はじめに
この記事は,院生を指導している教員の立場から,税法を研究する社会人の大学院生の方にオススメの3つのサブスクサービスをご紹介するものです*1。この春から,税理士試験の科目免除などを目的として*2,大学院に進学される社会人の方もいらっしゃると思います。そういった方は,ぜひこの記事を読んで,ご紹介したサービスへのご加入をご検討いただけたらと思います。
なお,2点付言します。まず,私は後述するサービスをいずれも利用していますが,この記事を書くことで何か利益を受けているわけではありません*3。
それと,大学という場所自体を,私はサブスクサービスを提供する場所と捉えています。授業料や施設利用料を支払う(課金する)ことで,授業を受けられたり学生という身分を得られたりする場所だ,ということです。そして,得られるサービスのとても大きな部分を,図書館などで文献を利用できることが占めています。したがって,下記の3つのサービスは,大学図書館をじっくり利用すれば,もしかしたら使う必要は無いかもしれません。ただ,社会人の方には,仕事などの関係で図書館でじっくりリサーチすることが難しい人も多いのではないかと思います。そういった方は,下記のサービスを使うことで,図書館に行く手間が省け,家である程度研究を進めることができると思います。また,いずれのサービスも,検索などがしやすくなっており,単純に文献を手元に置くよりも便利です。
日税研学生会員
まずご紹介するのは,日本税務研究センター(日税研)の学生会員です。
日税研は,日本税理士会連合会と全国税理士共栄会が共同して設立したシンクタンクです。大崎に図書室があり,誰でも使えるので,利用したことがある人も多いかもしれません。私もしばしば使っています。
日税研の学生会員になると上記リンクのとおり様々なサービスを受けられますが,特に大きいのは電子書籍サービスです。なんと,税研,日税研論集,税務事例研究および日税研究賞入選論文集を,創刊号から全てPDFファイルでインターネット上で読めます。いずれも税法を研究するにあたっては必読の雑誌ですが,特に税研の最新租税基本判例の特集は,近時の重要判例を網羅的に取り上げており,大変に重要です。
学生会員は,上記リンクのとおり,他の賛助会員よりもとても会費が安いです。学生の身分があるうちにこれを利用しない手は無い,と個人的には考えます。
丸善リサーチ
次にご紹介するのは,丸善リサーチです。
丸善リサーチは,株式会社Legal Technologyが運営する,税務に特化した書籍などのサブスクサービスです。中央経済社や大蔵財務協会,ぎょうせいなど,税務業界では知らない人が珍しいだろう出版社と提携しています。
丸善リサーチは,利用料はそこそこしますが,それに見合う膨大な文献が登載されています。登載されている書籍を全て購入したらどれだけ費用がかかるのか見当もつきません。学術的な文献よりも実務的なものがメインですが,それを横断的に検索して読むことができるのは非常に便利です。私も,実務上の取扱いを調べたいときにはとりあえず丸善リサーチで検索をかけてみる,という使い方をしています。
TAINS
最後にご紹介するのは,日税連税法データベース(TAINS)です。
TAINSは,主に判決文を読むためのデータベースです。日本税理士会連合会付属のデータベースであることから,税務関係に特化している点に特徴があります。
判例データベースは,利用できる大学が多いかもしれません。ただし,大学内のネットワーク経由でないと使えない大学もあります。そういった場合には,家からは判決文を読むのが難しいという人もいるでしょう。また,TAINSには,判決文のみならず,行政内部の非公開の文書も数多く収録されています。UIも使いやすいですし,税法を研究する院生の方であれば,ぜひ利用を検討してみても良いのではないか,と思います。大学院生は,特別会員として,通常の会員よりも安く利用することができる場合があるようです。
おわりに
以上,社会人院生として税法を研究する方にお勧めのサービスをご紹介してきました。
なお,2点付言しておきます。まず,上記の3つは税法関係に特化したサブスクサービスですが,もう少し視野を広く持つと,サービスは他にもあります。たとえば,法学系については,有斐閣OnlineやLEGAL LIBRARYが挙げられます。税法を研究するうえでは他の法分野の知識も当然必要になりますので,これらのサービスも有用です。
また,無料でインターネット上に公開されている文献もぜひ活用しましょう。税務大学校が発行している税大論叢や税大ジャーナルが挙げられるかと思いますが,最近では,日本税法学会と日本租税理論学会が刊行後一定期間が過ぎた学会誌をアップロードしています。
さらに,これは税法とかそういった関係の話ではありませんが,各大学のリポジトリに,その大学の紀要などのデータがアップロードされています。たとえば,神奈川法学に書いた私の文章は,いずれも下記のリンクから読むことができます。このあたりの調べ方は,リーガルリサーチの本などを読んでご自身で学んでください。
どれくらいキャンパスに行くことができるのか,大学が提供するデータベースのうち家で利用できるものはどれくらいあるのか,データベースに使えるお金がどれくらいあるかなど,個々人の状況によってどのサービスを使うべきか変わってくるとは思います。ただ,ぜひ,これらのサービスを上手く利用して効率的に大学院生活を乗り切って,充実した研究成果を生み出していただけたら,と税法を専門とする教員として願っています。
追記
(2024年3月24日追記)
特に本文の内容に関係はないのですが,税法を研究しようとする方向けの情報ということで,下記の呟きも貼っておきます。なお,いずれも2024年度の情報ですので,ご注意ください。最新の情報は最新のシラバスをご確認ください。
シラバスが公開されたので情報を公開します。今年度から、神奈川大学大学院法学研究科では、税法に関する科目を大幅に増設します。具体的には、今年度から開講している下記の吉田正毅弁護士の租税手続法に関する科目に加えて、https://t.co/a7o2PANeBs
— 藤間大順(FUJIMA Hironobu) (@taxfujima) 2024年3月24日
髙橋里枝先生(武蔵野大学)をお招きして国際課税に関する科目を設置するほか、https://t.co/UNPRyUV7t1
— 藤間大順(FUJIMA Hironobu) (@taxfujima) 2024年3月24日
石川緑税理士をお招きして、資産課税に関する科目も設置します。https://t.co/SzgiJGT0OX
— 藤間大順(FUJIMA Hironobu) (@taxfujima) 2024年3月24日
*1:なお,各雑誌の電子版はこの記事では取り扱いません。予めご了承ください。
*2:なお,私個人の立場としては,税理士試験の科目免除だけを目的として大学院に進学することはあまりお勧めできないと考えています。法的思考を持った税理士として活躍することを目的として,その過程として修士号の取得を目的とすべきだと思います。私が受け入れる院生にはそのことを強調してから受け入れているつもりです。こちらの論文でも,「とりあえず資格がある」だけでは,税務行政のデジタル化が進むなかで税理士は厳しいのではないかという考えを示しています。
*3:ただし,日税研とTAINSからお仕事をいただいたことはあります。こちらとこちらとこちらの記事を参照。もっとも,この記事を書くことが条件だったとか,そういうわけではありません。