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What Do We Pay for Civilized Society?

税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。

関西租税法若手研究会

先日(5/21(日)),関西租税法若手研究会に参加して参りました。
主催の小塚先生,ありがとうございました。
(司法試験の設問についての昨日の記事について呟いてくださっているのに今気づきました…こちらについてもありがとうございます。)

今回もお二方発表してくださいました。
倉見先生は,給与所得に関する日本ではあまり議論されていないテーマについて,比較法的観点から発表されました。
長戸先生は,先日公刊された『事業再生と課税』について解説してくださいました。小塚先生の書評も合わさり,非常に刺激的でした。

長戸先生の著書は本当にすばらしくて,今後事業再生局面における課税関係を論じる際には必ず参照される文献になるでしょうし,租税立法全体についても重要な示唆を与えてくださっている本だと思います。米国の事業再生局面での課税関係については,これを読めば全て分かると言っても過言ではないと思います。
私が研究している債務免除益課税も,事業再生局面で主に問題となるテーマですので,とても詳しく論じられています。今一度長戸先生の書籍を読んだ上で理解を深め,今後の研究に活かしていきたいと思います。

平成29年司法試験租税法第2問設問1(所得税法44条の2の適用関係)について

 司法試験で債務免除益課税の問題が出たと聞いたので*1,解説というか,論点をまとめてみる。
 なお,私は司法試験を受けたことも,司法試験に関連する試験を受けたこともない。ロースクールに通ったこともない。そのため,的外れな記述もあろうかと思うが,ご容赦いただければ幸いである。また,以下の議論は,多くを拙稿「債務免除益課税の基礎理論」によっている*2

1.事案の概要
 納税者(個人。以下「A」という)が銀行から受けた債務免除益の課税関係が問題となっている。
 Aは,不動産業および飲食業(日本料理店)を営んでおり,不動産業のための賃貸物件および自宅を購入し,飲食業の事業資金とするため,B銀行より約3億円を借り入れた。しかし,不動産業および飲食業の経営が悪化したことから,返済を行うことが困難となった。そのため,平成27年12月1日,借入金の元本および利息額の残高2億円につき,賃貸物件および自宅を売却した上で1億円を弁済することを停止条件とし,残額1億円については債務免除を受けることとなった。

【債務免除直前のAの状況の図】
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 債務免除の直前,Aとその配偶者であるCの生計は,Cが得ている15万円ほどの給与収入により賄われていた。また,Aは,B銀行からの借入金のほか,取引先であるD社からも600万円を借り入れていた。AおよびCには,賃貸物件および自宅のほかにめぼしい財産はなかった。Aの営む飲食業および不動産業からは,平成27年においてそれぞれ500万円の損失が発生していた。
 債務免除が行われた後,平成28年夏以降,Aの営む日本料理店は経営状態が好転した。

2.問題とされている点
 AがB社から得た債務免除益1億円を,Aの各種所得の計算上総収入金額に算入するべきか。具体的には,当該債務免除益1億円に対し所得税法(以下「法」という)44条の2の適用があるか。
 なお,検討にあたっては,法44条の2第3項(手続的な要件)については充足されているものとする。

3.問題の検討
(1)債務免除益課税および所得税法44条の2の概要
 債務免除(民法519条)により借入金債務が消滅した場合,債務者は経済的利益を受ける。この経済的利益のことを,一般的に債務免除益と呼称する*3経済的利益の額は所得税法上収入金額または総収入金額に算入されることとなっており(法36条1項および2項),原則として,債務免除益は収入金額または総収入金額に算入されることとなる。
 もっとも,債務免除を受けるのは,経済的に困窮していて債務を返済できない者が多い。債務を返済できない者は,同時に所得税も負担できない(担税力に乏しい)。したがって,資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である者(以下「資力喪失者」という)が得た債務免除益については総収入金額に算入しない,とする取扱いを定めた規定がある*4。法44条の2である。

