What Do We Pay for Civilized Society?

税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。概ね1回/月の更新を目標としています。

日本租税理論学会研究大会

 一昨日および昨日(10/22,23),日本租税理論学会の研究大会に参加しました。対面とオンライン(Zoomミーティング)の併用で,名城大学の伊川正樹先生を幹事として行われました。私は対面で参加しました。

 一昨年参加した際の記事として,下記参照。昨年も参加はしましたが,学務との関係で2日目に参加できなかったので,ブログ記事にはしませんでした。

taxfujima.hatenablog.com

 今回の大会では,3件の一般報告,それに6件のシンポジウム報告が行われました。シンポジウムの統一テーマは「雇用・教育と税制」でした。詳しいプログラムは,下記の日本租税理論学会ウェブサイトを参照。

j-ast.sakura.ne.jp


 まず,1日目は,一般報告が3件行われました。
 1件目として,名古屋税理士会所属の税理士である河合基裕先生が,「配偶者居住権をめぐる課税上の問題と考察~相続開始前に賃貸借契約があった場合の一考察~」と題する報告をされました。民法改正で創設された配偶者居住権について,所得の帰属などの議論にどういった影響がありうるのか議論されていました。
 一般報告の2件目としては,帝京大学の𠮷田貴明先生が,「特別会計の創設と財政民主主義」と題する報告をされました。閣議で創設する方針が決まった「こども金庫」を素材に,特別会計の統制のあり方を議論されていました。
 一般報告の3件目としては,日本銀行の小森将之先生が*1,「フォワードルッキングな貸倒引当金の損金算入可否に関する検討」と題する報告をされました。法人税法上の貸倒引当金につき,引当てを判断する要素を拡大すべきだと主張されていました。倒産処理と税制という領域や議論の仕方など個人的に大変興味深く,その後の質疑応答の時間で質問をしました*2

 1日目は,その後,シンポジウム報告が4件行われました。
 1件目として,青山学院大学の大城隼人先生が,「デジタルノマドと税制~越境テレワーカー課税~」と題する報告をされました。人が国境を越えて働くことが珍しくなくなってきている現状が国際課税に突き付けている課題について議論されていました。
 2件目として,環太平洋大学の本村大輔先生が,「ギグワーカーと所得課税・消費課税」と題する報告をされました。以前このブログでもこちらの記事で取り扱った事業所得と雑所得の区別に関する通達改正や,適格請求書等保存方式が導入されたことを素材に,ギグワーカーが現在直面している税制上の問題について整理されていました。
 3件目として,旭川市立大学の武田浩明先生が,「副業/兼業収入に係る会計処理について」と題する報告をされました。2件目の本村先生と関心としては重なるところもありましたが,税務会計学の観点から,記帳処理ということを重視して議論をされていました。
 4件目としては,米国税理士であり青山学院大学大学院法学研究科非常勤講師である成田元男先生*3,「米国における雇用・教育関連の税額控除制度に関する一考察」と題する報告をされました。日本では専らEITCが参照されがちな米国の給付付き税額控除制度について,実はかなりの種類があることを論じたうえで,3種類のもの(EITC,AOTC,ERC)を取り上げて,日本への導入可能性について議論されていました。2日目の質疑応答において,特にAOTCの立法趣旨の日本での通用可能性について私から質問しました。

 2日目は,シンポジウム報告が2件行われました。
 まず,シンポジウム報告の5件目として,東京地方税理士会所属の税理士であり千葉商科大学非常勤講師である石川緑先生*4,「教育、子育てと税制~女性活躍社会を見据えた租税制度の在り方~」と題する報告をされました。日本において男女平等が進んでいないことを問題視したうえで,その状況に対して税制ができることを議論していました*5
 シンポジウム報告の最後として,熊本学園大学の岩武一郎先生が,「教育事業への経済支援における税制の問題点~寄附金の所得税、法人税での取扱いを中心として~」と題する報告をされました。個人や法人が大学などに寄附をした場合の取扱いにつき,現行制度の問題点を論じたうえであるべき施策を議論されていました。その後の質疑応答の時間において,現物資産の寄附を優遇すべきかという点を私から質問しました*6

 今回の学会もとても充実したもので,大変勉強になりました。開催にあたってご尽力くださった学会の先生方,報告者の皆さま,名城大学の皆さま,誠にありがとうございました。
 教育と税制については,下記のように私もこれまで論文を書いてきたので,関心を持っています。今回の学会で得た示唆を活かして,今後とも研究していきたいと思います。

taxfujima.hatenablog.com

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*1:小森先生が以前書かれた論文としては,第27回租税資料館賞を受賞された「ビットコイン型仮想通貨のマイニングに係る税法上の諸問題について―所得税法・消費税法の観点から―」を参照。

*2:事前に質問票を出さずに,当日その場で質問をしてしまいました。小森先生,ご回答くださり,誠にありがとうございました。

*3:成田先生は,アメリカ税法研究会で長くお世話になっています。アメリカ法について常に色々と議論してくださっています。

*4:石川先生は,以前,私の学部ゼミにゲストスピーカーとしていらしてくださったことがあります。こちらの記事を参照。今後とも色々とお世話になる予定でいます。

*5:なお,質問票を「時間がなければ飛ばしてください」と付記して出していましたが,時間の都合上質疑応答で取り上げていただくことはかないませんでした。ただ,学会終了後に石川先生から個別にご回答いただきました。石川先生,お疲れのところご対応くださり,誠にありがとうございました!

*6:なお,こちらの論文で,私は以前現物資産の寄附の所得税における取扱いについて論じたことがあります。