What Do We Pay for Civilized Society?

税法を勉強している藤間大順のBlogです。業績として発表したものについて書いたり,気になったニュースについて書いたり。概ね1回/月の更新を目標としています。

東京地判令和5年3月14日の(2本目の)判例研究を執筆しました。

 先日発行された神奈川法学56巻3号に,拙稿「相続で承継した債務の消滅と債務免除益課税:東京地判令和5年3月14日の争点(1)についての考察」が掲載されました。リポジトリに掲載されるまで,Box経由でpdfファイルを共有します。

kanagawa-u.box.com

 この判例研究は,東京地判令和5年3月14日(判例集等未登載,LEX/DB文献番号25595840)について書いたものです*1。当該判決については,既に下記の判例研究をTAINSだよりに載せたのですが,色々とあったので(詳細は「はじめに:本稿執筆の経緯」をお読みください),TAINSだよりで扱ったものとは別の争点について,今回新たに書きました。

taxfujima.hatenablog.com

 追記に書きましたが,この事件については既に納税者が全部勝訴する控訴審判決が1月に出ています*2。したがって,いわば時機に遅れた判例研究であることは否めません。ただ,あまり判決文に即さずに書いたお行儀の悪い判例研究だったので,結果としては,控訴審判決が出た後もある程度の意味があるものとなっているのではないかな,と思っています。
 この事件は上告されているようなので,今後とも着目していきます。2つの判例研究をご笑覧いただき,何かコメントがあればぜひ賜われれば嬉しいですし,それ以上にこの事件やその背後にある債務免除益課税をめぐる理論的な問題に興味を持っていただけたらとても嬉しく思います。

*1:なお,当該判決の評釈で今回の判例研究の校了後に出たものとして,平野双葉「判批」T&Amaster1009号(2024年)17頁,本部勝大「判批」ジュリスト1595号(2024年)10頁参照。

*2:控訴審判決の評釈として,長島弘「判批」月刊税務事例56巻3号(2024年)18頁参照。長島先生の筆の早さには,いつもながら驚かされます。

神奈川税経新人会集中勉強会

 昨日(4月6日),神奈川税経新人会の月例会(集中勉強会)にて報告の機会をいただきました。

 テーマは「税務行政のDXと税理士制度」で,下記の論文の内容を中心に,今年度新たに取り組みたい議論についても少しだけお話ししました。

taxfujima.hatenablog.com

 税務行政のデジタル化が実際の税務実務にどのような影響を及ぼしているのかなど,様々な点について議論していただき,大変に勉強になりました。昨年の集中勉強会では立命館大学の望月先生をお招きして税務行政のDXと納税者の権利保護の議論をされたということで,税経新人会の先生方も色々な関心をお持ちでした。私のような未熟者をお招きくださり,誠にありがとうございました。

税法を研究する社会人院生にオススメの3つのサブスクサービス

はじめに

 この記事は,院生を指導している教員の立場から,税法を研究する社会人の大学院生の方にオススメの3つのサブスクサービスをご紹介するものです*1。この春から,税理士試験の科目免除などを目的として*2,大学院に進学される社会人の方もいらっしゃると思います。そういった方は,ぜひこの記事を読んで,ご紹介したサービスへのご加入をご検討いただけたらと思います。
 なお,2点付言します。まず,私は後述するサービスをいずれも利用していますが,この記事を書くことで何か利益を受けているわけではありません*3
 それと,大学という場所自体を,私はサブスクサービスを提供する場所と捉えています。授業料や施設利用料を支払う(課金する)ことで,授業を受けられたり学生という身分を得られたりする場所だ,ということです。そして,得られるサービスのとても大きな部分を,図書館などで文献を利用できることが占めています。したがって,下記の3つのサービスは,大学図書館をじっくり利用すれば,もしかしたら使う必要は無いかもしれません。ただ,社会人の方には,仕事などの関係で図書館でじっくりリサーチすることが難しい人も多いのではないかと思います。そういった方は,下記のサービスを使うことで,図書館に行く手間が省け,家である程度研究を進めることができると思います。また,いずれのサービスも,検索などがしやすくなっており,単純に文献を手元に置くよりも便利です。

日税研学生会員

 まずご紹介するのは,日本税務研究センター(日税研)の学生会員です。

www.jtri.or.jp

 日税研は,日本税理士会連合会と全国税理士共栄会が共同して設立したシンクタンクです。大崎に図書室があり,誰でも使えるので,利用したことがある人も多いかもしれません。私もしばしば使っています。
 日税研の学生会員になると上記リンクのとおり様々なサービスを受けられますが,特に大きいのは電子書籍サービスです。なんと,税研日税研論集税務事例研究および日税研究賞入選論文集を,創刊号から全てPDFファイルでインターネット上で読めます。いずれも税法を研究するにあたっては必読の雑誌ですが,特に税研の最新租税基本判例の特集は,近時の重要判例を網羅的に取り上げており,大変に重要です。
 学生会員は,上記リンクのとおり,他の賛助会員よりもとても会費が安いです。学生の身分があるうちにこれを利用しない手は無い,と個人的には考えます。

