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What Do We Pay for Civilized Society?

税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。

地方税についての詐害行為取消権の行使の可否(名古屋地岡崎支判H27.2.16,名古屋高判H28.4.27)

判例研究的な記事も書いていきたいと思っています。
もっとも,Blogに書くのは恐らく自分の手には余る裁判例ばかりです。しっかりとした研究というより,少しラフな形になろうかと思います。ご容赦いただけたらと思います。

名古屋地岡崎支判平成27年2月16日(未公刊,LEX/DB文献番号2554313132),名古屋高判平成28年4月27日(未公刊,LEX/DB文献番号25543133)

1.事案について
(1)概要
 本件は,Y(被告・控訴人)に対して地方税法上の租税債権を有するX(原告・被控訴人)が,Yの行った送金をいずれも詐害行為(民法424条,地方税法20条の7)であるとして,Yおよび送金を受けた者(C・D)に対し,法律行為(YおよびCについては贈与,YおよびDについては債務の弁済)の取消しを求めた事案である。

(2)時系列
・平成18年
10月,Yが訴外Aに簿外の不動産を売却。売却益(30億円弱)について益金に算入せずに法人税の申告。
12月,Yが事実上倒産。
・平成20年
12月,Yの債務整理手続開始。Yから代表者Cに対する送金を2年間行う(計3,100万円強)。また,Yから元取締役で当時従業員のD(Cの婿)に対して送金(4,000万円)。
平成23年
1月,売却益の申告漏れにつき,所轄税務署長が法人税の更正処分。
4月,上記法人税の更正処分に基づき,所轄県税事務所長が法人事業税等の更正処分。

2.争点
 YがCおよびDに対して行った送金が,租税債権者に対する詐害行為として取消しの対象となるか。その前提として,送金が行われた時点で,地方税の租税債権が発生していたか。

3.裁判所の判断
(1)第一審 請求認容(納税者敗訴)
 「租税債権は,法律の規定する課税要件事実の存在によって当然に発生するものであり,課税処分は,単にその税額を具体的に明確にするものにすぎないと解すべきである…本件租税債権のうち,平成19年8月期の法人県民税,法人事業税,法人事業税重加算金については,既に発生していたことが認められる」。
 Cは,自らの受けた送金につき,私的整理手続の一環として,Yの債務をCが弁済するために行った負担付贈与行為であり,Yの債務整理手続の一環として債権者に不利益をもたらすための詐害行為ではないと主張した。しかし,当該行為は負担付贈与ではなく「無償譲渡であり贈与というべきであって,Yの積極財産を減少させる行為といえる。」また,「任意整理の一環として行われた債務者の財産を減少させる行為が詐害性を有しないとして許容されるのは,総債権者の同意のもとに,公平かつ公正な任意整理が行われたような例外的な場合に限られる」。これを本件について見るに,「Yの任意整理が,総債権者の同意のもとに,公平かつ公正な任意整理が行われていたとは到底いえず,Cの上記主張は採用することができない」。したがって,Cに行われた「本件贈与は,詐害行為として取消しの対象となる」。
 Dは,Yが破綻状態にあったことは認識しておらず,自らの受けた送金はYに対して有する債務の弁済であると認識しており,詐害行為を行う意思はなかったと主張した。しかし,本件における事実関係を見れば,Dに対してのみ債務の弁済をする必要性はない。Dに対する債務の弁済はDを通してその妻(=Cの娘)に対して資金を移転する目的で行われたものである。従って,Dに対して行われた「本件弁済は,…詐害性を有する行為といえる」。
 したがって,YからCおよびDへの送金はいずれも詐害行為である,として,Xの請求を認容した。

(2)控訴審 原判決取消し,請求棄却(納税者勝訴)
 租税債権の存否については,原判決を引用し判断を維持したが,「そもそも本件国税更正処分が正当なものであったか否かは,後記の通り疑問があ」るとして一定の留保を加えた。
 CまたはDが受けた送金が詐害行為に該当するためには,送金当時においてYに対する租税債権の発生(資産の売却益およびそれに基づく課税所得の発生)をCまたはDが認識していたことが前提となる。Aに対する資産の売却の代金は,「YがAに対して負担していた買掛金の債権と相殺することにより支払うものとされていた」。同時に,YがAに対して有する売掛金等の債権も減少しているが,これは「弁済による減少ではなく,実質的な貸倒処理がされたものと認められる」。このことは,Yの貸借対照表からも明らかである。つまり,Yの平成19年8月期の法人税の申告は「実質的な債務免除益(法形式に合致させると,資産売却益)と実施的な貸倒損失とを含むもの」である。
 しかし,本件国税更正処分においては,Yの負う買掛金の額が増額されており,相殺は無かったものとしている。そうすると,資産の売却金については未収金等の形で計上されねばならないが,それもされていない。したがって,本件の「国税更正処分は,既に実質的に債務免除益として計上されているものについて,資産売却益として重複して計上している点で,処分の内容それ自体に全体として整合性があるのか相当な疑問がある上,取引の実態を無視した不当な処分であったといわざるを得ない」。Yにおいて資産の売却益が発生しないことは「取引の実態を反映した整合的な経理処理に基づくものであったと認められる」。したがって,「Cとしては,適正な申告を行ったとの認識を有していたと認められ,平成19年8月期国税更正処分がされることを予見することは不可能であったといわざるを得ない」。Dも同様に,租税債権の存在を認識していたとはいえない。
 したがって,YからCおよびDへの送金はいずれも詐害行為に該当しない,として,Xの請求を棄却した。

