はじめに
50,000アクセス突破記念企画の第2弾として,「第」について書きたいと思います。税法は,たぶん他の法分野に比べて「第」を使う機会がそこそこ多い方だと思うのですが,そのことを含めて書きます。
基本的に「第」はあまりつけない
去年,下記の論文を書きました。こちらの記事に書いたとおりです。
この論文ですが,どのような雑誌に載ったかというと,正式名称としては「青山法学論集第61巻第4号」ということになろうかと思います。実際,上述の記事に写真を載せた表紙にはそのように記載されています。ただ,実際に引用するときは,「青山法学論集61巻4号」と引用することが多いかと思います(少なくとも私はそうしています)。「第」を省略しても意味が通りますし,字数が短く済むからです。
文章を書くとき,基本的に「第」は省略してもよいと考えられています。たとえば,判例の登載誌についても,正式名称は「民集第○○巻第○○号」などなのでしょうけれど,この「第」は省略して書く人が多いと思います。また,ページ数についても,「第○○頁」と書くべきなのかもしれませんが,第は省略することが多いだろうと思います。
「第」をつけることが多いように感じる場合
ただ,「第」を省略しても構わないように思うのに,つけることが多いように感じる場合があります。
まずは,書籍の版です。たとえば,下記の書籍は,三木義一編著『よくわかる税法入門[第15版]』と引用する場合が多く,三木義一編著『よくわかる税法入門[15版]』とはあまり書かないように思います。「第」まで含めて書籍名だということかもしれません。
あとは,前回の記事の注1で書いた法律番号です。たとえば,現行の所得税法は「所得税法(昭和40年法律第33号)」であり,この「第」はあまり省略しないように感じます。これはなぜなのか,個人的には良くわかっていません(理由がわかる人がいたら教えてください)。
「第」をつける必要がある場合
上述のとおり,法律番号には「第」をつけることが多いのですが,条文を表記する際には原則として「第」を省略しても良いと考えられていると思います(白石忠志先生の下記動画を参照)。
たとえば,所得税法36条1項は「所得税法(昭和40年法律第33号)第36条第1項」という正式名称になろうかと思うのですが,「所得税法36条1項」と書くこともある,ということです(少なくとも私はこう書きます)。ただし,例外として,条文を表す際に「第」をつける必要がある場合があります。それは,条文に枝番号が付されている場合です。
枝番号について
枝番号についても,白石先生の下記の動画が参考になります。
枝番号は,法律改正によって条文を付け足す場合に,条文の数字がズレることを防ぐために使われるものです*1。白石先生が強調していますが,付け加えられるのは新たな条文であり,従来のものに付属する条文ではありません。
たとえば,所得税法44条は下記のような条文です。
(移転等の支出に充てるための交付金の総収入金額不算入)
第四十四条 居住者が、国若しくは地方公共団体からその行政目的の遂行のために必要なその者の資産の移転、移築若しくは除却その他これらに類する行為(固定資産の改良その他政令で定める行為を除く。以下この項において「資産の移転等」という。)の費用に充てるため補助金の交付を受け、又は土地収用法(昭和二十六年法律第二百十九号)の規定による収用その他政令で定めるやむを得ない事由の発生に伴いその者の資産の移転等の費用に充てるための金額の交付を受けた場合において、その交付を受けた金額をその交付の目的に従つて資産の移転等の費用に充てたときは、その費用に充てた金額は、その者の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しない。ただし、その費用に充てた金額のうち各種所得の金額の計算上必要経費に算入され又は譲渡に要した費用とされる部分の金額に相当する金額については、この限りでない。
この条文の次の条文は,下記の所得税法44条の2です。平成26年度税制改正(平成26年法律第10号)で付け加わりました。
(免責許可の決定等により債務免除を受けた場合の経済的利益の総収入金額不算入)
第四十四条の二 居住者が、破産法(平成十六年法律第七十五号)第二百五十二条第一項(免責許可の決定の要件等)に規定する免責許可の決定又は再生計画認可の決定があつた場合その他資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合にその有する債務の免除を受けたときは、当該免除により受ける経済的な利益の価額については、その者の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しない。
(2項以下略)
この2つの条文は,収入金額に関する定めであるという意味では関連性はあります。ただし,44条の2は44条の付属物ではなくて,別個のことを規律しているものです。