(免責許可の決定等により債務免除を受けた場合の経済的利益の総収入金額不算入)
第四十四条の二  居住者が、破産法 (平成十六年法律第七十五号)第二百五十二条第一項 (免責許可の決定の要件等)に規定する免責許可の決定又は再生計画認可の決定があつた場合その他資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合にその有する債務の免除を受けたときは、当該免除により受ける経済的な利益の価額については、その者の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しない。
2  前項の場合において、同項の債務の免除により受ける経済的な利益の価額のうち同項の居住者の次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額(第一号から第四号までに定める金額にあつては当該経済的な利益の価額がないものとして計算した金額とし、第五号に定める金額にあつては同項の規定の適用がないものとして総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額を計算した場合における金額とする。)の合計額に相当する部分については、同項の規定は、適用しない。
 一  不動産所得を生ずべき業務に係る債務の免除を受けた場合 当該免除を受けた日の属する年分の不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額
 二  事業所得を生ずべき事業に係る債務の免除を受けた場合 当該免除を受けた日の属する年分の事業所得の金額の計算上生じた損失の金額
 三  山林所得を生ずべき業務に係る債務の免除を受けた場合 当該免除を受けた日の属する年分の山林所得の金額の計算上生じた損失の金額
 四  雑所得を生ずべき業務に係る債務の免除を受けた場合 当該免除を受けた日の属する年分の雑所得の金額の計算上生じた損失の金額
 五  第七十条第一項又は第二項(純損失の繰越控除)の規定により、当該債務の免除を受けた日の属する年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額の計算上控除する純損失の金額がある場合 当該控除する純損失の金額

 法44条の2は,1項で資力喪失者が得た債務免除益を総収入金額に算入しない旨を定めている。2項では,各種所得(不動産所得,事業所得,山林所得,雑所得)の計算上その年に生じた損失の額および純損失の額の分については1項の規定を適用せず,債務免除益を総収入金額に算入する旨が定められている。これは,この部分の額についても総収入金額不算入を認めてしまえば,損失の額が繰り越されてしまい,いわば1つの損失につき2重の控除(債務免除益の非課税+他の所得との相殺)が起こってしまうからである。したがって,債務免除益を総収入金額に算入することで損失を相殺し,繰り越させないことが必要となる。
 法44条の2は平成26年税制改正によって設けられた規定だが,前身の規定が法令解釈通達として存在していた。法36条の法令解釈通達である旧所得税基本通達36-17(以下「旧通達」)である。同通達の内容は以下のとおりであった。

(債務免除益の特例)
36-17 債務免除益のうち、債務者が資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であると認められる場合に受けたものについては、各種所得の金額の計算上収入金額又は総収入金額に算入しないものとする。ただし、次に掲げる場合に該当するときは、それぞれ次に掲げる金額(次のいずれの場合にも該当するときは、その合計額)の部分については、この限りでない。
(1)当該免除を受けた年において当該債務を生じた業務(以下この項において「関連業務」という。)に係る各種所得の金額の計算上損失の金額(当該免除益がないものとして計算した場合の損失の金額をいう。)がある場合 当該損失の金額
(2)法第70条(純損失の繰越控除)の規定により当該免除を受けた年において繰越控除すべき純損失の金額(当該免除益を各種所得の金額の計算上収入金額又は総収入金額に算入することとした場合に当該免除を受けた年において繰越控除すべきこととなる純損失の金額をいう。)がある場合で、当該純損失の金額のうちに関連業務に係る各種所得の金額の計算上生じた損失の金額があるとき。 当該繰越控除すべき金額のうち、当該損失の金額に達するまでの部分の金額

 しかし,この通達に対しては,法36条という収入金額に関する一般的な規定の解釈として本当に導き出せるものか疑問の声があった。そのため,平成26年税制改正により上記通達は削除された上で,法44条の2が設けられた。