4.検討
(1)概要
 地方税についての詐害行為取消権の行使の是非が争われた事案である。
 租税法律主義(憲法30条・84条)の下,国等の租税債権者は,法律の認める範囲でのみ債権者としての権利を行使することができる。債権者代位権民法423条)および詐害行為取消権(民法424条)については,国税通則法42条および地方税法20条の7により,租税債権についても行使可能となっている。
 租税債権についての詐害行為取消権については,第二次納税義務制度(国税徴収法32条ないし41条,地方税法11条ないし11条の9)との異同がしばしば問題となる*1。本件においては,Dに対する送金が(第二次納税義務の規定の適用対象となる行為ではない)債務の弁済であったために,詐害行為取消権の行使という手段が取られたものと思われる。
 詐害行為とは,「債務者が債権者を害することを知ってした法律行為」であり,「その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない」とされる(民法424条)。租税債権債務関係においてこれが認められるには,①租税債権が発生していたこと,②納税者の財産がその法律行為により減少し,租税の全額を徴収できなくなったこと(客観的要件),③納税者および法律行為の相手方(以下「受益者」という)が租税債権を害する意思を持っていたこと(主観的要件)が要件となる*2。本件においても,①租税債権が発生していたか,③Y,CおよびDに租税債権を害する意思があったかが争点となっている。①②については本件では基本的に充足していたと考えられることから,以下,③Y,CおよびDの詐害の意思に絞って判決を見ていく。

(2)私的整理手続と詐害行為
 本件において,Cは自らの受けた贈与は単純贈与(民法549条)ではなく負担付贈与(民法553条)であったと主張している。Cは,Yから贈与された金銭をもって自らの債務を弁済している。そして,債務の弁済によって根抵当権を消滅させた所有不動産の処分代金をもって,CはYの債務を肩代わりするつもりであったと主張している。すなわち,YからCへの金銭の贈与はYの財産を単純に減少させる行為ではなく,CがYの債務を弁済するために必要な行為であった(Cはその負担を負うつもりであった)と主張している。
 倒産状態にある債務者が私的整理手続を行う場合,「私的整理に反対する債権者による個別執行や法的倒産手続開始の申立から隔離するために,債務者の財産を、債権者委員長や特定の債権者委員に移付することがあ」*3る。Cは,このように,Yの私的整理のために必要な手続として(結果として債権者を利するために)贈与を受けたのだと主張していると思われる。しかし,私的整理に関する準則の整備等により,「今日では、債務者財産の移付は,必ずしも常に私的整理に必要な手順ではなくなっている」*4との指摘がある。また,YからCへの贈与は私的整理の一環として行われたものではあるとしても,執行等からの隔離のように私的整理に必要不可欠な行為であったとまでは言えないであろう。したがって,Cの主張は妥当とはいえないと考えられる。
 ただし,第一審判決で示された「任意整理の一環として行われた債務者の財産を減少させる行為が詐害性を有しないとして許容されるのは,総債権者の同意のもとに,公平かつ公正な任意整理が行われたような例外的な場合に限られる」とする規範は,法的根拠が非常に曖昧である。この点は私的整理手続の法的位置づけが不明確であることに起因すると考えられる。

(3)弁済と詐害行為
 第一審においては,DがYから受けた送金は債務の弁済であって,詐害行為に該当すると判示されている。
 そもそも,弁済により②債務者(=租税債権については納税者)の財産が減少したと言えるのか,まず問題となりうる。弁済は債務者の積極財産(金銭等)を減少させるが,同時に消極財産である債務も同額減少させるので,債務者の財産は何ら減少しないとも考えうる*5。しかし,資力を喪失した債務者が一部の者にのみ弁済をするような場合(偏頗弁済)を許容してしまうと,債権者平等の原則に著しく反する結果を招く。そこで,判例上は,「弁済は,原則として詐害行為とならず,唯,債務者が一債権者と通謀し,他の債権者を害する意思をもつて弁済したような場合にのみ詐害行為となるにすぎない」とされている*6。従って,③債権者を害する意思という点に,弁済の詐害行為該当性は左右されることとなる。
 本件においては,DはCの婿であったこと,Yの元取締役であったこと,弁済を受けた金銭を弁済直後に妻(=Cの娘)に貸している(判決における事実認定を見るに,贈与しているに近い)こと等を考慮すれば,DはYの破綻を知っており,債権者を詐害するために債務の弁済を受けたものと思われる。