良くあるのは,下記の私の呟きのとおり,枝番号を項と誤解する,つまり上述の例でいえば「44条の2」を「44条2項」と誤解してしまうことです。44条の2は44条2項とは別の条文であり,これは明らかな誤りになります。そもそも,所得税法44条に2項はありません。
通達の読み方がTLで話題だけれど、関連して、枝番号を項と勘違いして(e.g. 44条の2を44条2項と解して)レポートを書いている学生が今年度は散見されて、どう防げばいいのかなぁ、と思ったところ。枝番号って学生には馴染みがなかったりもするのだろうか。
— 藤間大順(FUJIMA Hironobu) (@taxfujima) 2021年3月13日
枝番号付きの条文の後ろは「第」をつけて書く
枝番号の説明が長くなりましたが,枝番号付きの条文を表す場合,それ以外の箇所で「第」を省略していても,「第」を付すことが必要になることがあります。
たとえば,「所得税法44条の2」の「2項」を表す場合です。この場合,まず正式名称は「所得税法(昭和40年法律第33号)第44条の2第2項」になると思います。ここから法律番号と第を全て省略すると,「所得税法44条の22項」となります。この表記だと,「44条」の「22項」なのか,「44条の2」「2項」なのか,わかりにくくなってしまいます。
「44条の22項」は,「の」が枝番号を指すことを前提とすれば,「44条の2」「2項」であることを判別することは(非常に不親切にせよ)可能ではあるかもしれません。しかし,枝番号や後ろの項などの番号が2桁になると,判別が全くつかなくなってしまいます。たとえば,「地方税法(昭和25年法律第226号)第72条の21第2項」について「地方税法71条の212項」としてしまうと,「地方税法71条の2」「12項」なのか,「地方税法71条の21」「2項」なのか,区別がつきません。
以上のような観点から,通常の条文は「第」を省略していても,枝番号付きの条文の後ろには「第」を付します。つまり,「所得税法44条の2第2項」,「地方税法71条の21第2項」と書く,ということです。枝番号に関する白石先生の上記の動画でも触れられています。
統一性がないようにも感じるか?
もっとも,大学院の頃,「『第』をつけたりつけなかったり,統一感が無いようには感じないか?」と聞かれたことがあります。基本的に「第」を省略しつつ枝番号のときだけ付けるのは,誤りというか不適切な表記ではないと思うのですが,感覚として,ということです。もう慣れたのですが,少し不思議に感じたことはあったかもしれないとは思います。
この点,アメリカ法は基本的に条文は数字で書いたうえで,枝番号はアルファベットで付しているので,このような問題は生じません。日本法も,もしかしたら枝番号を数字ではない形で書けばこのような問題は生じなかったかもしれませんが(たとえば「所得税法44あ条」など),それは言っても仕方がないことなのだろうと思います。
あとは,地方税法を上で引用しましたが,税法は基本的に毎年改正されていて改正頻度が多いので,枝番号も必然的に増えてくるのだろうと思います*2。枝番号の枝番号もあります(e.g. 租税特別措置法28条の2の2)。したがって,税法に関して文章を書く際は,このあたりを気にする必要がある場合も多いだろうと思います。
おわりに
以上,「第」についてまとめてみました。枝番号付きの場合は「第」が付くよ,という話が一番メインですが,この点は(白石先生の動画をはじめ)ある程度知られていることなので,少し射程を広げて,色々なことについて書いてみました。ご参考になれば幸いです。
(2021/7/30追記)
「法律番号の『第』はあまり省略しない」と書きましたが,金子宏先生の『租税法』は法律番号の「第」を省略している旨のご教示をいただきました*3。ありがとうございます。
*1:ズラすべきではない理由は色々とありますが,二度手間を防ぐ,という説明がわかりやすいと思います。たとえば,○○法13条に「9条に規定する~」という記述があったとしましょう。そして,○○法3条のうしろに条文を付け足すことになったとしましょう。このとき,4条として付け加えてしまうと,旧9条が10条にズレますから,①4条を新たに加えることにくわえて,②13条の「9条」を「10条」に改正する,という2つの手間が必要になります。一方,3条の2として付け加えれば,②の手間が要らなくなります。
*2:なお,令和3年度税制改正(令和3年法律第11号)で所得税法9条1項に新しい条文が加わったのですが,枝番号を使わずに16号に加わりました。これに伴って後ろの条文がズレてしまったので,私のこの論文のタイトルが良くわからないものになってしまいました。悲しい。今後は論文などのタイトルに条文の数字は入れないようにしようと思います。なお,この改正については,こちらを参照。悲しがっているだけで,改正自体については賛否を述べていません。
*3:たとえば,金子宏『租税法[第23版]』(弘文堂,2019年)68頁には,「税制改革法(昭和63年法律107号)」,「消費税法(昭和63年法律108号)」などの記載があります。