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税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。概ね1回/月の更新を目標としています。

日本税法学会大会&アコード租税総合研究所判例研究会

 先週末から昨日にかけて研究に関するイベントが続いたので,ブログに書いておきたいと思います。

1.日本税法学会大会
 6/8(土)および9(日)に,日本税法学会第109回大会が東京の明治学院大学白金キャンパスにて行われました。

 会場を提供くださり,また運営にご尽力くださった明治学院大学の西山由美先生および学生の皆さま,誠にありがとうございました。
 昨年の大会については,下記記事を参照。

taxfujima.hatenablog.com

 今回の大会は,「近時の租税手続をめぐる法的諸問題」を統一論題として,3件の基調報告が行われました。
 まず,税理士の菅納敏恭先生が,「調査手続の法的整備と残された課題」と題し,税務調査手続について議論されました。平成23年の国税通則法等の改正(平成23年法律第114号)により調査手続に関して法的な統制が及ぼされたものの,その統制をいわばすり抜けるような「簡易の接触」が広く行われていることや,課税庁が入手した情報の利用(加工・分析など)については法的統制が未だ及んでおらず,プライバシー権の一種である「情報のコントロール権」から問題がある点を論じられていました。
 次に,専修大学の増田英敏先生が,「国税通則法の改正と更正の理由附記」と題し,更正処分の理由附記について議論されました。平成23年改正によって更正処分にはどのような場合であっても(白色申告者に対するものであっても)理由を附記または提示しなければならないとされたのですが,処分対象者(青色申告者か白色申告者か)や更正の内容(法の解釈適用の問題か,事実認定の問題か)などに応じてその求められる内容に差異があるものと解すべきか,租税法律主義の原則や青色申告制度の立法趣旨,判例理論などに立ち返って議論されていました。
 最後に,和歌山大学の片山直子先生が,「源泉徴収義務をめぐる近時の法的諸問題と題し,源泉徴収義務をめぐる様々な問題点につき報告されました。このブログでも何度か取り上げた,債務免除益の給与所得該当性が争われた倉敷青果荷受組合事件や*1,住友不動産事件*2などを取り上げたうえで,近時の税制改正に伴って源泉徴収義務の算定課程が複雑化しており,その誤りをどのように是正すべきか,という点を議論されていました。
 以上の報告が1日目(6/8)に行われた後,2日目(6/9)にはこれらの報告について白熱した質疑応答が行われました。拙い質問ではありましたが,私も片山先生に所得税法44条の2の給与所得への適用の有無について質問いたしました。

 基調報告のほか,例年通り,2つの個別報告が行われました。
 まず,1日目に,専修大学の山本直毅先生が,「米国所得課税における課税所得の認識の法的統制」と題した報告をされました。題名の通り,税法学の原稿の段階では米国法における所得の実現の意義を専ら議論されていたのですが*3,税法学会では,日本法との接合を意識した報告をされていました。
 次に,2日目には,大和大学の片上孝洋先生が,「憲法84条の『租税』と国民健康保険料」と題した報告をされました。この問題については,有名な旭川国民健康保険料事件がありますが*4,租税法律主義の持つ意味や国民健康保険制度の現状について論じ,国民健康保険料は憲法84条にいう「租税」に該当すると理解することができると論じていました。

2.アコード租税総合研究所判例研究会
 昨日(6/10),アコード租税総合研究所判例研究会にて報告の機会をいただきました*5。私のような未熟者に大変名誉な機会を与えていただき,誠にありがとうございました。
 事案としては,東京地判平成30年4月19日裁判所ウェブサイトを取り上げました*6。債務免除益の所得分類が争われた判決です。
 この判決は,様々な切り口が可能な判決です。個人的には,債務免除益の課税理論と所得分類の判断方法の関係性について述べた部分が面白いと思っています。ただ,当該判示については別稿を予定しているので,今回は,不動産所得と一時所得の要件(所得税法26条,34条)について述べた部分について専ら論じました。判決の規範を完全に肯定することはできないこと,ただし,結論を左右するほどの疑問ではないことを論じました*7
 当該研究会には,研究会自体の座長である弁護士の山田二郎先生や,アコード租税総合研究所所長であり中央大学商学部教授の酒井克彦先生が参加してくださいました。お2人をはじめとする参加者の皆さまから様々な点についてご教示いただき,大変勉強になりました。お足元が悪い中,拙い報告をお聴きくださり,誠にありがとうございました。

 大学院を修了し,教育活動にも従事することになりましたが,研究も細々と続けています。上記の2つの機会を通して,研究活動に関する関心ややる気を惹起していただいたような気がします。今後とも,研鑽を積んで参りたいと存じます。

*1:最判平成27年10月8日集民251号1頁,最判平成30年9月25日民集72巻4号317頁。最判平成30年9月25日を傍聴した際のブログ記事として,こちらを参照。

