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税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。概ね1回/月の更新を目標としています。

輸出物品販売場制度(いわゆる免税店制度)の抜本的改正に向けた議論の整理

はじめに

 以前,下記のとおりに,輸出物品販売場制度(いわゆる免税店制度)について研究ノートを投稿しました。

taxfujima.hatenablog.com

doi.org

 こちらの研究ノートでも「制度全体を見直す必要があるのではないか」*1と論じたのですが,後述するように,令和7年度税制改正で見直すような方向性の立法がされることになりそうです。
 そこで,この記事では,制度の見直しについて言及した主な文献や資料をまとめておきたいと思います*2。また,上述の研究ノートのブログ記事に研究ノートが出た後の新聞報道をまとめていますが,今後はこちらの記事の追記として書きます。

宮川(2010)

 輸出物品販売場制度に関する制度の見直しについて言及した文献としては,上述の研究ノートでも引用しましたが,2010年に税務大学校研究部教授だった宮川博行氏が税務大学校論叢64号で発表した「消費税の免税制度に関する一考察」が挙げられます。

www.nta.go.jp

 この論文は,諸外国の制度もふまえて詳細に検討をしているものであり,輸出物品販売場制度について論じるにあたっての必読文献と言ってよいと思います。この論文の主張として,以下のように,制度を見直す必要があると論じられていました*3

 我が国の輸出物品販売場制度は,今までの考察のとおり,いくつかの憂慮される問題点を抱えている。その中でも,現行法における制度の担保については実効性に乏しく,また,税関における「購入記録票」の回収も難しいという点に関して,例えば,購入者による横流しが行われた場合に,その事実を把握することも困難であることが懸念され,最後の砦である税関でのチェックも働かないことも懸念されるなど,制度の担保及び税関でのチェック機能の面での弱点が最も憂慮すべき点であると思われる。我が国が採用する免税方式は,ある意味では,事業者や外国人旅行者等の信頼を前提にした制度である。その免税方式を採用する我が国の輸出物品販売場制度にとって,制度の担保や税関でのチェックは生命線であり,この点で懸念材料があるとすれば,制度の見直しが当然に必要である。
 輸出物品販売場制度が我が国の観光政策の一環の施策であるということのほか,外国人旅行者等に対する便宜,又はこれらの者と取引する事業者の販売戦略用のツールといった側面があるものという同制度の性格を踏まえると,当局側が事後に免税の手続が確実に行われたことの確認や是正することが難しく,適正な運用に不安のある制度にとどまることの必要性を見出すことができない。
 また,輸出物品販売場を経営する事業者にとっても,非居住者の判定や免税対象物品の範囲については,前述のとおりその判断に難しい面があり,後の調査において判断誤りを指摘されるというリスクを常に負っている状態が続いているともいえる。仮にこのような誤りを指摘された場合においても,取引相手が既に出国しているなど回収することは困難な場合が多いと想定される。このような事業者がリスクを負っている状態を解消し,確実に事業者が責任を負える制度に改善していくことも必要な措置であると考えられる。
 以上のことから,外国人旅行者等が輸出したことの確認ができて,はじめて免税とされる制度へ,つまり,還付方式への転換を行う必要があると考えられる。

政府税調答申(2023)

 以上のように,従来から制度の見直しは提言されていたのですが,研究ノートでまとめたとおり*4,制度の悪用が蔓延していることが近時明らかになってきました。この状況については,2023年6月に公表された政府税調の答申でも問題視されています。pdfへのリンクはこちらです。具体的な記述は下記のとおりです*5

 近年,外国人旅行者数の拡大にあわせて輸出物品販売場(いわゆる免税店)が大幅に増加してきた中,旅行者向けの免税販売制度が不正に利用されている例が見受けられます。特に,令和2(2020)年4月から,輸出物品販売場による免税販売手続が電子化され,税務当局において購入記録情報をデータで把握することが可能となったことにより,国内で商品の横流しがされていると疑われるような免税販売・購入の実態がより明らかになってきています。こうした事例に対応するため,令和5年度税制改正では,免税購入された物品が国内で譲渡された場合に,当該物品につき免除された消費税額に相当する消費税について直ちに徴収(即時徴収)する際の対象者の見直しが行われています。
 なお,諸外国においては,外国人旅行者向けの免税制度として,課税で販売し,事後的に還付を行う「リファンド方式」が広く採用されています。このリファンド方式については,免税制度の悪用を抑止する観点から優れているとの指摘もある一方,事後的に還付をするための手続が生ずるほか,リファンド方式を導入する際に,事業者や行政機関においてシステム改修等のコストが生ずるといった課題も指摘されています。外国人旅行者向けの免税制度については,引き続き免税販売の実態を踏まえ,どのような対応が考えられるかを検討していくことが重要です。

令和6年度税制改正大綱(とその前提となる要望)