(2)法44条の2の適用要件の解釈論
 法44条の2は,「居住者が、破産法 (平成十六年法律第七十五号)第二百五十二条第一項 (免責許可の決定の要件等)に規定する免責許可の決定又は再生計画認可の決定があつた場合その他資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合にその有する債務の免除を受けたとき」に適用される。Aは(記述はないが)国内の居住者(法2条1項3号)であろう。また,Aは破産法または民事再生法の適用を受けておらず,B銀行との交渉により債務免除を受けた(私的整理を行った)のだから,要件の解釈において問題となるのは,Aが「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」であったか否か,という点である。
 適用要件の解釈については,旧通達の頃より,学説および裁判例において争いがあった*5。法44条の2の創設に伴い,以下のような学説および通達が出されている。

「『資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難な場合』とは,事業を営む個人が,その債務につき,債務処理に関する計画で一般に公表された債務処理を行うための手続に関する準則に基づき作成されていること,その他の要件をみたすものに基づき免除を受けた場合を意味すると解すべきである」*6

所得税基本通達
(「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難」である場合の意義)
44の2-1 法第44条の2第1項(免責許可の決定等により債務免除を受けた場合の経済的利益の総収入金額不算入)に規定する「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難」である場合とは、破産法(平成16年法律第75号)の規定による破産手続開始の申立て又は民事再生法(平成11年法律第225号)の規定による再生手続開始の申立てをしたならば、破産法の規定による免責許可の決定又は民事再生法の規定による再生計画認可の決定がされると認められるような場合をいうことに留意する。

 本問においては,①Aは配偶者Cの収入をもって生計を維持するのがやっとの状況であり,支払不能状態にあったと思われること,②債務免除直前には,Aは1億円超の債務超過状態にあったことから,上記通達のような解釈を用いれば適用要件は充足しているものと思われる。一方,Aは私的整理について定めた何らかのガイドラインに沿って債務免除を受けた訳ではないことから,上記学説のような解釈を用いれば適用要件を充足していないと議論することも可能である。この他,債務免除の後にAが事業を回復させていることを重視して,債務を弁済することが可能であったと議論することも不可能ではない*7

(3)債務免除益の所得分類および損失の取扱い
 本問では,本問債務免除益の算入額について,各種所得の計算上これを求めるべき旨発問されている。
 債務免除益の所得分類をめぐっては,給与所得該当性が争われた判例*8およびノンリコース債務の免除益について不動産所得,一時所得または雑所得該当性が争われた裁判例*9がある。所得分類は既に判例等で規範が確立されているため,主に事実認定が争われていることが多い。しかし,債務免除益の所得分類をめぐっては,どのような事実を所得分類の判定にあたって考慮するのか,裁判例によって差異が見られる。
 1つの考え方は,債務免除益は債務の発生および消滅によって生じるものであるから,債務の発生時点および消滅時点に着目する考え方である。もう1つの考え方は,債務免除益は債務の消滅によって生じるものであるから,債務の消滅時点のみに着目する考え方である。
 本問題においては,免除を受けた債務1億円のうち,①5,000万円が賃貸物件の購入資金に係るもの,②3,000万円が日本料理店の事業資金に係るもの,③2,000万円が自宅の購入資金に係るものであることが明らかにされている。まず,債務の発生時点にも着目する考え方によれば,①は不動産所得(法26条1項),②は事業所得(法27条1項)*10,③は一時所得(法34条1項)*11と解すべきであろう。一方,債務の消滅時点にのみ着目する考え方によれば,例えば①は不動産の貸付けとは関係のない,債務免除により得た所得であるから,一時所得に該当するという議論もありえよう*12
 ①が不動産所得,②が事業所得,③が一時所得とした場合,2項により平成27年分の損失の額については総収入金額への算入が求められることから,不動産所得の総収入金額に算入される債務免除益の額が500万円,事業所得の総収入金額に算入される債務免除益の額が500万円,他は0となる。一方,①が一時所得に該当するとした場合には,不動産所得となり,かつ法44条の2の適用を受ける債務免除益は他にないのであるから,事業所得の総収入金額に算入される債務免除益の額は500万円,他は0となる。