*2:東京高判平成28年12月1日税資266号順号12942。当該判決に関する木山先生の報告を聴いた際のブログ記事として,こちらを参照。

*3:税法学会の報告は,事前に論文が税法学という学会誌に掲載された後,その内容に沿って行われます。今回は,税法学581号に掲載された原稿について報告が行われました。

*4:最判平成18年3月1日民集60巻2号587頁。

*5:4月の研究会にも聴衆として参加しました。こちらのブログ記事を参照。

*6:リンクから見るとわかりますが,なぜか東京高裁の判決として裁判所のウェブサイトには登録されています。間違いなく東京地裁(民事第2部)の判決なので,ウェブサイトが誤っています。

*7:なお,別稿において論じる判示に対する当てはめへの疑問を理由に,最終的な結論には反対です。納税者の請求を全部認容すべきであったと考えています。あくまで,今回取り上げた所得分類の要件論についての判示には結論を左右する程度には反対しない,ということです。

日本学生支援機構の学資貸与金の返済額の所得控除について

 この記事は,下記の記事を読み,これに対する共感を表明するとともに,税法学の研究者として,1つの提案をするものである。

nipo.hateblo.jp

 私は,昨年度(2019年3月)まで,博士(後期)課程の大学院生だった。
 博士課程在学中,私は,日本学術振興会特別研究員(DC1)(以下,この制度を「学振」という)に採用されていた。学振は,博士課程在学者を中心に,給与(研究奨励金)を支給するともに,科学研究費(特別研究員奨励費)を交付する制度である。私が採用されていたDC1では,月額20万円の給与(源泉徴収税額控除前)をもらえる。
 研究費に加えて月額20万円の給与がもらえて,私は概ね満足していた。4年目が仮にある場合でも,学費を払って余裕がある程度の貯金はできた。ただし,これはたぶん,私が実家暮らしで,結婚をしておらず,物欲も乏しい人間だったからだろう,とも思っている。一人暮らしを都内でしていたら,おそらく貯金はできなかっただろう。子供がいたりしたら,とても首は回らなかっただろうし,車を買いたいと思ってもたぶん買えなかったと思う(買ってないからわからないけれど)。
 そして,仮に学振に採用されていなかったらどうなっていたのだろう,と思うと,もはや良くわからない。両親に頼っていたのだろうけれど,ちゃんと3年間の博士課程を全うできていただろうか。正直自信は無い。
 以上のような事情により,上記の記事の問題関心には共感を覚える。大学院生の生活苦の問題は,もっと大きく取り上げられて良いと思う。少し法学者らしい物言いをすれば,経済的自由権の問題だけにとどまらず,学問の自由(憲法23条)などの精神的自由権や,生存権(憲法25条)などの社会権にも関わる,大きな問題だろう。
(なお,学振は近年かなり制度が改善されてきている。研究費の受給や,研究に関連する副業の時間制限など。したがって,行政側も頑張っていると言えるだろうし,大学院生の側で声をあける実益もあると思う。)

 上記記事では,このような問題の解決策の一つとして,日本学生支援機構の(貸与型)奨学金の返済額の所得控除を挙げている。そして,これを正当化するロジックは無いか,政治家から聞かれた旨記述されている。
 私は,貸与型奨学金の課税上の取扱いについて多少の考えを持っているものとして*1,日本学生支援機構の貸与型奨学金(学資貸与金)の返済額の所得控除は,肯定しうる,と考える。理由は単純で,給付型奨学金(学資給付金)の課税上の取扱いと不均衡であるように思われるからである。
 従来,日本には,給付型の(返済を求められない)奨学金は,国家が関わる制度としては存在していなかった。貸与型の(卒業後に返済を求められる)奨学金しかなかった,ということである。しかし,平成29年の法改正により,平成30年より,日本学生支援機構主催の給付型奨学金(学資給付金)制度が始まっている。
 給付型奨学金をもらっても,原則として税金はかからない。理由は,所得税法上,「学資に充てるため給付される金品」には所得税を課さない,と定められているからである(所得税法9条1項15号)。例外はあるのだけれど(実質的には給与と見られる場合など),日本学生支援機構のものはおそらく例外には該当せず所得税は課されないだろう。
 そうだとすると,貸与型奨学金の返済額を所得控除の対象にしないと,不公平が生じうる。まず,給付型奨学金をもらった場合,明らかにその額分所得を得ている(儲かっている)わけだけれど,その所得には上記のとおり所得税は課されない。一方,貸与型奨学金を返済した場合,もらったお金を返したのだから所得を得ていない(儲かっていない)わけだけれど,これについても所得税はかからないし逆に税額が減ることもない。この状況は,違った経済的状況にある者を同じように取り扱っており,法の下の平等(憲法14条)から要請される,「同じ状況にある者は同じように,違う状況にある者は違うように取り扱うべきだ」という考え方(租税公平主義)に反する結果だ,と論じうるだろう。
 奨学金を抜きにした,一般的な状況とも対比してみよう。個人がお金をもらった場合,その所得には原則として税金がかかる。個人からもらった場合は贈与税が,法人(会社など)からもらった場合は所得税が課される。一方,お金を借りた場合には税金がかからない。これは,そのお金は将来返さなくてはならないのだから,その額は所得(儲け)とは言えないからだ,と一般的には説明される。そして,返済額についても,控除が原則としてできない。過去に税金がかかっていないお金を返しただけだからである*2。したがって,奨学金を抜きにした場面では,お金をもらった(贈与された)場合と,借りたお金を返した場面は違うように取り扱われているのである。

