What Do We Pay for Civilized Society?

税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。概ね1回/月の更新を目標としています。

10,000アクセス突破しました!&大学院ディベート大会

 先日,当ブログが10,000アクセスを突破しました。大体40記事ほどあるので,単純計算で250アクセス/記事ほどとなります。
 一介の大学院生が書いている無味乾燥なブログをご覧いただき,いつもありがとうございます。今後とも研究を頑張って,その記録を残していくことで,魅力的なブログにできたら良いなぁと思っております。

 さて。先日(6/9(土)),大学院のディベート大会がありました。昨年のディベート大会については,以下の記事を参照。

taxfujima.hatenablog.com

 今年は,(木山ゼミのTAに復帰したこともあり)審査員ではなく,久しぶりにプレイヤーとしてディベート大会に参加しました。研究をしていて他の試合はあまり観られなかったので(申し訳ありません),自分の試合についてだけ書きます。
 今年のディベート大会では,弊学法学研究科のOBでチームを作り,現役の方(M2)と対戦しました。テーマは,東京高判平成27年11月26日税資265号順号12760を題材に採り,当該事件において不妊症の治療のために購入したサプリメントの購入費用が医療費控除(所税73条)の対象になるかを争いました。結果としては,勝利を収めることができました。審査してくださった審査員の先生方,対戦してくださったM2の皆さま,一緒にディベートをしてくださったOBの皆さま,ありがとうございました。
 当該事案ですが,非常に興味深く,また考えさせられる事案でした。普通に考えれば,サプリメントを買っただけで医療費控除は受けられないのではないか,と思います。ただ,医療費控除制度の立法趣旨や,その後の改正,通達による実質的な拡張解釈*1等を勉強していくうちに,当該事案における医療費控除の可否は必ずしも簡単に割り切れる問題ではないと感じました。もちろん,ディベート大会で争われたのは解釈論ではあるのですが,立法論も含めて,これからの高齢化社会において一つの重大な問題となっていく分野だと思います。
 少し細かな話としては,所得税法にいう「医薬品」(所税73条2項,所税令207条2号)が果たして旧薬事法(昭和35年法律第145号,現薬機法)からの借用概念と言えるのか,という点が,当該事案を考える上で一つの大きな論点となります。控訴審判決は,この点非常に曖昧な判示をしています。私が原告側で立論を書いたのですが,そこでは,所得税法上の「医薬品」は旧薬事法とは別個の意義で解すべきである,という議論を展開しました*2。ディベートですし,役割に沿ってそう書いたのですが,自分でフラットに考えたらどうなるのかなぁ,ということを,終わった今考えてみたりしています。

 自分のことばかり書いてしまったのですが,こんなところで。
 ディベート大会で研究をする勇気と元気をたくさんいただいたので,自分の研究に邁進して参りたいと思います。雨にも負けず,頑張ります。

*1:所基通73-3参照。

*2:こちらの記事の2.の末尾で少し書いた,「規制法からの借用概念」という話です。本件はこの論点について非常に有益な材料を提供しているものと評価する先行研究として,佐藤英明「判批」TKC税研情報26巻4号(2017年)8頁参照

アメリカ税法研究会再始動

 以前,このブログに,弊学法学研究科でアメリカ税法研究会という試みをしていることを書きました。

taxfujima.hatenablog.com

 当該研究会ですが,1年間の休止を経て,今年度より第二次研究会が発足することとなりました。
 一昨年度の第一次研究会では,研究費の受給等の都合上*1,私はメンバーにはなっておらず,オブザーバーとして参加していました。しかし,再始動に伴い,学内の研究費を受給しない形となりましたので,正式なメンバーとして加えていただきました。
 昨日(5/31)に初回が行われ,私が「アメリカ税法の調べ方」という題で軽く報告を行いました。その後,今後の進め方について軽く議論が行われました。今後は,自分の研究テーマや関心がある人はそのテーマや関心について報告し,無い人はPaul Caron "Tax Stories"等の講読によって米国の基本的な租税判例に触れるということになりました。
 私は,博士後期課程での研究をまとめる段階に入っていますので,そのような方向で今後報告して参りたいと思っています。与えていただいた機会に感謝しつつ,自分の研究を推進していきます。
 オープンな研究会ではございませんので,ご希望に必ず添えるとは限りませんが,もしご興味がおありの方がいらっしゃいましたら,お気軽にお声がけくださいますと嬉しいです。

