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税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。概ね1回/月の更新を目標としています。

第二東京弁護士会税法研究会および租税訴訟学会共催の租税判例研究会で報告しました。

 昨日,第二東京弁護士会税法研究会および租税訴訟学会が共催する租税判例研究会が行われ,私が報告しました。私は霞が関の弁護士会館から報告し,参加者は対面またはZoomで参加していました。
 テーマは「相続で承継した債務の和解による消滅と債務免除益課税:東京地判令和5年3月14日の検討」というもので,今年3月に出た裁判例*1を素材として報告しました。下記のとおり,以前判例研究をTAINSだよりに投稿した裁判例です。下記記事に,当該判例研究のpdfファイルも置いています。

taxfujima.hatenablog.com

 今回の報告では,上記の判例研究の内容をまとめるとともに,当該判例研究では論じなかった論点として「そもそも当該事案で債務免除益課税が行われるべきだったのか」という点(判決でいう争点(1))を議論したうえで,私の判例研究が出た後で公刊された判例評釈*2についても言及しました。争点(1)については,債務免除益課税が行われるべきことを当然の前提として議論がされているが,債務免除益の課税理論の観点からは疑問がある点を述べました*3。争点(1)については,裁判所は事実認定の話しかしておらず,その妥当性を論じるには判決文からかなり離れた議論をせざるを得ないので「判例研究」として論じるのが非常に難しいのですが,判決文から明らかな点だけでも,納税者が債務を負った時点に利益を得ているかという観点から疑問があると論じました。
 和解と課税リスクの問題ということで*4,法務実務に深く関わるものであることもあってか多くの質問をいただき,議論が大いに盛り上がりました。私の議論の暗黙の前提としている点に気づかされたほか,新たな視点をたくさんいただきました。特に,この事件について判例評釈を書かれている立正大学の長島弘先生もZoomから研究会に参加してくださり*5,私が長島評釈について報告で疑問を呈したところについて応答していただいて,とても楽しい議論ができました*6
 (メインは)弁護士の先生方の前で裁判例について報告するということでいささか緊張していたのですが,白熱した議論ができた大変に貴重な機会になりました。お招きくださった第二東京弁護士会税法研究会および租税訴訟学会の方々,特に様々にご尽力くださった弁護士の吉田正毅先生*7,心から感謝を申し上げたいと思います。この事件は未確定ですので,いただいた示唆を活かして,今後とも議論を深めていきたいと思います。

*1:東京地判令和5年3月14日(判例集等未搭載,LEX/DB文献番号25595840)。

*2:伊川正樹「判批」税務QA258号(2023年)53頁,池本征男「判批」国税速報6771号(2023年)22頁,奥谷健監修=中尾隼大「判批」月刊税務事例55巻8号(2023年)100頁,木山泰嗣「判批」税理66巻14号(2023年)120頁,木山泰嗣「判批」税経通信78巻13号(2023年)179頁【以下「木山評釈」】,品川芳宣「判批」TKC税研情報32巻4号(2023年)20頁,長島弘「判批」月刊税務事例55巻11号(2023年)17頁参照。なお,品川芳宣「判批」T&Amaster982号(2023年)23頁については,判例研究を執筆する段階で公刊済だったので,判例研究で引用しています。

*3:なお,この点,木山先生は,私のTAINSだよりの判例研究を「本件に債務免除益課税が生じることは妥当と評価する」ものとして位置付けています(木山評釈・前掲注(2)179頁,189頁参照)。しかし,争点(1)に関する判示や当該事件において債務免除益課税がされることは妥当だ,とは一言も判例研究では述べていません。「債務免除益の課税理論の観点からは,むしろ争点(1)について議論することが有益かもしれないが,本稿の関心からは外れるため,今後の検討課題としたい」(10頁),「所得税の世界ではAの死亡時に債務が存在していたものとされた一方,相続税の世界では債務が存在していなかったものとされている,と考えると不合理であるようにも思われる……この点については,今後の検討課題としたい」(12頁)として,むしろ今後の検討課題として明示していたところです。したがって,木山評釈は私の文章が明示していない態度を明示しているものと誤読したものであって,TAINSだよりの判例研究と今回の報告は相反するものではないと私は捉えています。木山先生からは公刊前に当該評釈の原稿を見せていただいていて,その際にも「それは誤読です」と申し上げていたにもかかわらず,このように引用されてしまったことを大変残念に感じています。なお,木山先生は私の博士論文の副査ですし,博士後期課程在学中にずっとお世話になってきた方ですし,現在でも色々とお仕事をいただいてお世話になっていて,感謝の念を常に抱いていることを最後に付記しておきます。こちらこちらの記事など,書籍も折に触れてくださっています。

*4:なお,この問題についてまとめた書籍としては,三木義一監修=馬渕泰至編著『和解・調停条項と課税リスク』(新日本法規,2013年)があります。

*5:長島・前掲注(2)参照。

*6:長島先生は五反田の立正大学から参加されていたそうなのですが,なんと研究会終了後に霞が関までかけつけてくださり,懇親会の席でも「延長戦」の議論をしました。長島先生には日本税法学会関東地区でお世話になっているので日頃から感謝の念は抱いているのですが,改めて私のような未熟者との議論を楽しんでくださることに感謝申し上げるとともに,フットワークの軽さもすごいな,と感じています。

*7:吉田先生には,神奈川大学大学院法学研究科で租税手続法の非常勤講師としてもお世話になっています。