(4)小括
 以上の検討をまとめれば,
そもそも法44条の2第1項の適用要件にAが当てはまるのか。
②本問債務免除益の所得分類は何か。
を議論するのが,本設問の主たる検討事項であった,と言えよう。
 ①法44条の2第1項の適用の可否については,適用されないならば(収入金額についての通則的な規定である法36条の適用により)1億円が全額総収入金額に算入されることになる(ただし,所得分類の問題は残る)。
 法44条の2が適用される(1項の要件を充足する)としても,②所得分類によって結論は異なる。損失の額分を総収入金額に算入する2項の取扱いが問題となるからである。ありうる結論としては,事業所得および不動産所得のそれぞれにつき総収入金額に500万円を算入するか,事業所得の総収入金額にのみ500万円を算入する,というものになろうかと思われる。

4.余談および疑問
以下の事項は問題の成否には影響しないように思われるが,一応論じておく。
(1)法44条の2の適用効果の解釈論
 法44条の2の適用の効果は,「総収入金額に算入しない」というものになっている。
 「総収入金額」という文言は,不動産所得,事業所得,山林所得,譲渡所得,一時所得および(公的年金以外の)雑所得の計算規定において用いられている(法26条2項,27条2項,32条3項,33条3項,34条2項,35条2項2号)。これら以外の所得分類(利子所得,配当所得,給与所得,退職所得,公的年金の雑所得)の計算規定においては,「収入金額」という文言が用いられている(法23条2項,24条2項,28条2項,30条2項,35条2項1号)。
 所得税法上,両文言は使い分けられている。例えば,収入金額についての通則的な条文である法36条1項は「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額」(下線は筆者)について規定している。この規定の法令解釈通達である旧通達も「収入金額又は総収入金額に算入しない」(下線は筆者)と規定していたのは,(1)で引用した通りである。
 以上の議論から,法44条の2は事業所得等にのみ適用される,と結論づけることも可能である。一方,法44条の2の趣旨を鑑みれば,旧通達と同じく給与所得等にも適用されるよう拡張解釈されるべきだという議論は可能である。ただし,租税法の解釈は一般的に文理解釈が原則とされている*13。また,所得分類は収入金額または総収入金額への算入の有無の後に来る議論であり,算入の有無は所得分類に先行して考えられるべきだ,という議論もありえよう。
 しかし,3.(3)で論じた部分を見ればわかるように,本問の債務免除益はいずれにせよ「総収入金額」が用いられる所得分類に該当する。したがって,この点について議論する必要は無かったと思われる。

(2)純損失
 法44条の2第2項5号は,純損失(法70条)の金額分の債務免除益についても総収入金額に算入すべき旨を規定している。しかし,本問においては,純損失の金額については何ら述べられていない。おそらく無視して良いということであろう。
 しかし,Aのように事業活動に困窮している場合には,通常は純損失の金額が存在するものである。特段規定されていないので,Aは(純損失の繰越控除が認められない)白色申告者である,ということなのだろうか?

(3)譲渡所得の非課税規定
 Aが行った自宅および賃貸物件の譲渡については,譲渡所得の非課税規定(法9条1項10号)の適用も問題となる。ただし,この点については発問されていない。

5.感想
 債務免除益課税は非常に重要な分野であると個人的には思っている。近年裁判例が立て続けに出てきていることが,その証左であろう。
 司法試験で出題する意義も非常に高かったものと思われる。倒産処理に携わる弁護士になるならば,倒産処理における租税債権の取扱いに加えて,倒産処理の結果生じる税負担についても目を配らなければならない。本問も,債務免除益課税が事業再生の場面に広く関わる問題であることから,司法試験において出題されたのではないかと思われる。
 もっとも,出題する意義はともかく,本問を果たして解くべきか,という(いわば試験技術的な)視点で考えた場合には,どうなのだろう。最初に述べたとおり,私は司法試験に関連する試験を受験したことがない。そのため,結論を軽々しく書くことはできない。しかし,3.(2)および(3)で書いたように,本問で問われている問題については通説は未だに存在しない。ロースクール等において,例えば関連する最判平成27年10月8日について議論をしたことはあった人もいたかもしれないが,法44条の2の解釈論の議論に触れた人はそう多くはなかったであろう*14。そのため,解くにあたっては自分で考える部分が非常に大きかったのではないか,と思われる。