*1:現在,私は日本学術振興会の特別研究員という身分であり,科学研究費以外の研究費は学内のもの学外のもの問わず受給してはいけないこととなっています。

『典型契約の税法務』が公刊されました。

 この度,日本加除出版より,中村芳昭=三木義一監修『典型契約の税法務』という書籍が刊行されました。
www.kajo.co.jp

 私は,池田清貴弁護士と共に,第4章の消費貸借契約の部分を担当いたしました。税法編および実務編を主に担当しました。

 当該書籍は,青山学院大学大学院法学研究科ビジネス法務専攻税法務プログラムの修了者である弁護士および税理士を主な著者として,一同の恩師である中村先生および三木先生を監修者として書かれた書籍です。
現在ビジネス法務専攻の主任をされている木山先生は,総論の部分を担当してくださっています。
 私はビジネス法務専攻のOBではありませんが,三木先生の弟子として,またビジネス法務専攻の方々と共に税法を研究した者として,お仲間に加えていただきました。分不相応なことでしたが,なんとか完成までついていけてほっとしています。
 また,当該書籍は,日本加除出版の編集者である前田敏克さまの並々ならぬサポート無くしては完成しなかったものでした。前田さま,ありがとうございました。

 当該書籍には,以上のように,青学法学研究科の税法専攻一同で書いた成果物という性格があります。しかし,内容としては,個々がバラバラに研究成果を発表するというものではありません。民法上の13の典型契約について概観した後,当該契約が結ばれた際に起こりうる課税問題について網羅的に叙述した書籍になっています。執筆の目標としても,弁護士と税理士が話し合う際に傍らに置いておきたい本,といったような本を目指して執筆しました。
もっとも,はしがきで述べられているとおり,叙述のスタイルについては各個人に大きな裁量が与えられました。これは,担当者の個性という理由以上に,契約類型毎にわかりやすい書き方が異なるためにこのような形が取られました。
 私の執筆部分については,池田弁護士と協議のうえ,契約の成立から履行を経て終了までという時系列を意識しながら,金銭消費貸借契約に関する課税関係を検討しました。私は,現在は債務免除益課税という特定の分野について研究していますが,修士課程のうちは金銭債権に係る課税問題について幅広く(債権者側債務者側問わず,契約成立段階や履行段階も含めて)研究していました。そのため,少し懐かしく感じながら執筆いたしました。

 ぜひ,ご購入を検討くださいますと幸いです。
 題名にもありますとおり,弁護士の方や税理士の方にはお勧めできる書籍です。
 また,少し違う観点ですが,税法について修士論文等を書こうとされている方にもお勧めできる本だと思います。税法(のうち特に実体法)の研究をするにあたり,その前提となる私法上の法律関係について知ることは不可欠です。その出発点として,自分が関心を持っている課税問題がどのような典型契約と関わる問題なのか知ることは,そこから先の私法上の法律関係について勉強する際の一助になりうると思います。

 長々と書いてしまいましたが,こんなところで。
 今年度は,博士後期課程3年目ということもあり,ブログの更新頻度はこれまで以上に低くなりそうです。ただ,生存報告程度には更新を続けて参りたいと思います。どうぞ暖かく見守ってくださいますと幸いです。

「貸与型奨学金と債務免除益課税」が公開されました。

 拙稿「貸与型奨学金と債務免除益課税」が,今月公刊された青山ローフォーラム6巻2号に掲載されました。
 まだリポジトリで公開はされていないようですが,載り次第リンクを書いておきます(→載りました(下記リンク参照))。

 当該論稿では,貸与型奨学金の返済免除に伴い生じうる債務免除益課税の問題について,現行の取扱いと法律の齟齬を指摘した上で,米国の制度やそれに対する批判を参照しながら立法的提案を行っています。
 現行の非課税取扱いは現行法の下では正当化できないのではないか,と論じてはいるのですが,論旨の主眼はここには無く,むしろ立法的提案が主眼です。

