昨日,母校である青山学院大学大学院法学研究科税法専攻*1のディベート大会がありました。私は,審査員およびディベーターとして関わりましたので,関わった部分について,記録を残しておきたいと思います。
昨年度の記事は,下記参照。
まず,第2試合,学部木山ゼミ v. 大学院M1の試合の審査員をしました。
多くの場合,特定の裁判例を素材としてディベートは行われます。この試合では、金地金の保管契約と譲渡所得課税の有無が争われた判決*2が素材となりました。
この判決は短めの判決ではあるのですが,なかなか奥深い判決でした。当該事件では,「資産の譲渡」(所得税法33条1項)があったかどうかが争われたのですが,所得分類の問題というよりも,所得がそもそも生じたかどうかという本来ならば所得税法36条や7条の解釈論として議論されそうな点が議論されていました。この議論の背景には,実現と所得概念という所得課税の本質的な問題があるように思いました。実際,原審*3と判断が分かれているあたり(原審は納税者敗訴,控訴審は納税者勝訴でした),かなり微妙な事案であったとも思います。
そんな魅力的な素材でしたが,実際のディベートにおいても,両チームともにしっかりとしたストーリーのある議論をして,素材の魅力を十二分に引き出せていたように思いました。大変勉強になりました,ありがとうございました。
その後,第4試合において,院生OBチームの一員として,大学院M2チームと対戦しました。
事案は,有名なデンソー事件*4でした。CFC税制(タックスヘイブン対策税制,外国子会社合算税制。租税特別措置法66条の6)の適用除外要件充足の有無が争われた判決です。
デンソー事件は,昨年,後輩の研究との関連で勉強したのですが,(判決が出たばかりで評釈があまりなかったこともあり)なかなか良くわからない判決だな,という印象を持っていました。ただ,今回ディベートをするにあたってOBの皆さまと一緒に勉強をして,うっすらながら何が言いたかった判決なのか理解できたような気がしました。おそらく,株式の保有や地域統括業務がどうこうよりも(この点は原審の判断を否定することで十分だということなのかもしれませんが),「主たる」の判断方法に力点のある判決なのだろう,と思いました。
実際のディベートは,反省点も残るものになりました。M2の方々がしっかりと事実関係を踏まえた議論をしてきたのに対し,OB側はどちらかといえば解釈論をメインに据えた議論をしたので,議論が噛み合わない場面もあったように思いました。ただ,規定も事実関係もそこそこ込み入っている事案について,しっかり整理したうえで一貫した議論をお互いに定立できたことは,それだけで価値があることだったと思います。実際,(準備を含めた)ディベート大会への取り組みを通して、デンソー事件についての理解はチーム全体で深まったように感じました。
CFC税制の適用除外要件における主たる事業の判定については,最近も訴訟が提起されるなど*5,デンソー事件最判を前提として,まだまだ議論がされていく領域なのだろうと思います。今回のディベートで培った理解を活かして,注視していきたいと思います。
ディベートという営みに,私は愛着を持っています。以前書きましたが,博士後期課程へと進学するきっかけになったのはまさに5年前の院生ディベート大会でしたし,その後も様々な形で関わってきました。事案について理解が深まったり,法的思考を実践できたり,一緒にディベートをした仲間と仲良くなったり,(大変なこともありますが)色々なメリットがある営みだと思います。今後とも,何らかの形で税法のディベートに関わっていけたらな,と思っています。