(5/24 13:00追記)
 3.(4)を設けるなど,多少加筆修正しました。

*1:問題文は法務省ウェブサイトからダウンロードできる。

*2:こちらおよびこちらからダウンロードできる。

*3:なお,私は債務免除以外の事由により債務が消滅した場合についても「債務免除益」と呼称している。一方,債務は免除以外の事由によっても消滅するのであるから,「債務消滅益」と呼称すべきだ,という意見も根強い。また,債務免除益とは何か,どのようなメカニズムで発生するのか,そのメカニズムを勘案して,どのように課税されるべきかというのは,実は大きな問題である。私はこの点について現在研究を行っている。

*4:ここでは,分かりやすさを重視して法44条の2は課税上の恩恵のような規定であるかのように書いたが,私の学問的立場はそうではない。

*5:詳しくは注(1)で挙げた拙稿(上)の第二章第一節を参照されたい。旧通達の適用要件の解釈が争われた裁判例として,仙台高判平成17年10月26日税資255号順号10174および大阪地判平成24年2月28日税資262号順号11893参照。なお,大阪地判については金子宏=佐藤英明=増井良啓=渋谷雅弘編『ケースブック租税法[第4版]』(弘文堂,2013年)352頁において挙げられている。

*6:金子宏『租税法[第22版]』(弘文堂,2017年)190頁。

*7:注(5)で挙げた仙台高判は,再生型手続には原則として旧通達が適用されない旨を判示している。また,同注における大阪地判では,被告(国)が事業の再生を理由に旧通達が適用されない旨を主張している。

*8:最判平成27年10月8日判タ1419号72頁。なお,平成29年2月8日に差戻控訴審判決が出ているようである。

*9:東京高判平成28年2月17日裁判所ウェブサイト。なお,第一審判決(東京地判平成27年5月21日裁判所ウェブサイト)について,私は判例研究を発表している

*10:事業所得の意義については,弁護士顧問料事件上告審判決(最判昭和56年4月24日民集35巻3号672頁)参照。

*11:一時所得の要件のうち非継続要件につき,馬券事件上告審判決(最判平成27年3月10日刑集69巻2号434頁)参照。

*12:注(9)で挙げた東京高判は近い考え方を取っている。

*13:ホステス源泉徴収事件上告審判決(最判平成22年3月2日民集64巻2号420頁)参照。

*14:注(5)で述べたように,旧通達の適用要件が争われた大阪地判については『ケースブック租税法』に挙げられていたが,引用されている部分は旧通達の適用要件について判示したものではない。

判例研究が重要判例解説に引用されました!

9月に発表した判例研究が、『平成28年度重要判例解説』に引用されました(吉村政穂「判批」ジュリスト1505号(2017年)213頁参照)。吉村先生が、当該事件の控訴審判決の意義について述べる部分で引用してくださいました。ありがとうございました。
上記ブログ記事に加筆したとおり、弊学の木山先生は既に引用してくださっていました(木山泰嗣「判批」税経通信71巻13号(2016年)176頁)。しかし、外部の先生に引用していただけるとは思っておりませんでした。特に、大学院入学後しばらく、私は興銀事件(最判平成16年12月24日民集58巻9号2637頁)について研究しており、興銀事件の判例評釈を租税判例百選第5,6版と担当されている吉村先生に引用していただけたのは本当に嬉しかったです。ありがとうございました。
とても嬉しいのですが、これに浮かれることなく、今後も引用していただけるような研究成果を公表できるよう、目の前の研究に集中してまいりたいと思います。

(4/28追記)
弊学のリポジトリにて当該判例研究が公開されました。下記リンクよりダウンロード可能です。
青山学院大学 学術リポジトリ

債務免除益課税の基礎理論(下)が公開されました

3月に発行された青山ビジネスロー・レビュー6巻2号に,拙稿「債務免除益課税の基礎理論―事業再生税制の「資力喪失要件」に対する解釈を中心として―(下)」が掲載されました。(上)と同じく,修士論文「債務免除益課税の理論的根拠」に加筆修正を行った上で投稿したものです。
下記リンクよりダウンロードできます。