丸善リサーチ

 次にご紹介するのは,丸善リサーチです。

tax.maruzen-research.jp

 丸善リサーチは,株式会社Legal Technologyが運営する,税務に特化した書籍などのサブスクサービスです。中央経済社大蔵財務協会ぎょうせいなど,税務業界では知らない人が珍しいだろう出版社と提携しています。
 丸善リサーチは,利用料はそこそこしますが,それに見合う膨大な文献が登載されています。登載されている書籍を全て購入したらどれだけ費用がかかるのか見当もつきません。学術的な文献よりも実務的なものがメインですが,それを横断的に検索して読むことができるのは非常に便利です。私も,実務上の取扱いを調べたいときにはとりあえず丸善リサーチで検索をかけてみる,という使い方をしています。

TAINS

 最後にご紹介するのは,日税連税法データベース(TAINS)です。

www.tains.org

 TAINSは,主に判決文を読むためのデータベースです。日本税理士会連合会付属のデータベースであることから,税務関係に特化している点に特徴があります。
 判例データベースは,利用できる大学が多いかもしれません。ただし,大学内のネットワーク経由でないと使えない大学もあります。そういった場合には,家からは判決文を読むのが難しいという人もいるでしょう。また,TAINSには,判決文のみならず,行政内部の非公開の文書も数多く収録されています。UIも使いやすいですし,税法を研究する院生の方であれば,ぜひ利用を検討してみても良いのではないか,と思います。大学院生は,特別会員として,通常の会員よりも安く利用することができる場合があるようです。

おわりに

 以上,社会人院生として税法を研究する方にお勧めのサービスをご紹介してきました。
 なお,2点付言しておきます。まず,上記の3つは税法関係に特化したサブスクサービスですが,もう少し視野を広く持つと,サービスは他にもあります。たとえば,法学系については,有斐閣OnlineやLEGAL LIBRARYが挙げられます。税法を研究するうえでは他の法分野の知識も当然必要になりますので,これらのサービスも有用です。

yuhikaku.com

legal-library.jp

 また,無料でインターネット上に公開されている文献もぜひ活用しましょう。税務大学校が発行している税大論叢や税大ジャーナルが挙げられるかと思いますが,最近では,日本税法学会と日本租税理論学会が刊行後一定期間が過ぎた学会誌をアップロードしています。

www.nta.go.jp

www.nta.go.jp

zeihogakkai.com

j-ast.sakura.ne.jp

 さらに,これは税法とかそういった関係の話ではありませんが,各大学のリポジトリに,その大学の紀要などのデータがアップロードされています。たとえば,神奈川法学に書いた私の文章は,いずれも下記のリンクから読むことができます。このあたりの調べ方は,リーガルリサーチの本などを読んでご自身で学んでください。

kanagawa-u.repo.nii.ac.jp

 どれくらいキャンパスに行くことができるのか,大学が提供するデータベースのうち家で利用できるものはどれくらいあるのか,データベースに使えるお金がどれくらいあるかなど,個々人の状況によってどのサービスを使うべきか変わってくるとは思います。ただ,ぜひ,これらのサービスを上手く利用して効率的に大学院生活を乗り切って,充実した研究成果を生み出していただけたら,と税法を専門とする教員として願っています。

追記

(2024年3月24日追記)
 特に本文の内容に関係はないのですが,税法を研究しようとする方向けの情報ということで,下記の呟きも貼っておきます。なお,いずれも2024年度の情報ですので,ご注意ください。最新の情報は最新のシラバスをご確認ください。

*1:なお,各雑誌の電子版はこの記事では取り扱いません。予めご了承ください。

*2:なお,私個人の立場としては,税理士試験の科目免除だけを目的として大学院に進学することはあまりお勧めできないと考えています。法的思考を持った税理士として活躍することを目的として,その過程として修士号の取得を目的とすべきだと思います。私が受け入れる院生にはそのことを強調してから受け入れているつもりです。こちらの論文でも,「とりあえず資格がある」だけでは,税務行政のデジタル化が進むなかで税理士は厳しいのではないかという考えを示しています。

*3:ただし,日税研とTAINSからお仕事をいただいたことはあります。こちらこちらこちらの記事を参照。もっとも,この記事を書くことが条件だったとか,そういうわけではありません。

