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税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。概ね1回/月の更新を目標としています。

日本税法学会大会第112回大会

 一昨日および昨日(6/18,19),日本税法学会の大会が行われました。昨年の大会については下記の記事を参照。

taxfujima.hatenablog.com

 今年は,関西大学千里山キャンパスにおける対面およびZoomによるオンライン*1の併用にて開催されました。私はオンラインで参加しました。併用による開催は大変なことも色々とあったと思いますが,ご尽力くださった先生方,誠にありがとうございました。
 今回の大会は創立70周年記念大会であることから,例年のように一般報告とシンポジウム報告という形ではなく,5件の研究報告が行われました。いずれの内容も,創立70周年記念号である税法学586号に掲載された論文がもとになっています。

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 まず,1日目には,4件の研究報告および1件の質疑応答が行われました。
 初めに,広島修道大学の奥谷健先生が「国税通則法の課題」という論題で報告されました。税務調査手続,更正の理由附記および処分理由の差替えという3つの論点につき,平成23年の国税通則法改正(平成23年法律第114号)がどのような影響を与えたものと解すべきか,という点について議論していました。奥谷先生の報告については,1日目に質疑応答も行われ,立法的解決の要否もふくめて議論されました。
 次に,弁護士の脇谷英夫先生が「民法(相続法)改正と遺留分権利者及び義務者に対する相続税の課税根拠との関係に関する考察」という論題で報告されました。平成30年の民法改正(平成30年法律第72号)によって遺留分制度のあり方が変わったことが相続税法にどのような影響を及ぼすべきか,という点について議論していました。
 その後,名城大学の伊川正樹先生が「譲渡所得課税の趣旨と課税理論」という論題で報告されました。令和2年のいわゆるタキゲン事件上告審判決*2と上述の民法改正によって新設された配偶者居住権の制度を素材に,これまで譲渡所得課税の制度趣旨とされてきた増加益清算課税説が現在どのように位置付けられるべきかという点を議論していました*3
 1日目の4件目の報告としては,税理士の金井恵美子先生が「所得税法56条の功罪」という論題で報告されました。個人単位を採用している所得税制度において所得分割を防止するために規定されている所得税法56条を廃止すべきことを主張されていました。
 1日目の最後に,同志社大学の倉見智亮先生が「米国における事後的タックス・プランニングの司法統制」という論題で報告されました。納税者が当初採用した法形式と異なる実質にもとづいて申告をした場合などについて,どこまでその主張が認められるべきか,という日本ではこれまであまり議論されてこなかった論点について,米国の議論をまとめることを主眼として議論されていました。

 2日目には,1件の研究報告,学会の総会および研究報告の質疑応答が行われました。
 まず,研究報告としては,大阪学院大学の谷口勢津夫先生(日本税法学会理事長)が「租税法律主義と司法的救済保障原則」という論題で報告されました。課税庁の恣意的な課税を防ぐために形成されてきた租税法規を厳格に解釈すべきだという法理について,硬直的な運用によって救済されるべき納税者を救済しない理由とされてはならない,という議論をされていました。
 その後,学会の総会が行われました。会員のみ参加できる場だったので詳しくは書きませんが,これまで70年で税法学会が培ってきたものを再確認し,新たなステップへと踏み出すような機会であったように感じます。谷口理事長の熱いスピーチには感銘を受けました。
 大会の最後に,(1日目に質疑応答をした奥谷先生の報告以外の)研究報告について質疑応答が行われました。報告自体も多様な論点について行われましたが,質疑応答も様々な立場から質問が飛び,勉強になりました。特に,倉見先生のご報告の質疑応答では,比較法的な検討とはどうあるべきか,という点についても議論が及び,学ぶところが大きかったです。

 対面とオンラインの併用ということもあってか,学会自体の熱い雰囲気と様々な人が参加する多様さがどちらもある面白い学会でした。学んだことを活かして,今後とも研究に励んでいきたいと思います。

*1:なお,傍聴の方はYoutube Liveで視聴する形でした。

*2:最判令和2年3月24日集民263号63頁

*3:なお,伊川先生には,個別にメールでご報告について質問し,ご回答もいただきました。大変ご多用であろうところご対応くださり,誠にありがとうございました。