 以上のような状況と並行して,令和6年度税制改正に向けて,国土交通省から「訪日外国人旅行消費額の更なる増加に向けて,外国人旅行者の利便性向上や免税店事業者の手続きの簡素化,国内における転売目的利用による不正対策等に資する外国人旅行者向け消費税免税制度のあり方について検討を行う」という要望が提出されています。pdfファイルのリンクはこちらです。
 この要望にもとづき,令和6年度税制改正でも,輸出物品販売場制度について記述があります。

www.jimin.jp

 具体的な記述は以下のとおりです*6

 外国人旅行者向け免税制度は,平成26年度税制改正以降,免税対象に消耗品を加えるなどの大幅な制度の見直しにより,免税店数の拡大と外国人旅行者の利便性向上を図り,インバウンド消費拡大の重要な政策ツールとなってきた。観光立国の実現に向けて,引き続き,本制度の活用を推進していくことが肝要である。
 他方で,足下では多額・多量の免税購入物品が国外に持ち出されず国内での横流しが疑われる事例が多発している。また,出国時に免税購入物品を所持していない旅行者を捕捉し即時徴収を行っても,その多くが滞納となり,本制度の不正利用は看過できない状況となっている。
 こうした不正を排除しつつ,免税店が不正の排除のために負担を負うことのない制度とするため,出国時に税関において持ち出しが確認された場合に免税販売が成立する制度とする。実務的には,免税店が販売時に外国人旅行者から消費税相当額を預かり,出国時に持ち出しが確認された倍に,旅行者にその消費税相当額を返金する仕組みとなる。新制度の検討に当たっては,外国人旅行者の利便性の向上や免税店の事務負担の軽減に十分配慮しつつ,空港等での混雑防止の確保を前提として,令和7年度税制改正において,制度の詳細について結論を得る。
 さらに令和6年度税制改正においても,横流しされた免税購入物品と知りつつ仕入れた場合に,その仕入税額控除を認めないこととする措置を講ずる。

 外国人旅行者向け免税制度については,制度が不正に利用されている現状を踏まえ,免税販売の要件として,新たに政府の免税販売管理システムを通じて取得した税関確認情報(仮称)の保存を求めることとし,外国人旅行者の利便性の向上や免税店の事務負担の軽減に十分配慮しつつ,空港等での混雑防止の確保を前提として,令和7年度税制改正において,制度の詳細について結論を得る。
(注)上記の「税関確認情報(仮称)」とは,免税店で免税購入対象者が免税購入した物品を税関長が国外に持ち出すことを確認した旨の情報をいう。

 具体的な制度設計については令和7年度改正に持ち越しということになったようですが,基本的な考え方を示しています。

おわりに:若干のコメントをふくめて

 令和6年度税制改正大綱が述べる「免税店が販売時に外国人旅行者から消費税相当額を預かり,出国時に持ち出しが確認された倍に,旅行者にその消費税相当額を返金する仕組み」,いわゆる還付方式への転換は,2010年の宮川論文も述べるとおり,以前より必要なものと考えられていたように思います。令和7年度改正に向けて議論が進展することが期待されます。
 もっとも,この点を論じるにあたっては,私の研究ノートで指摘しましたし*7,大綱も述べるとおり,免税店を経営する事業者の事務負担が重要な考慮要素の1つとされるべきように思います(税制改革法(昭和63年法律第107号)10条2項後段も参照)。たとえば,免税店を経営する事業者が適格請求書(消費税法(昭和63年法律第108号)57条の4第1項,いわゆるインボイス)を発行して,それを非居住者が空港で提出することによって還付を受ける方式が考えられますが*8,専ら消費者向けの商品販売のみをしている者には適格請求書発行事業者として登録していない事業者もいるでしょうから,免税店を営むためには登録が必要であるとすると,適格請求書を発行する事務負担という意味では評価が難しいところもありそうです。もっとも,還付証明書を発行するような制度だと*9,現行制度と同じく事業者には相手が非居住者か確認する手間がありますから,こちらの方が事務負担という意味ではむしろ大変だろうという議論もありえます。
 いずれにせよ,令和7年度改正に向けて,今後とも議論を注視していきたいと思います。また新たな報道や議論を観測したら,「はじめに」に書いたとおり,この記事に追記します。

追記(記事を書いた後の報道など)

(2023/12/25追記)
 下記の報道がありました。

www.yomiuri.co.jp

(2023/12/31追記)
 下記の報道がありました。

www.sankei.com

www.sankei.com

(2024/1/1追記)
 下記の報道がありました。

www.yomiuri.co.jp

(2024/2/6追記)
 下記の報道がありました。

www.yomiuri.co.jp

(2024/2/21追記)
 下記の報道がありました。

www.sankei.com

*1:拙稿「輸出物品販売場制度(いわゆる免税店制度)に関する近時の改正とその分類および若干の評価」神奈川法学55巻3号(2023年)202~203頁。

*2:なお,現行制度の下での問題と対策を議論した文献として,岩品信明「消費税の免税制度の悪用への対策」税務弘報71巻10号(2023年)71頁参照。

*3:宮川博行「消費税の免税制度に関する一考察」税務大学校論叢64号(2010年)192~193頁。

*4:拙稿・前掲注(1)181~182,203頁参照。研究ノートが出た後の報道については,こちらのブログ記事にまとめています。

*5:税制調査会「わが国税制の現状と課題」(内閣府ウェブサイト,2023年)162頁。

*6:自由民主党=公明党「令和6年度税制改正大綱」(自民党ウェブサイト,2023年)23,95頁。

*7:拙稿・前掲注(1)203頁参照。

*8:宮川・前掲注(3)197頁参照。オーストラリアなどが採用している制度として紹介されています。

*9:宮川・前掲注(3)196頁参照。EU諸国が採用している制度として紹介されています。