『よくわかる税法入門』の改訂に携わりました。

 有斐閣から近日発売される三木義一編著『よくわかる税法入門[第18版]』の改訂に携わりました。本日,見本を受け取りました。

www.yuhikaku.co.jp

 第15版から共著者に加えていただいて4回目の改訂になります。前回の改訂の際の記事として,下記参照。

taxfujima.hatenablog.com

 今回も,前の版から続いて所得税法に関する第6章~第8章を担当しました。
 今回の改訂では,これまで通りの細かな部分の改訂にくわえ,第6章に収入と所得の違いに関する記述を追加しました(64頁3段落目)。この点は,この後のいくらかの記述の前提となっているのですが,確たる言及が第17版まで無かったので付け加えました。この改訂については,自分の学部ゼミの学生からの質問で必要性に気づかされました。ご質問いただきありがとうございました。
 違法に得た利得でも所得に該当して所得税が課されることなど(66~67頁),私の執筆箇所に限っても,最近の話題に関連する論点が色々とあります。研究者や実務家の先生方,学生の皆さんはもちろんのこと,税制に少しでも興味がある方は,お手に取ってお読みいただけたらとても嬉しく思います。

最近の関心について

はじめに

 この記事は,来年度以降に向けた「棚卸し」のために,2024年3月時点で私が持っている関心を書き記しておくものです。
 記事の目的は,今後の研究方針をある程度整理しておきたいという個人的な事情がまずあります。将来的に「あの頃はこんなことに関心を持ってたなぁ」と振り返りたいという理由もあります。
 また,対外的には,現在私がどんな関心を持っているのか示しておくことで,依頼などをしやすくなるだろうか,という意図もあります。とはいえ,私自身まだまだ色々と不勉強ですし,下記の関心に添うものでなくとも,ご依頼いただけたら大変嬉しいです。

メインの関心

 私が今のところメインとしている関心は下記のものです。

債務免除益課税

 博士後期課程以来,継続的に取り組んでいるテーマです。主たる業績としては『債務免除益の課税理論』(勁草書房,2020年)があります。

 この書籍を書いて以降は,そこまで主体的に取り組んでいるわけではありません。ただ,新しい裁判例や論文が相次いで出ているので,継続的に取り組んでいます。詳しくはこちらのカテゴリーを参照。
 とはいえ,人的帰属の問題やそれに付随する三者間取引による債務免除益課税の問題,CFC税制における債務免除益の取扱いなど,残された課題はまだあります。また折を見てじっくりと取り組みたいとは思っています。

個人所得税と贈与

 就職前後から取り組み始めたテーマです。主たる業績としては下記のものがあります。

 2024年度から2027年度にかけて,このテーマで科学研究費(若手研究)を受領できることになったので,今後とも取り組んでいきたいと思っています。財産の取得に対する所得税の非課税と寄附金控除というこれまでの研究にくわえ,取得費の引継ぎや課税単位論あたりを議論していきます。
 債務免除益課税と合わせ,無償による利益移転と課税や,包括的所得概念の端っこの方におそらく興味があるのだろうと思います。

資金調達と所得課税

 上述のクラファンに関する議論から派生して取り組み始めたテーマです。主たる業績としては下記のものがあります。

 2023年度から2026年度にかけて,このテーマに関連して,こちらの科学研究費(基盤研究(C))の研究分担者に入れていただいています。債務免除益課税(負債による資金調達)と贈与(クラファンなどの新たな資金調達方法)を繋ぐ議論になりうると思っているので,今後とも頑張りたいです。

税務行政のデジタル化

 最近取り組み始めたテーマです。業績としては下記の論文があります。

 今まさにホットな議論なので,今後とも取り組んでいきます。実務家の先生方の前で,こちらのテーマで話す機会も多くいただいています。詳しくはこちらのカテゴリーを参照。
 2024年度の前半は,この議論をメインに取り組んでいくことになりそうです。上述の資金調達に関する研究テーマの一環として,デジタル化と税制という関心で取り組んでいます。

サブの関心

 今のところメインで取り組んでいるわけではないのですが,将来的にもっと頑張りたいと考えているテーマは色々とあります。いくらか挙げておきます。

消費税

 税理士試験で勉強していたこともあり,消費税法にはずっと関心を持っているのですが,なかなか取り組めていません。一応,下記の研究ノートは以前書きました。

 消費税の課税対象取引の要件についてしっかりと取り組みたいのですが,EU法の基礎的なところなど前提知識からまず勉強しなければならないと感じています。誰か教えてください。

租税徴収手続

 租税徴収手続については,下記のように第二次納税義務に関する裁判例について判例研究を書く機会をいただいたので,関心を持っています。

 訴訟も多いですし,徴収法についてはその現代化をふくめて根っこからの議論が必要なのかもしれないと思いつつ,まだ取り組めていません。

おわりに

 以上,最近の私の関心について書いてみました。特に今書いた理由はないのですが*1,私の最近の関心について知りたい奇特な方がいらしたら,この記事を参考にしていただけたら嬉しく思います。

*1:一番の理由は,電車に長く乗っていてかつ読みたいものが手元にないので少し時間ができた,ということです。