 この論稿の内容ですが,謝辞に書いたとおり,様々な箇所で報告の機会をいただきました(日本税法学会関東地区研究会での報告については,このブログにも書いています)。報告の度に大きな示唆をいただきました。ありがとうございました。
 結局,1年以上付き合い続けるテーマとなりましたが,とても勉強になりました。今後とも考えていきたいテーマだと感じています。

 今年度の業績はこれで以上となります。
 来年度は,今年度以上に精進を積んで頑張っていきたいと思います。

(2018/4/1追記)
 国税庁のウェブサイトリニューアルに伴い,当該論稿で取り上げた文書回答事例のURLが変更されていましたので,新たなURLを貼っておきます(エイプリルフールではありません)。こちらです。
県から奨学金の貸与を受けた医学生が医師免許取得後県内の医療機関に一定期間従事することによりその返還及び利息の支払に係る債務を免除された場合の課税関係について|名古屋国税局

 また,以下のような新たな文書回答事例もありました。ご参考になれば幸いです。
貸与制から給付制への移行に伴い奨学金返済債務が免除された場合等の税務上の取扱いについて|東京国税局

(2018/4/5追記)
 当該論稿が,弊学のリポジトリにて公開されました。下記リンクより,ぜひご笑覧ください。
https://www.agulin.aoyama.ac.jp/opac/repository/1000/20239/

eスポーツ大会の賞金と源泉徴収義務

0.はじめに
 このブログ記事は,ゲーム提供者からプレイヤーへの高額賞金の支払いに伴う源泉徴収義務の有無の問題点を考察したものです。
 まず,私の立場を述べておきます。私は,税法学(税金に関する法律についての学問)を研究している博士課程の大学院生です(ただし,専門分野は源泉徴収制度ではありません)。大学の先生や実務家がする議論からはレベルが劣る議論をしているかと思いますが,これは論文ではなくブログ記事ですし,大学院生であるということも含め,ご容赦ください。また,eスポーツの試合を動画等で観ることは好きですが,自分ではあまりプレイはしません(むしろ,一人用のゲームが好きです)。
 次に,このブログ記事を書く意図や目的という点ですが,単純に言えば,「問題が生じうるのではないか」という自分の疑念を何となく明らかにしておきたい,というだけのものにすぎません。したがって,実際に問題が生じているのかどうかは知りませんし,それを解決する目的で書いているわけではありません。当事者から相談を受けて書いているわけでも当然ありませんので,税理士の独占業務である税務相談(税理士法(昭和26年法律第237号)2条1項3号)にも当たらないものと考えています。素人が法解釈上の可能性を提示しているだけですので,この記事を信頼して実際の税務処理を行うべきではないと思います。また,この問題について,積極的に解決を望んでいるわけでもありません。このブログ記事を根拠に,読まれた方が何らかのアクションを起こされても,私は何ら責任を負いません。プロライセンス制度自体に対する賛否を(景表法上の問題を含め)積極的に述べる意図もありません。

 私の文章は「長くてわかりづらい」と良く言われるので,最初にこの記事の要約を書いておきます。この記事で私が言いたいことは,「景表法を回避するために作った仕組みで,課税問題,具体的には源泉徴収義務についても回避することができちゃう可能性があるんじゃないの?」ということです。
 もう少し詳しく論理を展開しておくと,「①広告宣伝のための賞金にはどんなものでも源泉徴収が必要だが,スポーツ選手に対する報酬については一定のものしか源泉徴収は必要とされておらず,eスポーツの選手への賞金は一定のものに含まれていない,②プロライセンスを持った選手への賞金は,『顧客を誘導するための手段』ではなく『報酬』なのだ,という説明がされることがある,③②の論理が『広告宣伝のための賞金ではなく報酬なのだ』という意味なのであれば,源泉徴収をする必要がなくなってしまいうるのではないか」というものになります。

