先日公刊された神奈川法学55巻1号に,拙稿「総合支援資金制度に係る債務免除益の非課税と所得控除:所得税が課されなかった所得を原資とする支出の控除制限に関する米国の議論を手掛かりとして」が掲載されました。
この論文は,令和4年度税制改正で設けられた総合支援資金制度に係る債務免除益の非課税規定(租税特別措置法41条の8第3項)につき,立法後に生じうる問題点を米国法との比較法的見地から検討したものです。緊急小口資金制度や総合支援資金制度と債務免除益課税については,下記のとおり,このブログにも記事を書いたことがあります。結果として立法的解決がされた,ということです。
また,この論文の内容については,下記の研究会にて報告の機会をいただきました。その節は,報告の機会を賜り,誠にありがとうございました。
米国では,コロナウイルス感染症の蔓延への対策として設けられた融資および返済免除の制度としてPPP(Paycheck Protection Program)というものがありますが,この制度の適用により納税者が享受した債務免除益について非課税規定が設けられています。この規定の適用を受けた納税者について,PPPから支出した経費の控除を制限すべきか,という議論が盛んに(特にTax Notes Federal誌上で)されましたが*1,結果としては立法により控除は制限されないことが明らかになりました。これらの米国の議論から,日本における上述の規定の適用を受けた納税者は所得控除を制限されるべきか,という議論をして,結果としては控除制限をされるべきではないという結論を述べています。
まだされていない議論を掘り起こして結果として消極に解する,といういわば「マッチポンプ」的な議論なので,どの程度書く価値があったのか,あまり自信はありません。ただ,「非課税所得を原資とする支出について控除が制限されるべきか」という点について日本では先行する議論があまりなかったように思うので,そういった新たな論点に気づくことができたのは書いて良かったのかもしれないと考えています。もっとも,具体的な問題を出発点にしたこともあり,一般的な立法政策論や法解釈論として詰めた議論をできたわけではなく,今後の課題がたくさんあります。今後とも,この周辺の問題については考えていきたいと思います。
今日,日本租税理論学会の研究大会にオンラインで参加しています*2。論文が公刊されたこともあり,研究にも一層励みたいな,という気持ちを新たにしています。「研究の秋」にできるように頑張ります。
(2022/11/18追記)
こちらの論文ですが,下記のとおり,神奈川大学のリポジトリに掲載されました。
ご笑覧を賜れますと幸いです。