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税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。概ね1回/月の更新を目標としています。

総合支援資金の償還免除より生じる債務免除益をどのように非課税と規律すべきか

はじめに

 昨夜の地震で被害に遭われた皆さまにお見舞い申し上げる。
 さて,2/4の衆議院の予算委員会で,下記のように,債務免除益課税が論点の1つとなっていた(動画は委員会全体についてのものだが,該当する部分から再生されるようになっている)。

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 現在行われている総合支援資金の貸付けについて,償還免除の要件が未だに明らかになっていない点が議論されているなかで論点として挙がっていた。償還免除に伴って債務免除益に対する課税が生じないようにするために,現在免除の要件について議論がされている,とのことだった。
 同種のことは,既に緊急小口資金の特例貸付けの償還免除について問題となりうる点をこのブログで指摘していた。

taxfujima.hatenablog.com

 上記の国会討論では,当該記事の論旨と同じく,「現行法では課税対象になってしまいそうだがそれは望ましくない」という前提で議論がされていた。そこで,この記事では,総合支援資金の償還免除に伴って債務免除益課税がされないようにするためにはどうすべきか,ということを考えていきたい。

今ある法律を使う:所得税法44条の2の適用対象とする

 まず考えられるのは,上述の記事で論じたとおり,厳しい経済状態にある者の債務免除益を非課税と定める規定として現在でも存在している所得税法44条の2の適用対象とする,という方途である。
 ただし,上述の記事で論じたとおり,このような方途は同条の従来の解釈論や実務からすると難しいように思われる。住民税非課税世帯かつ収入が減少している,すなわち所得額が一定以下であるというだけでは,貯蓄額などを勘案しておらず,「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難」とは言えないだろう。逆に,「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難」でなければ償還免除をしない,と定めてしまえば,免除の要件が厳格にすぎ,これも望ましくないように思われる。
 また,この点は上述の記事では論じなかったが,同法の適用を受けるためには申告書にその旨を記載する必要がある(同法3項)。総合支援資金の償還免除を受ける納税者には普段は確定申告をしていない給与所得者も多いだろうから(所得税法121条),総合支援資金の償還免除を受けた途端に確定申告が必要となることは望ましくないであろう*1

制度改正を行う:新型コロナ税特法2条を改正する

 次に考えられるのは,法律を改正して債務免除益を非課税と定める,という方途である。
 上述の国会討論では,枝野議員が所得税法の改正を示唆していた。ただし,所得税法を改正することにはかなりハードルが高いだろうし,またどのような規定を設けるべきかという点も難しいだろう。現実的な方策としては,新型コロナ税特法(令和2年法律第25号)の改正により,緊急小口資金や総合支援資金の償還免除により生じる債務免除益を非課税と定める,というものがあるように思われる。
 同法には,一定の給付金を非課税と定める条文がある(同法4条)。この規定の適用対象を緊急小口資金や総合支援資金の償還免除により生じる債務免除益まで広げる改正が考えられよう。具体的には,同法4条の「給付金」を「金品その他の経済的利益」と改正したうえで,同条の委任を受けた新型コロナ税特法施行規則(令和2年財務省令第44号)2条に緊急小口資金や総合支援資金の償還免除により生じる債務免除益を規定する,という改正である。
 おそらく,この改正が最も現実的な方途だろうと思われる。

そもそも論で考えてみる:所得税法36条の解釈論により,「債務免除益は生じていない」と考える

 最後に論じたいのは,「そもそも緊急小口資金や総合支援資金の償還免除によって債務免除益は生じない」と考える,という方途である。このように考えられれば,そもそも課税所得が生じていないのだから,確定申告書への記載も法改正も必要がなくなることになる。
 具体的には,「経済的な利益」(所得税法36条)が緊急小口資金や総合支援資金の償還免除によっては生じない,という法解釈論を模索する方向性となる。借り入れる人の実感としては,「返せなくなっただけで利益を得ているだなんてとても思えない」と思うだろうし,たとえば収入の減少の背後に課税所得を減殺すべき損失を観念すればこのような考え方をすることもできるのではないかと思われるが,緊急小口資金や総合支援資金の償還免除に限らない話になってしまうし,この方途は現実的には難しいかもしれない。

おわりに

 以上,3つの解決策を論じてきた。これら以外にもあるかもしれないが,私が思いついたのは上記の3つである。
 おそらく現実的なのは,2つめに論じた新型コロナ税特法の改正だろう。ただし,法改正の時間がかかることを考えると(もっとも,遡及的に非課税と定めることは可能だろう),今ある制度を使う1つめの方途やそもそも論で解決する3つめの方途の方が良い,との意見もありうる。
 雑駁ではあるが,速報性に鑑み記事にすることとした。この記事が誰かの助けになることを祈っている。

*1:ただし,所得税法36条の合理的な解釈を確認した規定と考えられている所得税法44条の2の適用要件として(拙著『債務免除益の課税理論』(勁草書房,2020年)69~71頁[初出:2017年]参照),申告書への記載を要件とすべきなのか,という点については議論の余地があろう。また,給与所得者が年末調整のみで課税関係が終了する現行制度は望ましくない,もっと多くの納税者が確定申告をすべきだ,との意見は当然ある(たとえば,三木義一『税のタブー』(インターナショナル新書,2019年)218~224頁参照)。