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税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。概ね1回/月の更新を目標としています。

日本税法学会大会&第08回関西租税法若手研究会@那覇市

 先週(8/10~11),日本税法学会の大会に参加して参りました。また,8/12(日)には,関西租税法若手研究会にも参加して参りました。
 当該大会は,日本税法学会の長い歴史の中で初めて沖縄地区で開催された大会でした。沖縄地区の先生方,お骨折りくださり,ありがとうございました。また,関西租税法若手研究会も沖縄県那覇市で開催されました。主催の小塚先生および奥さま,企画してくださり,ありがとうございました。
 8/9に東京から出発,8/12に沖縄から帰京したのですが,いずれも台風が迫る中,何とか無事に飛行機が飛び,安心しました。

 日本税法学会の今回の大会のシンポジウムは,「近時の所得税等をめぐる法的諸問題」と題し,所得税をめぐる様々な問題について報告および議論が行われました。
 酒井先生は,「所得税法上の所得区分の在り方」と題し,所得税法上の所得区分のあり方について立法的提言をされていました。酒井先生は,所得区分の問題について,既に数多くの論文を執筆されています。その業績を活かした,非常に重厚なご報告でした。所得区分(私は「所得分類」と呼称しています)の問題については,個人的に関心を持っている分野の1つであり,非常に興味深く拝聴しました。
 野口先生は,「扶養控除のあり方」と題し,扶養控除のあり方について,近時の人的控除制度の改正と絡めて議論をされていました。人的控除については,平成29年度税制改正で配偶者控除および配偶者特別控除,平成30年度税制改正で基礎控除について改正が行われるなど,活発に改正が行われています。扶養控除制度について改正を行うべきか,行うならばどのような見地から検討すべきかという点について議論されていました。
 八ツ尾先生は,「高齢社会と税のあり方」と題し,年金課税等の点について,様々な見地から議論をされていました。高齢化社会と税のあり方については,日税研論集72号で特集が組まれるなど,議論が今後とも行われていくべき分野です(広く見れば,世代間公平と税の関係,という問題になるのでしょうか)。多角的な検討で,大変勉強になりました。

 日本税法学会では,個別報告も行われます。
 まず,1日目(8/10)は,田中先生が「所得の年度帰属」と題し,所得の年度帰属についての権利確定主義の考え方をどのように解すべきか報告されました。田中先生は,以前も所得の年度帰属について論文を発表されていて(「収入実現の蓋然性と収入金額の年度帰属」),それから続く報告でした。権利確定主義の意義内容,というのは,私法との関係を含め個人的に良くわかっていないところもあり,非常に勉強になりました。
 また,2日目(8/11)は,木村先生が「源泉置換規定についての一考察」と題し,所得税法上の源泉置換規定の解釈上の問題について報告されました。木村先生は,『租税条約入門』を執筆されている,国際税務のスペシャリストの弁護士の先生です。租税条約に定められたソースルールと日本法上のソースルールの優先適用の問題について,非常に緻密に解釈論を検討されていて,大変勉強になりました。

 税法学会終了後,8/12に行われた関西租税法若手研究会では,3本の報告が行われました。
 まず,安井先生が,大阪経大論集に発表された論稿(「非居住者から国内不動産を購入した者の源泉徴収義務 」)について報告されました。この問題については,以前木山先生の報告を拝聴したことがあります(このブログにも書きました)。個人的には,立法の欠缺の問題なのかな,と考えているのですが,改正が行われる気配もないので,今後とも議論が行われていくであろう分野です。当該規定の趣旨目的(所得の把握が主目的なのか,所得税の徴収が主目的なのか)という点から立法論を視野に入れた議論をすべき分野だと個人的には考えています。
 その後,税法学会の個別報告に続き,田中先生が報告されました。税法学会の報告から連続する問題で,非常に勉強になりました。
 最後に,私が,9月に発表予定の論稿について報告しました。未発表の論稿ですので,詳細は省きます。報告の機会を賜り,誠にありがとうございました。今後の研究の進め方について示唆をいただく,大変勉強になる機会でした。

 研究はもちろん,様々な諸先生方,諸先輩方とお話しする機会にも恵まれた,大変充実した出張でした。お構いいただいた皆さま,本当にありがとうございました。D3の切羽詰まった状況で頑張る勇気と元気をいただきました。
 短いのですが,こんなところで。

『租税法入門[第2版]』をご恵贈いただきました。

 東京大学の増井先生より,『租税法入門[第2版]』をご恵贈いただきました。増井先生,私のようなしがない大学院生にご著書をくださり,本当にありがとうございます。とても光栄です。


(以前も書きましたが,私は写真を撮るのが下手なようです。あまり見栄えが良く見えない場合,申し訳ありません。)

