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税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。概ね1回/月の更新を目標としています。

『課税の契機としての財産移転』をご恵贈いただきました。

 京都大学の住永先生より,先月公刊された『課税の契機としての財産移転』(成文堂)をご恵贈いただきました。大変光栄です,ありがとうございます。

 目次等の詳細については,下記の成文堂ウェブサイトを参照。
成文堂 出版部|書籍詳細:課税の契機としての財産移転

 住永先生は,財産の含み損益に対する課税(キャピタル・ゲイン課税)について,その課税の契機はどのように考えるべきか,という点を研究されている方です。今回は,博士後期課程でのご研究の集大成として提出した博士論文を書籍化されました。
 以前よりこのブログに書いている関西租税法若手研究会で報告を拝聴する機会があるのですが,先端的な金融取引について,いつも正確に腑分けして議論を展開されていて,大変勉強になります。先日のVirginia大学での研究会でも報告を拝聴しました。

 書籍の内容としては,Wash sale(洗替取引),株式貸借,ボックス取引という3つの取引類型についての米国法との比較法的検討を通して,課税の契機をどのように捉えるべきか,という点を議論されています。
 一般的には,キャピタル・ゲインに対する課税の契機は実現である,というところが一応の議論の到着点とされるように思います*1。そして,「実現」とは何か,という点については,私法上の権利義務の移転を参照しつつも,個別具体的な議論をすべきだ,という流れになるように思います。住永先生の著作は,上記の3つのような先端的な取引*2を素材として,課税の契機について統一した見方を構築することが可能か,また,私法上の権利義務関係へどの程度依拠すべきか,という点(いわばこれまでの議論の先にあるところ)を議論されています。
 検討手法としても,米国の判例理論や学説を丹念に検討したうえで,コンパクトにまとめられています。大変勉強になります。

 これまで私は専ら債務免除益に対する課税を論じてきましたが,今後はキャピタル・ゲインに対する課税についてもぜひ論じていきたいと思っております。その際,この書籍のように一貫した考え方を提唱する先行研究があることは,(それをどのように扱って論じるにせよ)とても恵まれたことだな,と思います。
 いただいた書籍を読んで勉強し,今後とも研究に励みたいと思います。

*1:実現主義に関する先行する議論としては,例えば,渡辺徹也「実現主義の再考」税研147号(2009年)63頁,岡村忠生「所得の実現をめぐる概念の分別と連接」法学論叢166巻6号(2010年)94頁参照。

*2:これらは「財産が納税者の所有を離れることと課税とでずれが生じる取引」であり,これらの取引における課税の契機は「実現主義の限界」を検討するもの,とはしがきにおいて述べられています(i頁)。