(4)会計処理と租税債権の認識
 以上のように,Y,CおよびDには租税債権を詐害する意思があったという第一審判決は妥当であったようにも思われる。しかし,③納税者および受益者に租税債権を害する意思があったというには,(a)両者が租税債権の発生を認識しており,(b)その発生した租税債権を法律行為により害しようとした,と考える必要がある。この点,第一審判決においては,(a)租税債権の(主観的な)認識の充足如何については,①租税債権の(客観的な)発生をもって足りる,と考えられているように思われる。一方,控訴審判決においては,(a)租税債権の認識の点を重視し,Y,CおよびDは租税債権の発生を予測しえず,従って③詐害の意思も存在しないと判断されている。それでは,いずれの検討構造が妥当なのであろうか。
 詐害行為とは,債務者および受益者が債権者を害することを知ってした法律行為であり,まさにこの下線部分から,主観的な要件として詐害の意思という要件が導かれる。従って,③(a)租税債権の認識についても,既に発生している租税債権を主観的に認識しているかという,①租税債権の発生とは別個の要件と解するのが相当であろう。
 このような要件の理解は,控訴審判決の検討構造と整合的である。控訴審判決では,既に貸倒損失と相殺されたはずの資産の売却益が再び計上されている点を本件国税更正処分の問題点として挙げている。仮に③(a)租税債権の認識が①租税債権の存在に還元されると前提した上で控訴審判決の結論を導くならば,本件において地方税債権は存在しないと考えざるを得ない。従って,国税についての更正処分の誤りがそれに伴ってなされた地方税の更正処分の適法性にも影響を与えるか,本件において貸倒損失は損金に算入されるものであったか*7等の論点の検討を行う必要があったであろう。しかし,本件においてはこのような検討は行われていない。控訴審においては,Yが債権を減額しており,会計処理として貸倒損失を行っていること,従って,租税債権を認識しえなかったことをもって,詐害意思の要件を充足しないと判示している。これは,③(a)租税債権の認識という要件を主観的なものと構成している一つの現れである。
 以上のように,本件においては控訴審判決の判示が妥当であると考えられる。一方,控訴審判決の射程については(規範が明示されていないこともあり)不明確である。控訴審判決の射程を広く捉えるならば,法人所得課税において会計処理が租税債権が発生しないように為されていた場合には,租税債権を詐害する納税者等の意思は認められないというものとなろう。しかし,このように考えた場合,納税者が恣意的な会計処理を行うことで詐害行為取消権の対象から免れ得ることとなってしまい,債務者の行為によって債権者が害されることを防ぐ詐害行為取消権の趣旨を没却するように考えられる。③(a)租税債権の認識はあくまで主観的な要件であるから,これは(特定の事実に還元するのではなく)事実関係の総合考慮によって判断されるべきであろう。法人所得課税において,会計処理は納税者等の租税債権の認識の有無を推認させる一つの(しかし租税債権の存否に直結すること(法人税法22条4項参照)から非常に重要な)要素と考えるべきである*8

(5)おわりに
 以上論じたように,本件においては,第一審判決ではなく控訴審判決の判示が妥当である。何故ならば,詐害行為取消権における主観的要件につき,その判断要素の一部(租税債権の認識)を租税債権の存在という客観的な事実に還元することなく,納税者の主観的意思を(会計処理等から)読み取っているから,である。第一審判決は,Y,CおよびDが租税債権を認識していたという前提に立てば妥当であるが,本件においてはそうではない。

*1:第二次納税義務には詐害の意思は不要と判示した判例として,最判平成21年12月10日民集63巻10号2516頁参照。また,債権法改正案との関連から租税債権についての詐害行為取消権の適用範囲が減少すると予測されること,それに伴い新たな第二次納税義務制度を創設すべきとする見解として,栗谷桂一「詐害行為取消権の見直し論について」税大論叢68号(2011年)149頁参照。このように,第二次納税義務制度と詐害行為取消権は密接に関連する領域である。

*2:金子宏『租税法[第21版]』(弘文堂,2016年)903頁参照。

*3:四宮章夫「私的整理の研究4」産大法学49巻4号(2016年)104頁。

*4:四宮・前掲注(3)104頁。

*5:税法においても,同様の理由から,債務の弁済は何ら納税者に損失をもたらさないと考えられている。増井良啓「債務免除益をめぐる所得税法上のいくつかの解釈問題(上)」ジュリスト1315号(2006年)196頁参照。

*6:最判昭和33年9月26日民集12巻13号3022頁。なお,倒産法における偏頗行為否認には詐害意思が要件とされないことに注意。破産法162条1項,民事再生法127条の3参照。

*7:貸倒損失の損金算入の可否については,興銀事件(最判平成16年12月24日民集58巻9号2637頁)参照。なお,興銀事件第一審判決(東京地判平成13年3月2日民集58巻9号2666頁)の裁判長は本件控訴審判決と同じ藤山雅行裁判官である。

*8:なお,このような法人所得課税における会計処理と租税債権の認識の有無という議論が詐害行為取消権以外の分野にも応用可能なものであるかについては良く解らない。租税債権を認識していたか否か,という納税者等の主観的な事情が影響を及ぼす課税問題は(実体法,手続法等の区別に関わらず)あまりないように思われる。が,勉強不足なだけな気がする…