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税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。概ね1回/月の更新を目標としています。

『債務免除益の課税理論』が刊行されました。

 12/9に,初めての単著である『債務免除益の課税理論』が刊行されました。

www.keisoshobo.co.jp

 ネットでの販売は始まっているようです。書店には来週以降並ぶものと思います。

 この書籍は,私が2019年3月に青山学院大学大学院法学研究科に提出した同名の博士学位申請論文を書籍の形にしたものです。
 書籍の内容については,Twitterにて下記のように呟いたとおりです*1

「第1章は,債務免除益の課税理論についてどのような考え方をすべきか,事業再生税制(所得税法44条の2)を素材に考えた部分です。青山ビジローレビューに掲載した修士論文がもとになっていますが,3年間の研究を経たうえで,少しだけ論旨を修正したほか,記述も直しています。
 第2章は,自説の根拠づけをした部分です。青山社会科学紀要に載せたTax Benefit Ruleについての論文と債務免除益課税を繋げています。
 第2章までで構築した考え方にもとづき,第3章以降では具体的な課税問題を論じています。第3章は,納税協会連合会に許可をいただいて「税に関する論文」の受賞論文を転載したものですが,補論でその後の議論や法改正(法人税法22条の2の制定)をフォローしています。
 第4章は,最近訴訟で争われることも多い論点です。訴訟を素材に検討して,債務免除益の所得分類の判断にあたりどのような事実関係を考慮すべきか論じています。
 第5章は,事業再生税制や企業再生税制(法人税法59条など)の立法論を論じた部分です。租税理論研究叢書の論文を膨らませたものですが(租税理論学会の許可をいただいています,ありがとうございます),米国の事業再生税制(内国歳入法典§§108,1017)についても見ています。
 こんな感じで,初出は色々あるのですが,一つの流れにまとまっていますし,加筆修正をほどこした箇所も(第3章以外は)多いので,ぜひお手にとっていただけますと大変嬉しく思います。未熟者なりに,規定の背後にある抽象的な議論をしつつ,実務的な問題についても目を配りながらまとめた本になります。」

 以上のように,第Ⅰ部(~第2章)で抽象的な理論を組み立てたのち,第Ⅱ部(第3章~)で具体的な問題を考察している書籍になります。
 上記の第4章の内容のところで書きましたが,債務免除益課税は,近時,裁判例で争われることも多い分野です。2回の最高裁判決が出たいわゆる倉敷青果荷受組合事件や*2,ノンリコース債務免除益の所得分類が争われた事案が挙げられるところかと思います*3。実務上も問題になることがそれなりにある領域だろうと思います。ぜひご笑覧を賜れますと幸いです。
 書籍の内容の評価については,私自身がすべきものではないと思います。ただ,この書籍の内容自体に価値があれば嬉しいですが,それ以上に,この本を契機に債務免除益課税に関して日本でもっと盛んに議論されるようになればより嬉しく思います。

 執筆にあたり,恩師である三木義一先生をはじめ様々な先生方にお世話になったのは言うまでもないのですが,刊行にあたっても,謝辞に記載したとおり,様々な方にお世話になりました。
 まず申し上げなければならないのは,今回の出版が可能となったのは公益財団法人租税資料館からの出版助成を受けたことによる,ということです。助成をいただき,ありがとうございました。租税資料館には,大学院入試のために初めてうかがい,その後も何度も資料収集のためにお邪魔しています。そんないつもお世話になっている団体から助成をいただくことができ,大変光栄でした*4
 また,出版社である勁草書房,特に担当編集者である竹田康夫さんからも,多大なるご支援をいただきました。このような未熟者の書いたものの出版を引き受けてくださったことや,助成を得るために様々にご協力くださったことなど,感謝してもしきれません。さらに,出版が決まった後は,校正において非常に細かい点までチェックしてご意見をいただき,大変勉強になりました。議論の内容は当然ながら私個人によるものですが,形式や体裁につき見るべきものがあるならば,それは竹田さんのご尽力によるものが非常に大きいと思います。ありがとうございました。

 初めての単著であることや,修士論文の執筆から数えれば5年以上手掛けていることもあり,とても思い入れがある書籍です。まだまだ書きたいことはたくさんあるのですが,きりがないので,このあたりで終わりにしたいと思います。繰返しになりますが,ぜひご笑覧いただき,ご指導ご鞭撻を賜れますと幸いです。

(12/14追記)
 所属している日本租税理論学会のウェブサイトにてご紹介いただいていました。ありがとうございます。

http://j-ast.sakura.ne.jp/wp/1341-2/j-ast.sakura.ne.jp

(2021/11/30追記)
 その後,この書籍について,金子宏先生の『租税法』に引用していただいたほか,租税資料館賞も受賞しました。

taxfujima.hatenablog.com

taxfujima.hatenablog.com

 また,2021年学界回顧でも取り上げていただいていました*5。いずれについても感謝申し上げます。ありがとうございます。

*1:こちらのアカウントの,11/19の一連の呟きと同じ内容です。

*2:最判平成27年10月8日集民251号1頁最判平成30年9月30日民集72巻4号317頁

*3:東京高判平成28年2月17日税資266号順号12800

*4:なお,租税資料館は,三木先生の古稀論文集である『現代税法と納税者の権利』(法律文化社)にも助成をしてくださっています。同書についてはこちらの記事も参照。恩師の古稀記念論文集と同じ年に同じ団体から助成を受けて出版をすることができたことも光栄でした。

*5:神山弘行「特集・学界回顧2021 租税法」法律時報93巻13号(2021年)38頁参照。