 1つの解決策としては,一般的な場合と同じように,給付型奨学金についても課税を行うことがありうるだろう。つまり,所得税法9条1項15号を廃止する,ということである。こうすれば,奨学金で儲かったら課税して,儲からなかった(返済した)ら課税しない,という,比較的すっきりとした話になる。
 ただ,この解決策は理解を得難いだろう。私も反対である。給付と徴税で明らかな二度手間だ。経済的理由で進学できない学生を支援する,という制度趣旨にも反すると思う。
 だったら,公平な結論を得るためには,貸与型奨学金の返済額を所得控除の対象とするべきなのではないだろうか。単純にお金をもらっただけの者と,借りたお金を返した者は,経済的なポジションが明らかに異なる。両者は違うように扱わなければならないのではないだろうか。

 以下は補足。
・私は,幸いながら日本学生支援機構から奨学金を借りていない。したがって,利害関係に基づく言論ではない。
・給付型奨学金は学費に使ってるから課税されなくて普通なんじゃないの,という反論もありうる。ただ,貸与型奨学金も同様だろう。反論にはならないと思う。
・給付型奨学金の受給者は貸与型奨学金のそれに比して経済的に恵まれていない家庭のことが多いんじゃないか,という反論もありうる。この反論への強い再反論は持ち合わせていないが,日本の所得税は原則として個人単位課税であることが,一応の再反論にはなりうるかな,とは思う。
・スマホで急いで書いたので,後日(5/27(月)以降)たぶん追記します。
→追記するつもりでしたが,断念しました。垂直的公平を重視するならば,所得控除よりも税額控除の方が望ましいものと思われます,という旨のみ付け足したいと思います(2019/6/25)。

*1:拙稿「貸与型奨学金と債務免除益課税」青山ローフォーラム6巻2号153頁参照。

*2:正確な説明については,増井良啓「債務免除益をめぐる所得税法上のいくつかの解釈問題」ジュリスト1315号(2006年)196頁参照。

『全ビジネスパーソンのための 分かりやすい「法人税法」の教科書』をご恵贈いただきました。

 青山学院大学法学部の木山泰嗣先生より,『全ビジネスパーソンのための 分かりやすい「法人税法」の教科書』をご恵贈いただきました。

www.kobunsha.com

 同社から新書として出版されている,『弁護士が教える 分かりやすい「所得税法」の授業』の続編になります。

 この本は,タイトルに「全ビジネスパーソンのための」とあるとおり,会社員の方をはじめ,学生や専門家など,様々な読者を想定して書かれた法人税法の教科書になります。
 最新の改正*1や議論*2をフォローしつつ,初学者にもわかりやすく,「『法律』としての『法人税法』の基本をとらえる」(3頁)ような教科書になっています。法人税法の教科書として特徴的な点としては,公正処理基準(法人税法22条4項)に関する部分(同書102~127頁)で会計学や会社法の議論についても詳細に紹介している点や,実際の決算書や申告書の画像を用いている点(同書146~147,199頁)が挙げられるかと思います。判決文については一段下げて文字の大きさを変えたり,図も数多く入っていて,ビジュアルとしてもとても読みやすい書籍といえるかと思います。
 この書籍については,(前著から7年経って出された本であることからも明らかかもしれませんが)何度か校正を行ったうえで出版されたもののようです。私も,2年前に一度読ませていただき,コメントをしました*3
 この書籍を読みながら,法人税法について,今一度知識を整理したいと思います。

*1:例えば,平成30年度税制改正による法人税法22条の2の創設(同書128~132頁)など。

*2:例えば,いわゆる残波事件(東京地判平成28年4月28日税資266号順号12849)を前提とした過大役員給与の否認(法人税法34条2項)の解釈論(同書242~248頁)など。