1.景表法についての議論の概況
 eスポーツの賞金制大会について,景品表示法の規制がかかり,高額の賞金が出る大会を開くことを阻害しているのではないか,との議論が一昨年頃より存在します*1
 この問題に関し,2017年11月,白石教授が論稿を発表されています*2。白石教授は,「仕事の報酬等」は景品類に該当しない,との定義告示運用基準等を参照しながら,一般ユーザーが参加せず観戦することを中心とする大会の賞金については,「仕事の報酬等」に該当し,景品類に該当しないのではないか,と述べています。また,その根拠としては,定義告示運用基準の見出しから推測される「仕事の報酬等は経済上の利益に該当しない」という論理よりも*3,景品類の定義規定(景品表示法(昭和37年法律第134号)2条3項)における「『顧客を誘引するための手段として』に該当しない,とするほうが説明として据わりが良い。仕事をするプレイヤーがビデオゲームを購入するよう誘引することに賞金の目的があるのではなく,観戦する一般ユーザーという顧客に対して広告を行い誘引することが目的なのであって,賞金が提供される相手方であるプレイヤーも形式的にはビデオゲームを購入した顧客であるとしても,そのような『顧客を誘引するための手段として』賞金を提供しているのではない,と説明するのが,最も据わりが良いように思われる」*4と述べています。つまり,eスポーツのプレイヤーにゲームを購入させることに目的がない賞金については,「仕事の報酬」であり,「顧客を誘引するための手段として」の景品類には該当しないのではないか,と白石教授は議論しています。
 また,2018年2月,JeSU(一般社団法人日本eスポーツ連合)という組織が結成され,プロライセンスというものをeスポーツの選手に発行することが決まりました*5。このプロライセンスが発行された選手に対して支払われる大会の賞金については,プロの高度なパフォーマンスに対する報酬であることが明確になっている,とJeSUの関係者から説明されています*6。近日発行されたゲーム雑誌においても,eスポーツの選手が観客を魅了するプレイをしたことに対して支払われる報酬は「景品類」に該当しないことが消費者庁関係者より説明され,プロライセンスは仕事の報酬と認められる可能性を高めるための仕組みであると弁護士により説明されています*7
 白石教授の議論と現在のeスポーツ業界の流れの関係性については,必ずしも明らかではありません。ただ,「仕事の報酬等」と「景品類」を区別し,eスポーツの選手に対して支払われる賞金を「仕事の報酬等」と考える,という大きな流れは,軌を一にしていると言って良いでしょう。それでは,仮に,「eスポーツ選手に対する賞金の支払いは,仕事の報酬であるから,顧客を誘引するための手段ではなく,したがって景品類にも該当しない」という白石教授の議論が現在の流れの根拠となっているとした場合に,課税関係が影響を受けることはありうるのでしょうか?2.では,この点について考察していきたいと思います。

2.eスポーツ大会の賞金と源泉徴収義務
①報酬等に対する源泉徴収義務の概要
 この記事は,タイトルにもあるとおり,源泉徴収義務の問題について議論するものです。源泉徴収というと,一般的には給料に対するもの,正確に言えば給与所得(所得税法(昭和40年法律第33号,以下「所税」)28条1項)に対する源泉徴収義務(所税183条)を思い浮かべる人が多いかと思います。しかし,給料に対するもの以外にも,所得税法には多くの源泉徴収義務が定められています。
 eスポーツの賞金について問題になりうるのは,報酬,料金等に対する源泉徴収義務(所税204条)です*8。以下に1項のみ条文を挙げておきましょう。

(源泉徴収義務)
第二百四条 居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
一 原稿、さし絵、作曲、レコード吹込み又はデザインの報酬、放送謝金、著作権(著作隣接権を含む。)又は工業所有権の使用料及び講演料並びにこれらに類するもので政令で定める報酬又は料金
二 弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、測量士、建築士、不動産鑑定士、技術士その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金
三 社会保険診療報酬支払基金法(昭和二十三年法律第百二十九号)の規定により支払われる診療報酬
四 職業野球の選手、職業拳けん闘家、競馬の騎手、モデル、外交員、集金人、電力量計の検針人その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金
五 映画、演劇その他政令で定める芸能又はラジオ放送若しくはテレビジョン放送に係る出演若しくは演出(指揮、監督その他政令で定めるものを含む。)又は企画の報酬又は料金その他政令で定める芸能人の役務の提供を内容とする事業に係る当該役務の提供に関する報酬又は料金(これらのうち不特定多数の者から受けるものを除く。)
六 キャバレー、ナイトクラブ、バーその他これらに類する施設でフロアにおいて客にダンスをさせ又は客に接待をして遊興若しくは飲食をさせるものにおいて客に侍してその接待をすることを業務とするホステスその他の者(以下この条において「ホステス等」という。)のその業務に関する報酬又は料金
七 役務の提供を約することにより一時に取得する契約金で政令で定めるもの
八 広告宣伝のための賞金又は馬主が受ける競馬の賞金で政令で定めるもの
(2項以降略)