 出版社のページはこちら↓
www.yuhikaku.co.jp

 増井先生は,言わずと知れた税法学の大家の先生です。この本は,有斐閣が発行している法学教室という雑誌に連載された原稿をもとに加筆修正してできた書籍です。初版の出版時に「所得税(個人所得税と法人所得税の両者を含む講学上の意味での所得税)の理論は,将来,この著書以前とこの著書以後との2つに分類されることになるであろう」*1と述べられているなど,一般的に高い評価がされていると思います。
 個人的にも,増井先生のご論稿を引用する機会は(所得課税を専門分野としている以上当たり前ですが)とても多いです。この本の初版は私が博士前期課程に入学した頃に発行されて,繰り返し読んで勉強しています。論文でも,何度も引用しています。基礎的かつ素朴な理論的基底から先端的な議論までとても丁寧に繋いでまとめてくださっていて,読む度に非常に勉強になります。
 また,研究科のM1の後輩たちには,毎年,夏休みに入門書から少し進んだレベルの(修士論文での検討に繋がるような)本を読むことを勧めています。その際,この本を毎回挙げています。

 今回の改訂は,税法学の最新の業績(例えば,昨年発刊された『現代租税法講座』(日本評論社))や最新の裁判例(例えば,馬券札幌事件上告審判決(最判平成29年12月15日))を反映しつつ,「Part 04 展開」に3つの章を追加しています。このことにより,「一歩先の学習にも役立つものに進化」*2した書籍となっています。
 いただいた本を読んで今後の研究に活かしたいと思います。また,後輩たちにも,ぜひこの夏に読むことを勧めたいと思います。増井先生,繰り返しになりますが,本当にありがとうございました。

*1:志賀櫻『タックス・オブザーバー』(エヌピー新書,2015年)210頁。

*2:増井良啓『租税法入門[第2版]』(有斐閣,2018年)i頁。

アメリカ税法研究会

 先月,アメリカ税法研究会という企画が再始動し,私もメンバーとして加わった旨をこのブログに書きました。
taxfujima.hatenablog.com

 今日,当該研究会の第2回が行われました。弊学名誉教授の中村先生より,米国の慈善寄附控除制度(内国歳入法典§170)について,(金銭以外の)現物資産の寄附に専ら着目して報告がされました。日本の現物資産の寄附に関する非課税制度(租税特別措置法40,70条)との比較検討もされていました。
 当該テーマは,2年前の第一次研究会で扱っていたものです。今回の中村先生のご報告は,第一次研究会の集大成として行われたものでした。日米の寄附文化の違い等にも話が及ぶ,大変興味深いテーマです。今の私の研究テーマ(債務免除益課税)からは若干遠いテーマではあるのですが*1,今後とも関心を持っていきたいテーマです。

 新たな参加者の方々も加わってくださり(ありがとうございました!),議論が活発に行われる,とても刺激的な研究会でした。とても勉強になりました。
短いですが,こんなところで。

*1:とはいえ,無関係ではないかな,とは思っています。日本の現物資産の寄附については,奨学金事業を絡めてスキームを組む場合が多いと聞いています。一方,私は以前の論稿で奨学金の返済減免に伴う債務免除益の課税問題について書きましたが(こちらの記事参照),平成29年度改正で,奨学金の返済減免制度を緩やかに構築できるように税制上の措置が講じられたことを当該論稿では扱いました。このように,奨学金事業を(意図してなのか結果的になのかはわかりませんが)促進しているという意味では,現物資産の寄附に関する税制と債務免除益課税に関する近時の議論は絡み合う点もあるのかな,とは思っています。

第6回若手法学研究者フォーラムの集い

 昨日,ぱうぜ先生主催の第6回若手法学研究者フォーラムの集いに参加して参りました。
 当該フォーラムについては,ぱうぜ先生が下記ブログ記事で紹介されています。僭越ながら,私のコメントも引用していただいています(ありがとうございます!)。
kaffeepause-mit-ihnen.hatenablog.jp

 また,昨年行われた第5回集いについては,当ブログに書きました。↓
taxfujima.hatenablog.com

 今回の「集い」では,研究報告が2本行われました。また,そのまま連続的に研究ハックフォーラムの集いに突入しました。
 まず,研究報告として,大阪経済大学の漆先生のご報告がありました。未定稿かと思いますので詳細は省きますが,国際課税の局面において,税法と行政法が交錯する,非常に興味深い問題関心に基づく報告をしてくださいました。
漆先生とは様々な場所でご一緒する機会があり,報告も何度か拝聴したことがあるのですが(例えば,昨年の租税法学会など),毎回異なったテーマについてクリティカルな報告をされていて,「私もあのような報告をしてみたい」といつも思います。今回も,税法の中でも先端的なテーマでありながら,(様々な法分野の専門家が集まっている)本フォーラムの出席者と議論したいフィールドを適切に設定し,活発な議論を惹起されていました。
 次に,一橋大学大学院法学研究科修士課程の森勇斗さんより,民法上の錯誤無効に関する報告がありました。
森さんは,学部は弊学法学部出身で,民事法の研究者を目指して一橋の法学研究科に進学された方です。学部時代より,弊学法学会の懸賞論文で入選されるなど,他分野の私にもお名前は聞こえていました。修士1年でありながら卓越した外国法の知識のお持ちで,非常に刺激的な報告でした。