*3:あとがきで触れてくださっています(同書399頁)。

20,000アクセスを突破しました&武富士事件の事案の概要スライド&講義のこと。

 このブログが20,000アクセスを突破しました。お読みくださっている皆さま,ありがとうございます。
 始めてから3年弱,不定期かつ頻度もまちまちなブログではありますが,自分の積み重ねを時々ここに書くのが楽しいな,と感じています。ここに書けることが増えるよう,研究を頑張っていきたいと思います。今後とも温かく見守ってくださいますと幸いです。

 20,000アクセスのお礼というわけではないのですが,今日の講義で武富士事件上告審判決を扱い,事案の概要についてスライドを作成したので,置いておきます。ぜひご活用ください。

drive.google.com



 見ればわかりますが,インターネット上のスライドのテンプレートにいらすとやのイラストを貼り付けただけのものですので*1,権利を主張するつもりはありません。自由に使っていただいて構いませんし,改変をしていただいても構いません。ただし,もし時間の余裕があれば,このブログにあるものを参考にした旨書いていただけると嬉しいです。逆に,このスライドに誤りがあったとしても,それについて私は責任を負いません(間違ってたら自分で直してください)。
 主に税法に関心が無い学部生向けに作ったので,かなり噛み砕いて作ってあります。租税回避の定義とか。

 スライドを貼ったので,講義のことも書いておきます。
 この4月から,青山学院大学に法学部非常勤助手として勤務する傍ら,同大学で非常勤講師もしています。前期は,相模原キャンパス(主に理系の学生が通うキャンパス)で開講されている教養科目(青山スタンダード科目)の「法学(日本国憲法を含む)」を担当しています。講義内容については一任されたので,最初は税法メインでやっちゃおうかなとも思ったのですが(租税法律主義は一応憲法の話ですし),あまり学生のためにならないな,と感じ,法学入門と憲法を総ざらいするような感じの内容でやっています*2
 私は法学部出身ではなく,法学入門や憲法の講義も恥ずかしながら受講したことがないので,手探りで講義をしています。ただ,自分が知らなかった分野である分,学ぶことが多くて楽しいです。また,税法や大学院で少し勉強したアメリカ憲法の知識を前提に法学入門や憲法学を見ることができて,たぶん初学者よりも面白く知識を得ることができていると思います。
 今日は,法学入門の総仕上げとして,実際の判決文を読んでみよう,という講義を行いました。その際,上記のスライドを基に事案の概要を整理した後(多少判決文で補いました),武富士事件上告審判決の判示について分析しました。
 やってみて感じたのは,やっぱり税法の議論は楽しいな,ということです。もちろん,法学入門や憲法も興味深く学んで教えられているのですが,やっぱり税法を教える際には熱が入るというか,借りてきた言葉ではなくて自分の言葉で話すことができるな,と感じました。
 いつか,税法を専門的に教えられる立場になってみたいです。そのために,自分の研究を頑張っていきたいと思います。

*1:私はいらすとや信者です。

*2:後期は,民法と行政法と税法をやる予定です。

アコード租税総合研究所判例研究会

 一昨日(4/24),アコード租税総合研究所判例研究会に参加しました。以前,弊学の木山泰嗣先生が報告された際に参加して以来の参加でした。木山先生が報告された際のブログ記事は,下記を参照。

taxfujima.hatenablog.com

 今回の研究会では,弁護士の石井亮先生(和田倉門法律事務所)が,最判平成30年9月25日について報告されました。
 私が以前最高裁判所に傍聴に行った判例です。傍聴の際のブログ記事は,下記を参照。

taxfujima.hatenablog.com

 当該判決は,税負担の錯誤によって私法上の法律行為が無効になった際に,それによって課税関係が変動を受けるのか,という点が問題になったものです。
 石井先生は,このような問題について,源泉所得税の場面において(下級審も含めて)判示された初めての判例として当該判決を整理したうえで,当該判決の意義やこの判決を実務上どのように活かすのかという点について議論されていました。
 なかなか捉え方が難しい,書こうと思えばいくらでも長く書けそうな問題なのですが,判決文はかなり短いです。言っていることそれ自体は簡潔なのですが,裏に色々なこと*1が隠されていそうな判決だ,ということが,研究会の議論を通して明らかになったように思います。実際,言っていることはわかるのですが,その根拠も含めて理解しきるのは何だか難しい判決,と言えるかと思います。

 傍聴の際の記事にも書きましたが,個人的にも思い入れのある判決なので,今後とも考えていきたい判決です。その手がかりを多く得られる,とても有益な機会でした。石井先生,ありがとうございました。
 なお,当該判例研究会において,私も6月に報告を予定しています。まだあまり準備できていないのですが,頑張らないといけないな,と思いました。

*1:研究会の議論においては,例えば,最初の上告審判決(最判平成27年10月8日)の差戻理由で示唆されている通達の適用の可否などが挙げられました。