青山学院大学 学術リポジトリ

(下)では,まず,従来通達(旧所得税基本通達36-17)で規定されていた事業再生税制が法定化されたことに伴い(所得税法44条の2),その射程範囲が縮小されたことを述べます(昨年末に第01回租税実務Lightening Talkで述べた内容です)。その後,(上)で整理した債務免除益課税の理論を私法と関連付けて論じ,債務免除益課税の理論と事業再生税制のあるべき解釈が整合しないことを述べます。そのうえで,私独自の理論を展開しています。
正直なところ,今見ると論証不足が目立つ面も多く,恥ずかしい気持ちでいっぱいです。しかし,博士後期課程の研究を通して,この論稿で述べた議論をより補強しつつ展開していきたいと思っております。ご笑覧いただければ幸いです。

現金を「販売」した場合の譲渡所得課税について

この話。
togetter.com
この場合,譲渡所得課税(所税33条)についてはどのように考えれば良いのだろう。

まず,原則として,金銭は譲渡所得の起因となる「資産」に含まれないものとされている。これは,譲渡所得課税が「資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のもの」*1とされていることに起因する。金銭は価値が増減しないため,値上がり益(キャピタル・ゲイン)が発生せず,したがってこれを清算する趣旨である譲渡所得も発生しない,ということである*2
この論理を裏から述べるならば,金銭であっても値上がり益が生じうるものであれば,その譲渡からは譲渡所得が生じうる。したがって,金銭的価値以外の価値がある金銭,例えば古銭等の収集用の金銭の譲渡からは譲渡所得が生じるものと解される。
この事案でも,上記サービスにおいて金銭の出品が可能となっている理由としては,収集用の金銭との区別が困難であることが挙げられている。したがって,当該金銭は原則とは異なる取扱いをされる可能性がある。実際に譲渡益が生じているという事情も,このような議論を支持するであろう。

譲渡所得が発生するとされた場合,次に検討すべきは非課税所得(所税9条)への該当性である。
まず検討すべきは,生活に通常必要な動産の譲渡(所税9条1項9号,所税令25条)への該当性であろう。納税者やその親族が有する資産のうち生活に通常必要な動産については,その譲渡により譲渡益が生じても,その譲渡益は原則として非課税所得に該当するものとされている。
金銭の動産該当性については,問題なく該当するものであろう*3。次に,金銭が「生活に通常必要」であるかが問題となる。例えば,この規定への該当性が争われたサラリーマン・マイカー税金訴訟第一審判決においては*4,サラリーマンが有する自動車は「日常生活に必要なものとして密接に関連しているので、生活に通常必要な動産…に該当するものと解するのが相当である」と判示されている。上記サービスで出品されている金銭も同様に日常生活に必要なものとして密接に関連しており*5,同様な論理で生活に通常必要な動産と言うことができよう。
したがって,上記サービスにおける現金の譲渡によって譲渡所得が発生すると解したとしても,それは非課税所得に該当し,所得税は課されないものと考えられる。

以上のように,上記サービスによる現金の譲渡には(仮に譲渡所得が発生するとしても)所得税は課されないものと考えられる。
以下,何点か補足する。
・上記togetterで述べられるとおり,現金の出品をしている理由が生活の困窮にある場合には,資力喪失者が得る譲渡所得の非課税規定(所税9条1項10号,所税令26条)の適用もありうる。
・当該譲渡が適法か否かは,所得税の課税には関係しない*6
・消費税の課税についても,古銭と同じく,上記サービスによる資産の譲渡は課税対象ともなりうる。しかし,上記サービスを利用しているのは多くが事業者ではなく消費者であろうから,「事業として対価を得て行われる」ものではないため資産の譲渡等に該当せず(消税2条1項8号),課税対象外と解すべきであろう(消税4条1項)。