 ここで列挙されている報酬等を支払う場合には,(2項に定められた除外事由に該当しない場合には,)支払者は,一定の源泉徴収税額を徴収した(いわゆる天引きした)上で報酬等を支払い,税額を税務署に納める必要があります*9。それでは,eスポーツ大会の賞金がこれらのいずれかに該当しうるのか,以下で検討してみたいと思います。

②一般的なゲーム大会における賞金と源泉徴収義務
 eスポーツ選手に対する賞金の支払いとの比較のために,まずは一般的なゲーム大会においてゲーム提供者から支払われる賞金について,上記の条文がどのように関わるのか考察してみましょう
 結論から言えば,一般的なゲーム大会においてゲーム提供者から支払われる賞金は「広告宣伝のための賞金」(所税204条1項8号)として,所税204条が定める源泉徴収義務の対象となるものと考えられます。「広告宣伝のための賞金」は,委任を受けた政令において,「事業の広告宣伝のために賞として支払う金品その他の経済上の利益(旅行その他役務の提供を内容とするもので、金品との選択をすることができないものとされているものを除く。)」をいうもの,と定められています(所得税法施行令(昭和40年政令第96号,以下「所税令」)320条7項)。
 これだけだと良くわかりませんが,国税庁のタックスアンサーでは,その具体例として,「事業を営む個人や法人が製品や事業の内容を広告宣伝するための賞金や賞品 例えば、懸賞クイズや大売出しの抽選の賞金や賞品」「素人のクイズ番組や素人のど自慢の賞金や賞品」が挙げられています*10。また,法令解釈通達においても,「『事業の広告宣伝のために賞として支払う金品その他の経済上の利益』とは、事業を営む者が商品又は事業の内容等を広く一般に知らせ顧客を誘引するために支払う賞金品等をい」う,と述べられています(所得税基本通達204-31。下線は筆者)*11
 1.で整理したように,ゲーム提供者からプレイヤーに対して支払われる賞金は,「顧客を誘引するための手段」として,原則的には景表法上の「景品類」に該当する,とされていました。このタックスアンサーで挙げられている具体例等を参照しても,当該賞金は「広告宣伝のための賞金」に該当する可能性が高いのではないか,と思われます。
 
③「仕事の報酬等」としての賞金と源泉徴収義務
 これに対して,景表法上「仕事の報酬等」として支払われる,例えばプロライセンス保持者に対して支払われる賞金はどうでしょうか。
 ②で論じた「広告宣伝のための賞金」への該当性を考察する前に,他の条文の適用可能性を探ってみましょう。そうすると,「職業野球の選手、職業拳けん闘家、競馬の騎手、モデル、外交員、集金人、電力量計の検針人その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金」(所税204条1項4号)にも該当しうるように一見考えられます。野球選手のようなスポーツ選手に対する報酬と同じように源泉徴収が求められるのではないか,ということです。
 しかしながら,結論から言えば,これには該当しません。報酬についてこの条文を根拠に源泉徴収をすべきスポーツ選手については,政令で限定列挙されており,「プロサッカーの選手、プロテニスの選手、プロレスラー、プロゴルファー、プロボウラー、自動車のレーサー、自転車競技の選手、小型自動車競走の選手又はモーターボート競走の選手」をいうもの,とされています(所税令320条3項)。したがって,eスポーツ選手に対する賞金のように,この政令で挙げられていない報酬については,この条文によっては源泉徴収は求められないことになります。
 また,「役務の提供を約することにより一時に取得する契約金」(所税204条1項7号)についても,「職業野球の選手その他一定の者に専属して役務の提供をする者で、当該一定の者のために役務を提供し、又はそれ以外の者のために役務を提供しないことを約することにより一時に受ける契約金」(所税令320条6項)とされていますが,大会の賞金は契約時に受け取る契約金でありませんから,これには該当しないでしょう。
 そうすると,景表法上「仕事の報酬等」に該当する賞金についても,②で論じた通常のゲーム大会の賞金と同じく,源泉徴収義務の有無は「広告宣伝のための賞金」に該当するかどうかにより判断されることになります。ここで,1.でまとめた景表法の議論が関係してきます。1.で論じたとおり,「仕事の報酬等」が景品類に該当しない理由は「顧客を誘引するための手段」ではないからだ,という議論が存在しています。この理由付けが課税関係を論じるにあたっても有効なのであれば,「仕事の報酬等」は「顧客を誘引するために支払う商金品等」ではなく,したがって「広告宣伝のための賞金」ではない,といった議論も可能なのではないか,と思われます。このような議論が可能なのであれば,「仕事の報酬等」であることが明確な(例えば,プロライセンス保持者に対して支払われる)eスポーツ大会の賞金については,一般的なゲーム大会の賞金と異なり,源泉徴収義務が発生しない可能性もあるのではないか,と思われます。
 ただし,ここではあくまで可能性を提示しているのみであり,私自身が自信をもってこう主張しているわけではない,ということは書いておきたいと思います。少し専門的な議論ですが,景表法のような規制法については,税法が準拠すべき私法とされうるのか,という議論が(医療費控除等の論点について)存在しています。景表法を回避するための仕組みによって課税関係が影響を受ける,というのは,個人的には違和感があります。