 その後,研究ハックフォーラムでは,わかりやすい報告とは何か,という話題から,科研費の応募等の際の申請書の書き方に話が移った後,知的な生産とは何か,というとても大きな話題まで話が及ぶ,非常に壮大な議論が行われました。とはいえ,本フォーラムの趣旨に沿って,参加者の経験や実感に沿いながら議論が行われて,とても有意義でした。
 何度かこのブログにも書いたことがあるかと思うのですが,私はいつも話や文章がわかりにくいと言われます。その理由ははっきりしていて,骨と肉を切り分けて骨のみを残すことが非常に苦手だからです(とはいえ,それを自覚しているだけ,少しは成長しているのかもしれないとは思っています)。現在,私は学振の特別研究員で,当該身分を得るために申請書を出したのですが,その申請書の執筆にあたっても,この点でとても苦労しました(その際に添削をしてくださった先生方や先輩,同期には多大なご迷惑をおかけしました)。
 今回の研究ハックフォーラムでも同様のことが大事だと学んだのですが,ただ,知的な生産とは何かという普遍的なところまで話が及んだのはとても意外でした。これまで私は,本来ならば複雑な知識を単純化する,いわば,少し質を落として量産したり,本当は綺麗な映像の画質を落とす非本質的な行為として,骨と肉の切り分けを捉えていました。ただ,今回のフォーラムで,むしろ骨と肉の切り分けは知的な生産という営みの本質にも通じることだと思うようになり,とてもすっきりしました。
(わかりやすく書くことが大事だということをわかりにくく書いているかと思うのですが,ご容赦ください。)

 今回の「集い」は,弁護士の吉峯先生が場所を提供してくださいました。吉峯先生,ありがとうございました。また,主催のぱうぜ先生,大変ご多忙の中主催してくださり,本当にありがとうございました。
 最近少し研究のモチベーションが落ちていたのですが(そんなことを言っている場合ではないのですが),今回のフォーラムでとても強いモチベーションをいただきました。暑さに負けず,頑張りたいと思います。

木山ゼミゲストスピーカー

 昨日は,TA先の木山ゼミにゲストスピーカーがいらして講演してくださいました。
 昨年の記事を下に貼っておきます。昨年までは,木山先生とゲストスピーカーの方が話し合って決めたテーマに沿って,ゲストスピーカーの方に話していただく形だったように記憶しています。しかし,今年は,学部生から聴いてみたいテーマを募った上で,当該テーマに沿ってゲストの方に話していただく形でした。
taxfujima.hatenablog.com

 4限は,税理士の池本征男先生がいらして,所得税法について様々な論点をお話ししてくださいました。
 池本先生は,紹介するまでもないかもしれませんが,『所得税法』(税務経理協会)を執筆されている,所得税法のスペシャリストの先生です。指導を受けられた植松守雄先生の後を継ぎ,『注解所得税法』(大蔵財務協会)の改訂にも携わられています。
 今回は,所得税法についての基礎的な考え方について教えていただきたい,という学部生の要望に応じ,近時の税制改正や注目すべき裁判例について概説的にお話ししてくださいました。ただ,基礎的な内容を軸としつつも,ところどころ非常に興味深いお話が飛び出して来て,とても刺激的な講演でした。最前線の実務から理論的な点まで,幅広いお話をしてくださいました。

 5限は,木山先生が客員弁護士を務められている鳥飼総合法律事務所から,弁護士の山田先生および横田先生がいらして,弁護士になるまでのことおよび弁護士になってからのことをお話ししてくださいました。
 弁護士になるまでの過程は,当たり前ですが,お2人とも全く異なりました。ただ,お2人とも,どんなきっかけであれ一度決めた目標に向けて全力を尽くすことが弁護士という職業に繋がっていて,やはり目標に向けて頑張ることが大事なのだなぁ,と実感しました。
 弁護士になられてからのことについては,一言でまとめると「大変そうだなぁ」という感想を持ちました。ただ,お2人とも「これからの弁護士」像のようなものを想定しながら今働かれている旨を話されていました。日々の大変かつ重要な業務をただただこなすのではなく,将来を見据えて働かれている姿がとても印象的でした。
 私がこれから法曹を志すことはあまり考えられないのですが,それでも,とても示唆に富む講演でした。

 いただいた刺激を糧に,研究を頑張りたいと思います。3人の先生方,本当にありがとうございました。