*1:榎本家事件上告審判決(最判昭和43年10月31日集民92号797頁)。

*2:三木義一編著『よくわかる税法入門[第11版]』(ゆうひかく選書,2017年)129頁[伊川正樹執筆部分]参照。

*3:民法上,動産は不動産以外のすべての物とされている(民法86条2項)。

*4:神戸地判昭和61年9月24日判時1213号34頁。なお,同控訴審判決(大阪高判昭和63年9月27日高民集41巻3号117頁)も参照。

*5:なお,収集用の金銭はこれに該当しないものと考えられる。

*6:制限超過利息事件上告審判決(最判昭和46年11月9日民集25巻8号1120頁)参照。

研究会発表,楽しいかも。

昨日は,日本税法学会関東地区研究会で発表の機会をいただきました。
テーマは,「貸与型奨学金と債務免除益課税」というものです。ここ半年ほど取り組んできたテーマでした。いずれ,何らかの形で雑誌等の媒体に論文として発表したいと考えています。
質問やご意見を下さった先生方,本当にありがとうございました。

内容はまだ秘密というか,ご指摘をいただいてもっと練らなければならない点が多いので何も書けないのですが,研究会発表って楽しいなと感じたことを記しておきたいと思います。
研究会で発表の機会をいただくのはこれが初めてではなくて,昨年10月に同じ日本税法学会関東地区研究会で発表しております。ただ,この時は何分初めてでしたので,楽しむ余裕も無く,先生方の優しい質問に背を向けてただひたすらに原稿にしがみついていたように記憶しています。
一方,今回は(もちろんとてもとても緊張していたのですが)外部で研究成果を発表する醍醐味を味合わせていただいたように思います。自分が切り開いた研究をたたき台に一流の先生方がそこから論ずべき点を拾い上げて(もちろん数段も数十段も上のレベルではありますが)議論をしてくださいました。自分の未熟さを思い知る一方で,知的な刺激をたくさんいただきました。ありがとうございました。

少し短いですが,こんなところで。
今後とも,しっかりと研究した上で,積極的に研究内容を発信していきたいと思います。口頭でもそうですし,このブログでも。

ご卒業おめでとうございます!

昨日は,2年間TA(Teaching Assistant)を勤めたゼミ(木山ゼミ)の卒業祝いでした。

以下のように色紙や花束をいただいて,本来こちらがお祝いする側なのに,感謝の気持ちをたくさんいただいてしまいました。ありがとうございました。僕自身も来年からはゼミのTAには携わらない予定なので,一つの区切りとなりました。


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木山ゼミは,大学教員に憧れるきっかけを作ってくれたゼミでした。

TAになったのは2年前の4月,木山先生が青学に赴任されたタイミングでした。お互い知り合いの人が多いとは言えない中,木山先生に導かれてゼミがどんどんまとまっていって,各々もたくましくなって,自分たちで積極的に色々なこと(授業での発表やディベート)に取り組んで行く姿は,とても感動的でした。特に,全員一丸となって取り組んだディベート大会は,大変なことも多かったですが得るものも非常に大きかったように思います。

正直,大学院に来る前は,学部教育ってなんなんだろうという疑問が自分の中にありました。社会で役立つスキルを身に着けるだけならば専門学校で良い訳です。あるいは,大学院での研究の基礎を作る場なのならば,もっと大学院への進学率は高くなって良いと思います。

その答えは,片方(教わった立場)から言えば,自分で示していくしかないのだろうと思います。私は学部時代は全く別の分野(ドイツ哲学)の勉強をしていました。その経験が他分野(税法学)の研究でどう活きるのか,それは自分で探求していきたいと思っています。一方で,教える立場から言えば,学部教育の意義は確実にあるのだと,木山ゼミを微力ながらお手伝いする中で確かな実感を得ることができました。

 

いつか,今回卒業された皆さんとまた飲む機会があらんことを祈っています。その時には,木山ゼミみたいなゼミを自分で教えられていたら良いなぁ。

そんな時を迎えられるために,今は研究を頑張ります。