3.おわりに
 以上,長くなりましたが,景表法の議論を参照したうえで,eスポーツ大会の賞金と源泉徴収義務の問題について考察してみました。結論としては,「高額賞金の支払いを可能にする景表法上の根拠づけによっては,源泉徴収義務の有無に影響を及ぼしうるのではないか」という可能性を提示しました。
 「0.はじめに」でも書きましたが,ここに書いてあることはあくまで素人が考えてみたことであり,専門家の知見ではありません。実際に課税処理を行うにあたっては,税理士等の専門家に必ず相談してください。この記事を信頼して何か行動を起こされても私は何ら責任は負わない,ということを繰り返し強調しておきます。

(2019/9/18追記)
 続編を下記のとおり書きました。ご笑覧いただけますと幸いです。
taxfujima.hatenablog.com

*1:2017年7月19日付日本経済新聞電子版「隆盛『eスポーツ』に法の壁 賞金たった10万円」参照。

*2:白石忠志「eスポーツと景品表示法」東京大学法科大学院ローレビュー12号(2017年)86頁。

*3:なお,大元慎二編著『景品表示法[第5版]』(商事法務,2017年)181頁においては,仕事の報酬等は「経済上の利益に該当しない」との説明がされています。

*4:白石・前掲注(2)101頁。

*5:詳細については,こちらのJeSUウェブサイトを参照。

*6:2018年2月19日付ITmedia NEWS「プロライセンス制度、『消費者庁と相談して決めた』 eスポーツ団体の見解とプロゲーマーの思い」参照。なお,当該座談会については,こちらでYoutubeにも投稿されています。法律的な建付けについての議論は,1時間5分頃よりされています。

*7:「esports大会に関わる法律を専門家に聞いた」週刊ファミ通1527号(2018年)126~127頁参照。

*8:なお,上記座談会(前掲注(6))では,大会の賞金は「労務契約」に基づくものなのか,という議論もされています。仮にこの「労務契約」が「労働契約」という意味ならば,賞金が給与所得に該当する可能性もありますが,少し考えにくいので,ここでは省略します。

*9:なお,この制度の趣旨については,「報酬,料金等に係る源泉徴収は種々雑多なものを含んでおり,その統一的な把握や考察をすることは難しい」(水野忠恒「給与等以外の源泉徴収制度」日税研論集15号(1991年)135頁)と指摘されています。

*10:こちらの国税庁ウェブサイト参照。

*11:なお,タックスアンサーや法令解釈通達は,あくまで国税庁が示している見解であり,上記で挙げた法律や政令とは異なり,納税者を拘束するものではありません(租税法律主義,憲法30,84条)。しかし,一般的に,実務はこれに沿って行われています。