのノンコンプライアンスにおける法的問題点 ―最近の裁判例を検討素材として―」と題する報告が行われました。アメリカのEITCのような制度は,日本でも「給付付き税額控除」として導入が議論されることがありますが,未だに実現には至っていません。そのような制度を導入した際に生じうる問題点について議論されていました。私も質疑応答で質問しました。ご回答いただき,ありがとうございました。
 シンポジウム報告の最後として,立命館大学の篠田剛先生による「経済のデジタル化と課税をめぐる国際協調と米国の税制改革」と題する報告が行われました。国際課税については,その根本的なところから大きな動きがOECDを中心として起きているところですが,その動きとアメリカの税制改革の動きを関連付けながら議論されていました。
 以上の報告の後,シンポジウムに関する質疑応答も行われました。

 今回の租税理論学会の大会は,内容も多岐にわたり,盛りだくさんな内容でした。税法学をふくめ,税に関する学問的な検討の多様さに触れることができたように思います。学会で得た刺激や質疑応答で議論したことを活かして,研究に励みたいと思います。

*1:クラヴィス事件上告審判決(最判令和2年7月2日民集74巻4号1030頁)。