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税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。概ね1回/月の更新を目標としています。

50,000アクセス突破記念企画「税法学執筆雑記」① 法令の略称

企画の趣旨

 このブログのアクセス数が50,000アクセスを突破しました。読んでいただいている皆さん,いつもありがとうございます。
 キリが良いので何か書こうかと思ったのですが良い素材が思いつかなかったので,「税法に関して論文などの文章を書く際に本質的ではないんだけどどうしようか迷う」ことについて,「税法学執筆雑記」と題して書きたいと思います。今回は,後述するように法令の略称について書きます。このほかのテーマとしては,「『第』をつけるかどうか」「事件名などの判例・裁判例の呼称」「通達と実務」などを考えています。
 なお,シリーズ全体を通してそんなに本質的ではないことを書くので,あまり出典など示さずに書くかと思います。私の感覚のような話が多くなるだろうと思いますが,ブログだからこういう緩いことを書けるのだという点も考慮して,ご容赦くださいますと幸いです。また,シリーズ全体の参考文献として,下記のものを挙げておきたいと思います。

www.zeikei.co.jp

はじめに

 今回は,法令の略称について書きたいと思います。
 法学一般もそうなのだろうと思いますが,税法に関する文章を書いていると,同じ法令(法律や政省令)のことを何度も書くことになります。このとき,毎回正式名称を書いていると,文章が長くなってしまうことがあります*1。文章にはしばしば字数制限がありますから,その観点から,法令には略称を付すことがあります。論文の場合は最初に出てきたところで略称を付すでしょうし,書籍の場合は目次のあたりに凡例として略称を示しておく場合が多いかと思います。
 この法令の略称なのですが,他の分野はわかりませんが,税法学分野ではあまり統一的なものがありません。教科書でも,それぞれ使っている略称が違います。そのことについて書いておきたいと思います。

スタンダードな略称はたぶんあまり使われていない

 まず,法令の略称をふくめ,法律学の文章を書くにあたっては,一定のスタンダードがあります。下記のリンクにある,「法律文献等の出典の表示方法[平成26年版]」です(2024年4月10日追記:こちらのリンクですが,原典は削除されています。今のところ残っている,同志社大学法学部のリンクを置いておきます)。文献の引用方法などは,ある程度この資料に沿って書いている人が多いだろうと思います。

https://law.doshisha.ac.jp/law/attach/page/LAW-PAGE-JA-117/109278/file/houritubunken2014a.pdf

 この資料では,たとえば,所得税法は「所得税」と略すべきだ(20頁),とされています(法人税法,相続税法および消費税法もこれに準じた略称が設定されています)。ただ,この略称はあまり使われていないと思います。理由としては,一般用語としての「所得税」(所得税法の適用の結果として課される租税)と区別がつかないことや,「所得税法」から1文字しか略せないことからあまり有用ではないことなどが挙げられるかと思います。

主要な2つのやり方

 では,スタンダードなものを使っている人があまりいないということは,研究者や実務家それぞれが好き勝手な略称を付しているかというと,そんなことはありません。概ね,下記の2パターンのいずれかを使っている人が多いかと思います。

「所得税法→所税」

 まずは,所得税法を「所税」と略す形式です。法人税法は「法税」,相続税法は「相税」,消費税法は「消税」となります。国税通則法は「税通」,国税徴収法は「税徴」になります。
 この略し方をしている教科書としては,金子宏先生の『租税法』や増井良啓先生の『租税法入門』が挙げられます。

https://www.koubundou.co.jp/book/b437888.htmlwww.koubundou.co.jp

www.yuhikaku.co.jp

「所得税法→所法」

 次にあるのは,所得税法を「所法」と略す形式です。法人税法は「法法」,相続税法は「相法」,消費税法は「消法」,国税通則法は「通法」,国税徴収法は「徴法」となります。
 この略し方をしている教科書としては,岡村忠生先生,酒井貴子先生および田中晶国先生の『租税法』や,三木義一先生編著の『よくわかる税法入門』が挙げられます。

www.yuhikaku.co.jp

www.yuhikaku.co.jp

私はどうしているか

 上述の2パターン以外にも方法はありうるだろうと思いますが,概ね,いずれかを使う文献が多いのではないか,と思います。そして,どちらが多いということもあまり無さそうなのかな,とは感じています。
 私は,執筆に加えていただいている教科書(『よくわかる税法入門』)では上述のとおり「所法」「法法」を使っています。一方,自分の文章では,(特に指定がなければ)「所税」「法税」を使っています。自分の文章で「所税」などを使う理由としては,法人税法施行令の略称について「法令」という言葉を使いたくない,ということが挙げられます。「所法」「法法」と略す場合,法人税法施行令は「法令」と略すことになるかと思うのですが*2,法律や命令を総称する一般用語としての「法令」と紛らわしい場合があるかもしれない,と考え,「所税」や「法税」を使っています。このパターンの場合,法人税法施行令は「法税令」となります。
 ただし,「所税」「法税」パターンが万能か,というとおそらくそうではないだろうと思います。たとえば,所得税と事業所税のいずれも論じる文章では,「所税」と「事業所税」が入り混じることになります。また,「税徴」と「税調」(自民党や政府の税制調査会)が入り混じることもあるかもしれません。したがって,どちらが望ましいということはなくて,自分が馴染みのある略称を使えば良いのであろう,と思っています。

おわりに

 今回は,法令の略称について書いてみました。最初に書いたとおりあまり本質的な話ではないのですが,1つの文献の中で略称は統一すべきでしょうし,論文を書く際などの参考になれば幸いです。

*1:たとえば,現行の所得税法の正式名称は「所得税法(昭和40年法律第33号)」です。「昭和40年法律第33号」は法律番号と言います。昭和40年(1965年)に33番目にできた法律であることを意味します。書かなくてもおそらく通じますが(実際,字数制限などの関係で削ることも良くあります),今の所得税法以前にあった古い「所得税法」もありますし(たとえば,昭和22年法律第27号),法律番号を付したものが厳密には法律の正式名称と言えるのではないか,と思われます。

*2:なお,「法法令」と略す文章も見るかと思います。ただ,この場合でも,「法令」が略称に含まれる点は変わりません。